象牙取引(下):見えないネット取引実態、日米ヤフーに温度差

2017年1月17日(火)23時53分

[東京/サンフランシスコ 17日 ロイター] - 日本で象牙取引のオークションサイトを提供しているヤフーに対し、野生生物保護団体だけでなく、実は身内からも不安視する声が出ている。声の主はヤフーにブランドライセンスなどを供与している米ヤフーだ。

関係者によると、米ヤフーは再三にわたり、この問題に関してヤフーと協議しているが、ヤフーは首を縦に振らないという。

<象牙市場縮小もネット取引は増加>

トラフィックによると、日本の象牙市場の規模は1989年には200億円だったが、2014年には20億円と10分の1に縮小した。こうした中、逆に増えているのがインターネットを利用した取引だ。

国際環境保護団体「環境調査エージェンシー」(EIA)と特定非営利活動法人トラ・ゾウ保護基金(東京都港区)の調べでは、ヤフーオークション(ヤフオク)における「本象牙」の落札件数、金額はともに2005年以降右肩上がりになっており、とりわけ2011年、13年、14年には急カーブを描いている。

全形牙は2009年から2015年までの7年間に約1800本(ゾウの頭数換算で約1000頭分)、分割牙は同じ7年間で20万トン以上(同約6000頭分)が落札されたという。

インターネットでの取引増加を踏まえ、トラ・ゾウ保護基金は「日本の国内象牙市場における潜在的需要は1989年の象牙取引禁止以前の規模へと復活の道を歩み始めている」との懸念を示し、象牙市場の即時閉鎖を訴えている。

これに対して、ヤフーは「ヤフオクでは日々膨大な取引が行われており、詳細の条件を持つ象牙の集計は困難を極める。調査データは根拠のある数字ではない」(広報担当者)と反論。ヤフオクでの取引が増加していることについては「リアルでの取引が電子商取引に置き換わっているためだ」(同)との見方を示している。

<アフリカゾウ保全成功で逆に獣害も>

「グレート・エレファント・センサス」などの調査によると、アフリカゾウは国際取引が禁止されて以降、個体数は回復傾向を示していたものの、2007年ころから密猟により再び減少に転じ、この7年間で全体の約3割に当たる14万頭が減った。近年、年間2─3万頭のペースで密猟されていると言われており、15━20分に1頭の割合で殺されている計算となる。

ただ、全体では減少しているものの、国ごとにみると増減まちまちで、これが議論を複雑化させる要因にもなっている。現在、アフリカゾウの管理は全体で減少していることを念頭に対策が立てられているが、保全に成功している一部の国では、農作物が荒らされたり、人が襲われたりする「獣害」も発生している。

環境省の担当者は「保全に成功した国は少数なので国際社会には届きにくいが、彼らの声をしっかり受け止めないと、保全しても生活が脅かされて密猟時代の方が良かったということなりかねない。保全が地域住民にもメリットになる制度設計が必要だ」と話す。

<「日本は閉鎖すべき市場ではない」>

昨年10月に開催されたワシントン条約締約国会議では、すべての国に対して象牙の国内市場閉鎖を求める勧告が採択された。取引を続ける日本にとっては一見厳しい内容に映るが、閉鎖を求める市場は「密猟や違法取引に寄与する」国内市場に限定されており、「政府がしっかり管理している日本市場は閉鎖すべき市場には当たらない」(環境省)との立場だ。

だが、先に紹介した登録制度のように、管理の甘さを指摘する野生生物保護団体は少なくない。

トラフィックの若尾ジャパンオフィス代表は「わたしたちは密猟の原因が日本に市場があるからだとは考えていないが、このまま何もしなくていいとも思っていない」と指摘。「日本政府が制度の抜け穴をふさぐ対応をしないのであれば、残念だが象牙取引はあきらめるしかない」と話す。

<批判の矢面に立つヤフー、取り組み強化>

トラ・ゾウ保護基金は、ヤフーと親会社のソフトバンクグループに対して、象牙取引を止めるようインターネットで署名を呼びかけている。国際的な社会運動サイト「Avaaz」では、150万人の目標に対して、145万人超の署名が集まった。

こうした批判にさらされてまで、ヤフーはなぜ象牙取引の場を提供し続けるのか。

ヤフー幹部は「損得だけを考えれば、今すぐ中止した方が楽だが、それはすべきではない。恣意(しい)的に運営すれば、利用者の信頼を失いかねない」と話す。取引を継続している背景には「日本の象牙取引はアフリカゾウの密猟には直接的には関係していない」という認識が大前提にあるが、ヤフーはこの問題を多様性の尊重はプラットフォーマーの責務という観点でとらえている。

先の環境省の担当者は「まっとうな商売している人や、普通に出品している人がいわれなき批判を受けて、その市場を閉じることには反対だ」と語る。

ヤフーも手をこまねいているわけではない。あるヤフー関係者は「うちの弱みは数字を取っていなかったことだ」と述べ、批判に対して反論できる材料を取るためNGOと提携し、外部の目でチェックしてもらう仕組みを導入することを明らかにした。

「たとえば抜き打ち検査で違法出品の数や比率を調べてもらって、その数字を毎年公表する。数字が上がったら対策をとり、数字が下がったら現在の対策が有効だという仕組みを取り入れたい。自分達で検査するとお手盛りという声が出てくるので、第三者の厳しい目でチェックしてもらう」という。

この関係者によると、現在ヤフーは月3万件程度をパトロールして、このうち違法取引は数件程度あるという。

さらに生息国における保全の取り組みへの経済的支援も検討。具体的には野生生物の密猟対策活動を支援するために寄付を予定している。

<日米ヤフーで意見対立、議論は継続>

関係者によると、米ヤフーのマリッサ・メイヤー最高経営責任者(CEO)は象牙取引に対する懸念をヤフーの宮坂学社長や取締役に幾度となく伝えているが、議論は平行線のままだ。

ロイターの問い合わせに対して、ヤフーの広報担当者は米ヤフーと象牙の取り扱いに関して継続的に議論していることを認めたが、内容については明らかにしなかった。

象牙取引をめぐっては、楽天もヤフーと同様のポリシーで運用しているが、「現在、全形の象牙は出品されていない」(広報担当者)という。

象牙市場閉鎖をかたくなに拒むヤフー。先の関係者は「インターネットの良さは小さいマーケットとか、端っこの方にいた人達も取引に参加できるところにあり、そこを殺してしまうと良さがなくなってしまう」と話す。

*カテゴリーを変更しました。

(志田義寧 取材協力:ティム・ケリー、デボラ・トッド)

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