焦点:高値突破の日本株に様相変化、中長期マネー流入で円安離れも

2016年12月9日(金)16時31分

[東京 9日 ロイター] - 日経平均株価は9日の取引で年初来高値を突破し、昨年末以来の1万9000円台回復を達成した。円安進行が一服する中での株高は、海外年金やオイルマネーなど中長期資金が「主役」との見方が浮上している。ただ、バリュエーションの上昇に警戒感も広がりやすく、日本株を押し上げてきたトランプノミクスへの期待が剥落すれば、思わぬ急落もあると楽観論を戒める声もある。

<現物株が先物売買上回る>

11月8日の米大統領選以降、円安による業績改善期待が、日本株における「トランプ相場」の原動力だった。

だが、12月に入ってドル/円は113─114円台でのもみあい。一方、日経平均は約3.8%上昇するなど、日本株と為替が乖離し始めている。

その要因と考えられているのが、買い主体の変化だ。海外投資家は10月以降、買い越しに転じたが、現物と先物を分けてみると、買い越し額は現物株が約2兆円に対し、先物は約2.2兆円。ヘッジファンドなど短期筋が上昇相場を主導したとみられる「状況証拠」になっている。

しかし、最新データの11月第5週分は、先物が2023億円の買い越しに対し、現物株は4148億円の買い越しと逆転。「オイルマネーや海外年金勢など中長期の資金が入り始めているとの観測が出ている」(国内投信ファンドマネジャー)という。

日本株投資を行う一部の海外投資家は、円安による目減りを防ぐために、日本株買いと同時に円売り注文を出す。円安に動けば、円売りポジションからの利益が出るためだ。

だが、中長期資金を運用する海外投資家の場合は「為替でのヘッジ手段をとらずに日本株を売買するケースも多い」(国内証券)ようだ。

ドル建て日経平均は円安のためトランプ相場でもほとんど上昇してこなかったが、足元で円安進行に頼らずに日経平均が上昇しており、米大統領選後の高値を抜けてきている。中長期投資家にとっては、日本株の魅力が増す要因となる。

<日銀ETF買いの影響も>

長期的な視点では、日銀によるETF(上場投資信託)の大量買いが、日本株と円の相関を崩したとの指摘もある。

トムソン・ロイターのデータによると、日経平均とドル/円の過去250日の相関係数は今年7月下旬までは0.90弱で推移していた。1に近ければ近いほどドル高/円安時に日経平均が上昇する関係性が強いことが示されるが、8月以降は低下を続け、足元では0.61となっている。

日銀がETFの年間買い入れ額を3.3兆円から6兆円に増額することを決めたのが7月29日。相関係数が低下したタイミングと重なる。調整局面で円安/株高の巻き戻しが起きても、日銀の買いが日本株を下支えする「需給的にゆがんだ状況」(国内証券)が、連動性の低下に結び付いた可能性が高い。

さらに直近では、好需給の中で到来した「トランプラリー」に乗り遅れた投資家が、日本株の押し目を狙う構図となっている。「長期政権が期待できる日本株は選好されやすい。割安に放置された銘柄は売りが出にくく、いったん資金が入れば上昇基調をたどりやすい」(藍沢証券・投資顧問室ファンドマネジャーの三井郁男氏)という。

<期待と現実>

もっとも、8日時点の日経平均の予想PER(株価収益率)は16.23倍。「チャイナショック」前後の2015年8月18日(16.43倍)以来の高水準だ。「企業業績が上方修正含みの局面では決して割高ではないが、バリュエーション面ではアベノミクス相場の上限に接近しつつあり、調整入りの可能性もある」(三木証券・投資情報部課長の北澤淳氏)との見方が出ている。

円安とバリュー株シフトをもたらした米長期金利の上昇も、ここに来てピッチが鈍っている。10年米国債利回りは一時2.5%に接近したが、足元では2.4%台と伸び悩んでいる。

株高の起点となった米金利が低下に転じれば、為替のみならず、バリュー株として物色された景気敏感・金融セクターの巻き戻しの契機となり、日本株を押し下げる可能性もある。

三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジストの市川雅浩氏は「米次期政権の政策期待で、米長期金利は水準を切り上げた。一段の押し上げには具体的な中身が必要。しっかりした中身でない限り、米金利上昇は徐々に厳しくなる」とみる。

投資家の不安心理の度合いを示すとされる日経平均ボラティリティー指数は9日、一時16ポイント台まで低下し、年初来の低水準を記録した。下値不安が後退したとの見方が広がる一方、トランプ次期米大統領への政策期待に依存した足元の相場は、陶酔から覚めた際に反転しかねないもろさも内包する。

(長田善行 編集:田巻一彦)

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