アングル:ECBの出口政策、テーパータントラム再燃回避か

2017年8月23日(水)08時37分

[ロンドン 21日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)の金融緩和によって新興国のユーロ建て債務の残高は過去最高に達しており、ECBが緩和縮小を慎重に進めるのは間違いない。ただ、新興国のユーロ建て債務はドル建てに比べれば規模が小さく、ECBは出口政策で米連邦準備理事会(FRB)の二の舞を避けられそうだ。

ECBが月額600億ユーロの債券買い入れの縮小開始を目指そうとしていることは、FRBが量的緩和縮小の意向を示して新興国市場が大混乱した2013年の「テーパータントラム」を思い起こさせる。

当時新興国では株式市場から3カ月間で約5000億ドルが流出し、国債利回りが平均1%ポイント上昇。一部の通貨は対ドルで20%も下落した。

今回は、FRBの代わりにECBが舞台に登場してきた。関係筋によると、ドラギ総裁は24日から米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれる経済シンポジウムで金融政策について新たなメッセージを発することはないとみられるが、総裁は9月か10月のECB理事会で出口問題を取り上げるとの観測が高まっている。

しかしUBSのストラテジストのマニク・ナライン氏は、ユーロ圏で量的緩和の縮小が始まっても米国における緩和縮小ほどの打撃にはならない、とみている。「ECBのテーパリング(段階的な緩和縮小)も影響を及ぼすだろうだが、FRBほどでないのは確実だ」という。

ECBはドラギ総裁の下、今回の金融緩和で2兆ユーロ強の資金を供給。これに呼応し、新興国の政府、企業、家計はこぞって低コストのユーロ建てで借り入れに動いた。

国際決済銀行(BIS)のデータによると、新興国のユーロ建て債務(債券と銀行借り入れを含む)は過去7年間でほぼ1000億ユーロ増えて約2500億ユーロとなった。メキシコだけでも420億ユーロ以上と、2010年以降で4倍に膨らんだ。

しかし新興国のドル建て債務は1兆7000億ドルと、ユーロ建てを大幅に上回っている。つまり新興国はドイツ国債などユーロ圏で指標となる国債の利回りよりも米国債利回りの変動に影響されやすい。

ナライン氏は「新興国は債務の大半がユーロ建てではなくドル建てで、企業セクターもドル建て調達に大きく傾いている。他の条件が一緒ならば、利回りが50ベーシスポイント(bp)動いたときの影響はドイツ国債よりも米国債の方が遥かに大きい」と述べた。

逆に新興国の株式・債券への投資の面でも、欧州は米国に後れを取っている。UBSの調査によると、先進国の低利回り通貨で資金を調達して新興国の高利回り通貨に投資する「キャリートレード」は60%以上をドル建てが占める。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)の試算によると、昨年6月時点のユーロ圏の新興国通貨建て債務への投資残高は約4070億ユーロだった。BAMLの新興市場クロスアセット戦略部門の責任者、デービッド・ホーナー氏によると、この数字は2013年12月からほとんど変わっておらず、ECBの量的緩和の期間中も欧州の投資家が大挙して新興国債券投資に動くことはなかったという。

実際のところ、新興国債券への資金流入の大半は2009年にFRBが資産買い入れに乗り出し、ECBが銀行への無制限の資金供給を開始した時期に重なっている。

国際金融協会(IIF)の分析もこうした見方を裏付けている。IIFの推計によると、新興国の株式・債券への資金流入はFRBの資産買い入れがピークだった2012─13年には2000億─3000億ドルに達していたが、ECBの量的緩和が最も膨らんだ昨年は1000億ドルに落ち込んだ。

(Marc Jones、Sujata Rao記者)

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