アングル:通貨介入で膨れたスイスの外貨準備、いつ縮小か

2017年8月23日(水)09時20分

[チューリヒ 21日 ロイター] - 主要な中央銀行が膨張したバランスシートの縮小に動いているが、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)が為替市場介入によって積み上げた外貨準備の削減に着手できるのは、何年も先になりそうだ。

欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備理事会(FRB)は金融政策の正常化にじりじりと近付いており、市場はSNBが抱える巨額の外貨準備の行方にも思いを巡らせ始めた。

スイスの外貨準備は過去10年で7倍の7750億スイスフラン(8000億ドル)に膨らみ、国内総生産(GDP)に対する比率は120%近くと、世界最大だ。為替レートの変動によりこの外貨準備が損失を負う可能性があるため、SNBが利益を納付している連邦、州政府からの政治的圧力が高まる可能性がある。

しかしSNBは今後何年間もバランスシートを縮小できそうにない。外貨準備を構成する外国の債券や株式を売却した場合、SNBはまず、売却代金として得た外貨をフランに転換する必要がある。

セント・ゲーラー・カントナルバンクのアナリスト、トーマス・スタッキ氏は「バランスシートの縮小はまず無理だ。縮小するにはフランを買い戻す必要があるが、そうするとフランが再び上昇する。これは正にSNBが避けたいことだ」と語った。

<フラン高の恐れ>

ユーロは過去6カ月間でフランに対して6%上昇したが、朝鮮半島情勢の緊張など、地政学的リスクが再燃すれば、フランはすぐに反発する可能性がある。

また、外貨準備データの詳細を見れば、SNBが資産を売却したことはすぐに分かるため、それがフラン買いの引き金になるかもしれない。

議会の財政経済委員会メンバー、トーマス・エスキ氏は「他の中銀がバランスシートの縮小を始める時が、SNBにとっても同様の行動を起こすチャンスだ。しかし単純に事を進めればフランは強くなり過ぎ、輸出業者が再び問題を抱える」と話す。

多くのアナリストは、ECBが金融引き締めを始め、フランの魅力が薄れるまでSNBは静観すると予想している。

しかしSNBは2015年1月、ユーロに対するフランの上限を突然撤廃して市場を仰天させたことがあり、今後も何らヒントを示さないままに金融政策の正常化を始めるかもしれない。

スイスの景気と輸出が改善すれば、SNBが動く余地も生まれそうだ。また、スイスの資産運用会社が資金をフラン資産に引き揚げるのを止め、ユーロ圏への投資を再開すれば、長期的な基調転換となるためSNBは外貨準備の縮小に自信を持てるかもしれない。

しかし、現在1ユーロ=1.1350フラン前後で推移しているフランが再び1.20フランに下落するぐらいでは、SNBは慎重姿勢を解かないだろう。

スタッキ氏は「SNBは板挟みになっている。バランスシートから数十億ドルを削ることは可能かもしれないが、少なくとも向こう数年間は現状に我慢するしかないだろう」と語った。

(John Revill記者 Angelika Gruber記者)

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