焦点:消えた石油増産凍結、サウジが態度を翻した理由

2016年4月20日(水)08時29分

[ドーハ 18日 ロイター] - 合意は既定路線と見られていた主要産油国の増産凍結協議が、サウジアラビアの反対で決裂した。サウジが直前になって手のひらを返すに至った舞台裏を探った。

石油輸出国機構(OPEC)加盟国、非加盟国合わせた18カ国は17日、カタールの首都ドーハで開いた会合で、用意されていた合意文書に署名するばかりになっていた。合意を期待して原油価格は上がり、トレーダーは退屈な会合だと高をくくっていた。

暗雲が漂い始めたのは、イスタンブールでイスラム協力機構(OIC)首脳会議が開かれた15日。会議出席者らはイランがテロ行為を支えていると批判し、会議後にサウジのサルマン国王とイランのロウハニ大統領がカメラの前でさや当てを演じた。

凍てついた雰囲気は出席者の間でも、ドーハで会議を見守っていたOPEC関係者らの間でも直ちに話題に上った。

ロイターが取材したOPECおよび石油業界筋のだれ1人として、OIC首脳会議が増産凍結合意の決裂に直接関係したとは述べていない。しかしイスラム教スンニ派のサウジと、シーア派であるイランの間に横たわる不信感の深さが垣間見えたと、彼らは指摘する。

15日以降、状況は坂道を転げ落ちるように悪化していく。

複数の関係筋によると、サウジは17日の会合の数日前になってカタールに対し、会議に出席できるのは増産凍結の用意がある国だけだと主張、イランの招待を取り消すよう迫った。

1月に制裁を解除されたイランはかねて、市場シェアを回復したい意向を示していた。そして増産凍結を提唱するベネズエラとロシアが、イラン抜きでも合意するようサウジを説得してくれるだろうと踏んでいた。

前出の関係筋らによると、サウジはカタールに対し、イランが増産凍結に合意する気もなく会議に表れるようなら、交渉は決裂だ、と言い渡した。

<サプライズに次ぐサプライズ>

石油業界筋によると、増産凍結合意を訴える急先鋒がカタールのタミム首相だった。1月にはこの構想を伝えることだけを目的に、モスクワのプーチン大統領を訪問したほどだ。

カタールは15日、細心の外交戦術を通じてイランにメッセージを伝え、同国は数時間後、会議欠席に快く応じた。会議参加者はほっと胸をなでおろした。

しかし、それだけでは不十分だった。

サウジでは、石油問題の最高責任者であるムハンマド副皇太子が16日公表のインタビューで、イランを含むすべての産油国が増産凍結に合意しない限り、サウジは生産を抑制しないと言い放つ。

ヌアイミ石油鉱物資源相も同日、同じ内容を発言。合意はここに崩れ去った。

両者がどの時点でこうした結論に至ったのか、また同じ理由で結論を下したのかどうかは不明だ。

サウジの動機はイランを罰することだけではなかったのかもしれない。関係筋らによると、あまり早く相場を回復させることで、米産油業者などの商売敵が再び生産を拡大するのに手を貸したくなかった可能性もある。

しかし関係筋によると1つだけ確かなことがある。サウジの同盟国である湾岸諸国が直ちにヌアイミ氏と歩調を合わせたとはいえ、同氏の決定は完全なサプライズだったことだ。

このことが浮き彫りにするのは、伝統的にクウェートやアラブ首長国連邦(UAE)、カタールに相談して物事を進めてきたサウジの姿勢が、ムハンマド皇太子を主役とする、自己主張が強く現実主義的な新指導部の下で変化しつつあることだ。

2014年末に原油価格が急落を始めたのは、サウジが、米シェール業者などよりコスト高の生産手を市場から追い落とそうと、生産を拡大してからだった。

複数の関係筋によると、ロシアのエネルギー相は17日、ヌアイミ氏に、何らかの形で拘束力のある増産凍結合意を結ぶことは可能だろうか、と尋ねた。

市場シェアをめぐる新たな戦いの勃発を告げるかのように、ヌアイミ氏の返答は「ノー」だった。

PVMブローカレッジのマネジングディレクター、デービッド・ハフトン氏は「サウジがまたしても他の産油国に鉄槌を下した。シェール生産者および、つかの間の相場復活に望みを託すシェール業者の債権者にとって、とどめの一撃となるはずだ」と語った。

(Vladimir Soldatkin、 Sam Wilkin、 Tom Finn記者)

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