南シナ海裁定で中国が反米デモ、アップルが標的の矢面に

2016年7月26日(火)11時26分

 国際的な論争の後に外国企業がボイコットに見舞われることの多い中国で、小規模かつ一時的ではあったが、米アップルも、最大の海外市場である同国で反米デモの標的となった。

南シナ海の領有権をめぐり、中国の主張を認めないとする国際仲裁裁判所の裁定を受け、異例にもアップルは不当のシンボルと見なされ、標的とされた。一部の非公式なアップル製品を売る店が包囲され、ソーシャルメディアのユーザーは自分のアップル製品を壊すよう互いに呼びかけた。

抗議は小規模なものだったが、専門家は、外交問題によって大規模なデモやボイコットが発生し、日本車の売り上げが約1年に及び落ち込んだことを挙げ、アップルへの長期的影響に懸念を示している。

「アップルや他の外国企業が、そのような愛国的抗議を防ぐためにできることはあまりない」と、調査会社カナリスのアナリスト、ニコール・ペン氏は指摘。同氏は、最近の抗議活動によるアップルの売り上げへの影響はないとみており、「こうしたことは数年に1度起きる」と語った。

この件についてアップルにコメントを求めたが、同社は応じなかった。

中国は世界最大のスマートフォン市場だが、個人消費が弱まり、経済成長も減速するなか、低価格端末を提供する国内スマホ最大手の小米科技(シャオミ)[XTC.UL]や通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]に対して、アップルは同国で増加する中間層への依存を一段と高めている。

また、アップルが中国で直面している他の課題に、規制当局との軋轢(あつれき)がある。同社は中国の規制強化を受け、電子書籍や映画配信サービスを今年停止した。また、北京の知的財産当局は5月、「iPhone(アイフォーン)」のデザインが中国企業の特許を侵害したと指摘している。

1─3月期における中国での売り上げは前年同期比で約25%減少。アップルは26日、4─6月期決算を発表するが、新製品の発売もなくさえない内容になると広く予想されている。

<形だけの抗議か>

アップルは、中国が侮辱の根源と見なす同社の国籍のせいで、最近の抗議活動のターゲットにされた。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は12日、南シナ海の大半に主権が及ぶとする中国の主張には法的根拠がないとの判断を下した。これに対し、中国メディアは、仲裁裁判所を外部勢力の「操り人形」だと呼び、同裁判所に異議申し立てを行ったフィリピンを中国と敵対するように仕向けたとして、米国を非難した。

同裁判所の裁定から1週間後となる19日、中国東部、江蘇省徐州市のケイ寧県で、100人を超える抗議者が非公式のアップル製品販売店4店舗を約3時間取り囲み、同社の正規品を買わないよう顧客に訴えた。

「彼らは『米国製品をボイコットしろ。アイフォーンを中国から追い出せ』と繰り返していた」と、店のオーナー、Zhu Yaweiさんはロイターに語った。「でも実際には何も起こらなかった。衝突も破壊も」

抗議活動の動画は中国のソーシャルメディアで拡散し、アップルに反対するコメントや、同国ではステータスシンボルと見なされるアイフォーンが破壊された写真がミニブログ「微博(ウェイボー)」などにあふれた。

その一方で、中国国営メディアが自制を促したこともあり、アップルを支持するコメントも、同じくらい見受けられた。

「安いナショナリズムで、全くばかげている」と語るのは、上海の弁護士事務所でアシスタントをしている23歳のShan Mimiさん。「でも、(今後発売される)アイフォーン7をくれるなら、喜んで私のアイフォーン6を粉々にする」

ある若い中国人女性はウェイボーで、自分のアイフォーンを破壊したと、壊れた端末の写真と一緒に投稿した。しかしその後、女性はロイターにうそを付いていたと明かした。

「自分のアイフォーンを壊したりはしなかった。インターネットで(壊れた端末の)写真を見つけて投稿し、ストレスを発散した」と、L-Tinと名乗る21歳のこの女性は語った。「アップル製品をボイコットするなんて、失業するだけ。中国人の多くがアップルのために働いているのだから」



[香港 24日 ロイター]

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