アングル:新興国通貨安は日本企業にデメリットも、部品調達のコスト増に

2016年12月8日(木)16時28分

[東京 8日 ロイター] - 「トランプ現象」によるドル高進行と並行し、新興国通貨が下落している。新興国で生産している日系自動車メーカーにとっては、輸出採算の好転要因だが、実態はより複雑。部品調達率の低い製品では、新興国通貨安がコスト増につながる面もあるからだ。2017年もドル高/新興国通貨安が続くとの見方もあり、対ドルでの円安メリット減衰リスクも警戒されている。

<謳歌しにくいメキシコペソ安>

日本の自動車メーカーは、今や6割以上を日本国外で生産している。現地で販売する車を作るだけでなく、そこを足場に別の国へ輸出するケースも増えてきた。円安が日本からの輸出採算を改善するように、現地通貨安は海外から海外への輸出にメリットとなりそうだが、そう簡単な図式ではないようだ。

米大統領選挙後、最も下落した通貨の1つがメキシコペソ。トランプ氏が「国境に壁を作る」と発言していたこともあり、11月8日から12月7日までに対ドルで約10%下落、史上最安値圏となっている。

ホンダはメキシコで3車種を生産しているが、部品の現地調達率は「CR─V」が83%、「HR━V」が60%、「フィット」が35%とばらつきがある。海外から調達しなければならない部品も多く、ペソ安は仕入れコストの上昇につながる。

今年のメキシコの自動車販売は活況で、ホンダは1─11月の販売台数が前年同期比20.5%と市場の伸びを上回った。米国から「シビック」や「アコード」など完成車の輸入が増えており、「フィット」や「HR━V」などを米国に輸出しているとはいえ、トータルでは対ドルでのペソ安は減益影響につながる可能性がある。

日産自動車はメキシコで年間70─80万台生産。このうち半分以上を北米や中南米に輸出しているが、同社関係者からは「メキシコ国内にあるサプライヤーも原材料を米国から購入しているところが多いことを考えれば、完成車の輸出が多いからといって、ペソ安を全てエンジョイできるわけではない」との声も聞かれる。

<ブラジルレアルにも先安観>

一方、新興国通貨の上昇が業績にプラスのケースもある。ブラジルレアルは、史上最安値圏だった前年に比べてドル安/レアル高。部品の調達コストが改善。同通貨ペアの為替影響はホンダにとって16年7─9月期の業績押し上げ要因となった。

ただ、ブラジルレアルも米大統領選後をみれば安くなっている。11月8日から12月7日までに対ドルで6.3%下落しており、ブラジル中銀の利下げ観測などから一段安の予想も出ている。

トヨタ自動車のブラジル工場も、ドル建て部品を海外から調達し、現地で組み立てている。レアルが安くなれば仕入コストが上がる構図だ。

トヨタは16年4─9月期の対ドルの為替影響額が、メキシコペソとブラジルレアルでマイナス50億円と同規模だった。同期間中にメキシコペソが13.8%安、レアルが1.7%安となるなかで影響額が同じになったことを踏まえると、同じ新興国通貨安でもレアル安の方がより影響が大きいとみられる。

ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、今後、ブラジル中銀は景気の改善を目指して緩やかな利下げを続けると予想。そのうえで「ドル高相場が続くなか、これまでパフォーマンスが比較的安定していたブラジルレアルも下げが大きくなる」との見方を示している。

<拡散する為替リスク>

調査会社IHSオートモーティブがまとめたライトビークル(乗用車および車両総重量6トン未満の商用車)の販売予測によると、日系自動車メーカーの全世界販売に対する新興国比率は16年の45%から、25年に56%まで高まる見通しだ。メキシコやブラジルのように「外国─外国」という物流も拡大し、外国通貨同士の為替変動リスクが拡散している。

みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は「トランプ氏が大統領に就任するまで具体的な政策が出てこないであろうことを考えれば、年内はドル高基調が止まる理由はない。政治不安のある新興国の通貨は売られやすい」と指摘。「新興国が資金流出に耐え続けていかなかればならないことを忘れてはいけない」と話す。

米大統領選後、対ドルで円安が10円以上進行した。日本の自動車大手の決算ではドル高/円安の影響が大きく出てくることから、「トランプ相場」の新興国通貨安のデメリットは円安メリットでカバーできる可能性が高い。ただ、マーケットが今後も拡大することを踏まえれば、新興国リスクへの警戒は怠れない。

(杉山健太郎 編集:伊賀大記、田巻一彦)

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