焦点:米越の関係改善、南シナ海狙う中国の「頭痛の種」に

2016年5月31日(火)08時46分

[香港/北京 27日 ロイター] - 米国とベトナムの関係強化は、南シナ海をめぐる中国の戦略見通しを一気に複雑化してしまった。

オバマ米大統領は、ベトナムへの武器禁輸措置を全面解除するという歴史的な政策転換により、任期最後のアジア歴訪における同国訪問を飾ったが、それは直接中国に向けられたものではないと繰り返し強調した。

しかし、かつて敵国だったベトナムと米国が完全に関係を正常化したことは、中国にとって短期的にも長期的にも戦略的な頭痛の種になるだろうと、同地域の軍事筋や安全保障専門家は指摘する。

専門家によれば、運用面において中国は短期的に、ベトナムが中国軍への監視を強化するために米国からレーダーやセンサー、偵察機やドローンを手に入れる可能性に直面することになる。

長期的には、オバマ政権のアジア重視戦略において、ベトナムが主要な役割を担うことを意味する。米軍事産業は、ベトナムへの高額な兵器販売をロシアと張り合うことになる。また、南シナ海でベストな自然港であるカムラン湾を使用するという米海軍が長年抱いてきた願いがかなう可能性があると、軍事筋はみている。

外交筋によれば、たとえベトナムが軍事同盟に向けた正式ないかなる措置を避けたとしても、中国の領有権主張をめぐり、政治的な協力や情報共有の拡大がなされる可能性があるという。

このような動きは、ベトナムの軍事戦略家の目的と一致するものだ。彼らは急速に近代化する中国軍が再度べトナムを攻撃することに対する代償を高めたいとロイターに語っていた。

1980年代に中国との国境で起きた紛争や88年の南沙(英語名スプラトリー)諸島における海戦よりも、今後に起きる中国との戦いははるかに困難なものとなることをベトナムは理解している。

<外交に依存>

中国当局は今のところ、反応を示してはいない。

だが中国はベトナムが近代兵器を入手し、それらを南シナ海に配備することを注視していると、元外交官で、中国国際問題研究院の阮宋澤氏は指摘。「これが中国とベトナムの領有権問題に影響する可能性はない、とは言えない」と述べた。

中国本土の安全保障を専門とする嶺南大学(香港)の張泊匯教授は、ベトナムの政策立案者たちは近代的な中国軍には勝てないと分かっている故、中国と安定した関係を維持するためには外交に頼らざるを得なかったとの見方を示した。

オバマ大統領がベトナムを訪問した後でも、このような状況は今後も続くとみられると、張教授は指摘。同大統領のベトナム訪問を「最も安上がりな防衛手段」と評し、「ベトナムは米国を抑止戦力の強化に組み入れようとしている。中国との関係を深めるには、米国というカードを使わなければならない」と語った。

<カムラン湾>

米海軍当局者は、ベトナムへの寄港を徐々に増やしたいが、中国に圧力をかけ過ぎることに対するベトナムの懸念を承知していると話す。

ベトナム当局は、カムラン湾に外国艦船の寄港を受け入れる新たな国際港の開港を3月に発表した際、ベトナム軍の報道資料によれば、中国軍は正式な招待を受けた最初の外国軍の1つに含まれていた。

米海軍の入港は現在、長年計画されてきた正式な業務事項だが、米艦船がカムラン湾に定期的に寄港できるようにするには、提供協定が長期的な選択肢の1つだと、米軍当局者は語る。

安全保障専門家によると、例えば寄港が少し増えるだけでも、南シナ海における中国の活動を複雑化するという。中国は現在、スプラトリー諸島に建造した7つの人工島で進める軍民両用の施設建設に重点を置いている。

中国は自国の領土として、南シナ海の80%を主張。一方、台湾、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ブルネイも、世界で最も重要な航路の1つである同海域の一部で、領有権を中国と争っている。

武器禁輸措置の解除は、米国の武器製造業者にベトナムだけでなく、急速に開発が進む他の東南アジア諸国でも商機を与えることになると、タイのプラウィット副首相兼国防相の軍事顧問は指摘する。

「米国には、ラオスやカンボジアのような、ロシアや中国の武器を使っているさまざまな国において機会と需要が開かれている。こうした国々の経済は拡大しているが、武器は古いので商機はある」

(Greg Torode記者、Megha Rajagopalan記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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