焦点:債券市場のESG投資、ベネズエラ敬遠を契機に拡大か

2017年8月18日(金)12時26分

[ロンドン 16日 ロイター] - ベネズエラのマドゥロ政権による反体制派の弾圧を嫌い、一部の機関投資家が同国債の保有を敬遠している。これをきっかけに、他の新興国債券についても環境、社会、ガバナンス(ESG)を投資の判断基準とする動きが広がるかもしれない。

株式でESG投資が根付いているのに対し、債券市場のそれはまだ緒に就いたばかりだ。

調査会社eベストメントによると、新興国市場債の投資戦略、総額7002億ドルのうち、ESGを考慮した投資は3分の1に満たない。

しかし年金基金の圧力により、最近は資産運用会社や格付け会社がESGの採用を検討し始めた。

ベネズエラ債については、既に多くのファンドが保有を減らしている。

先週はクレディ・スイスが一部ベネズエラ債の絡む取引を中止した。スタンダード・ライフ・インベストメンツも6月、社会的責任投資(SRI)原則にそぐわないためベネズエラへの投資を止めると発表した。

ブルーベイ・アセット・マネジメントも今年、マドゥロ大統領が強権政治を強めるリスクがあるとしてベネズエラ債への投資を削減。同債は今年約10%下落したため、純粋に金銭的に見てもこの判断は成果を上げた。

ブルーベイのESG投資リスク責任者、My-Linh Ngo氏は「ベネズエラで起こっていることは倫理問題だが、次第に投資問題の様相も強まっている」と話した。

Ngo氏によると、債券投資では株式ほど倫理問題が考慮されていないが、今では顧客のうち3社に1社からこの問題について問い合わせがある。

もっとも、新興国市場全体を見渡すと、ESGを基準に投資先をふるいにかけることは難しい。最も高い利益が見込めるのは、大規模な汚染を引き起こし、労働者との関係も悪い企業であったりするからだ。

倫理基準を当てはめるのが難しい面もある。特にフロンティア市場では汚職が日常茶飯事で、例えば今年、国際市場で起債したエルサルバドルはトランスペアレンシー・インターナショナルが算出する「汚職認知指数」で176カ国中95位に位置する。

アリアンツ・グローバル・インベスターズのポートフォリオマネジャー、シャハザド・ハサン氏は「もちろんベネズエラのことは懸念しているが、ESGを満たしていない新興国は枚挙にいとまがない。エジプトやトルコの市民権はどうだ」と話した。

ただ、ロベコとエラスムス大学が2016年に実施した調査によると、過去25年間で政治リスクが改善した新興国市場の債券は、悪化した市場の債券をアウトパフォームした。

一部の格付け会社もESGを信用評価に組み込み始めている。ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、同社が格付けを付与している債券約3兆2000億ドルの一部は、低炭素経済への移行によって、短期的にあるいは5年以内に信用力が落ちていく見通しだ。この中には炭鉱会社や自動車メーカー、公益企業が含まれる。

スイスの資産運用会社UBPの新興国債券責任者、ドゥニ・ジロー氏は、最終的にはファンドと格付け会社双方にとってESGが重要になると予想。「プライシングに影響を及ぼすようになれば、弾みがつきそうだ。ESG格付けの高い債券は需要が高まるため、競合相手に比べて利回りが圧縮されるだろう」と話した。

(Claire Milhench記者)

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