中国の裁判所が借金逃れに「恥さらし」作戦、駅で顔写真公開
上海の鉄道駅で行き交う大勢の通勤者の頭上に、大きな4つの掲示板がある。発車時刻を表示するスクリーンに挟まれた一部の掲示板には、中規模な工業製品メーカー経営者の名前が表示されている。
しかし、会社や自社製品の宣伝をしているわけではない。
上海の鉄道運輸裁判所が今月、この経営者の名前を掲示した。290万元(約4600万円)の負債を支払うことができなかったからだ。2年前には、浙江省にある別の裁判所が、中国建設銀行への借金返済が滞っているとして、同社に資産凍結を命じていた。
中国の経済成長が減速するにつれ、経営難に陥る事業主はローン返済がますます困難になっていると感じている。5月末時点で、中国の銀行が抱える不良債権は2990億ドル(約31兆8000億円)を超える。ただしアナリストによれば、実際の水準はそれよりはるかに高いとみている。
このような状況に対処するため、中国の裁判所は恥をかかせる奇策に打って出ている。
中国の最高裁判所に相当する最高人民法院のトップである周強氏は3月、同裁判所が発行する新聞によると、返済逃れは大きな問題であり、裁きを逃れようとしても「隠れる場所はどこにもない」と語ったという。
15日までの10日間で、個人債務者あるいは事業主20人の氏名、IDナンバー、住所、負債額などが10分間隔で、上海の主要な鉄道駅2駅のスクリーンに掲示された。なかには、写真付きの場合もあった。
「不誠実な債務者を防ぐ重要な戦略だ」と、上海鉄道運輸裁判所のプレスリリースにはある。
同プレスリリースによると、掲示された一部の債務者は電話番号や住所を変更して行方をくらましており、市民に情報提供を呼びかけているという。
資産の凍結や売却といった通常の方法はうまくいっていない。「あまりに多くの案件があるにもかかわらず、判事が少なすぎる」と、金杜法律事務所で金融法務を担当する弁護士、Wu Zhendong氏は指摘する。
中国の国家工商行政管理局(SAIC)が昨年末に出した法令は、企業が公に辱めを受けてもよいとする状況を規定している。
この発令は、不誠実な債務者の情報は新聞、ラジオ、テレビ、インターネットで公開できるとする最高人民法院の裁定(2013年)が基となっている。
<反響なし>
上海以外にある裁判所では以前からこのような対策を講じてきたが、上海の裁判所は今年になってようやくそれを取り入れている。
だが必ずしも市民から反響があるわけではない。
上海の普陀区人民法院では5月、人気ショッピングモール5カ所の外に設置された電光掲示板に債務者76人の情報を公開したが、これらの行方に関する情報など、市民からの反応は全くなかったという。
上海の裁判所も情報提供者に報奨を提供しなかった。最高人民法院の新聞に掲載された発表によれば、債務者340万人以上の情報が公開され、そのうち1割が「債務を弁済した」という。
公での辱めは中国では目新しいことではなく、昔は犯罪行為を処罰する手段として使われていたと、浙江大学の歴史学教授であるWuYanhong氏は言う。
個人情報の掲載は必ずしもプライバシーの権利に矛盾しないとし、「プライバシーの権利を主張できるのは、伴う義務を果たすことが前提だ」と同氏は語った。
<帰省できず>
支払いを拒否する債務者に対抗するため、中国の裁判所はそのような債務者が休暇に出かけたり、子供を私立学校に行かせたり、高額な改修をしたり、飛行機や列車に乗ったりすることを禁止できる2014年の法律を行使するケースが増えていると、弁護士らは言う。
最高人民法院の発表によれば、同法が施行されてから、約78万2000人が列車に、390万人が飛行機に乗ることを禁じられている。中国では列車や飛行機のチケットを購入する際には、IDカードやパスポート番号の提示が求められる。
「訴えられ、裁判所に返済を命じられたが、私にはカネがない。政府からは高速鉄道や飛行機に乗ることを禁じられた」と語るのは、Zhangという姓だけを名乗る債務者の男性だ。
Zhangさんは、詐欺に遭ったので返済できないと主張する。
「私の父は80歳だが、春節(旧正月)に帰省して父に会うこともできない。捕まってしまうからね」と、Zhangさんは話した。
(Engen Tham記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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