アングル:イエレン講演後もドル安リスク、米早期利上げに懐疑的

2016年8月24日(水)18時09分

[東京 24日 ロイター] - ドル/円の上値が重い局面が続いている。週末のイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長講演への思惑はくすぶるが、市場では米早期利上げに懐疑的な見方が根強い。

先週のFRB高官のタカ派寄り発言を受けたドル高地合いも一過性にとどまっており、仮に9月に米利上げがあってもドル高は長続きしないとの見方も出ている。

<FRB高官のタカ派発言>

17日発表の7月米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、利上げ前にさらに経済指標を見極める必要があるとの見方で参加者がおおむね一致していたことが判明。利上げに前向きなタカ派トーンを期待した向きには肩透かしとなり、ドル売り地合いとなっていた。

ところがその後、FOMCの主要メンバーによるタカ派発言が相次ぎ、米金利やドル/円は上昇で反応した。フィッシャーFRB副議長は21日、完全雇用および2%の物価上昇率という目標に近づいているとの見解を示した。ハト派と目されたニューヨーク連銀のダドリー総裁も先週、9月の利上げもあり得ると発言した。

こうした発言を受け、ドル強気派は「強い雇用統計の発表はFOMC後だった。利上げに向けたFRBのタカ派スタンスは、FOMC声明より強まっている可能性がある」(国内金融機関)と期待を寄せる。

<FRB議長講演めぐる思惑>

ただ、ドル高の流れは強まっていない。原油価格持ち直しの動きが失速したことや、米株価の伸び悩みが背景にあると指摘されるが「多少のリスクオフではく落するほど、米早期利上げへの市場の期待感は脆弱」(邦銀)との見方も聞かれる。

週末のイエレン議長講演は、FRB高官らのタカ派寄りの見方を追認するかどうかが焦点になる。読み筋の大勢は、FOMC声明を踏襲し、タカ派色に偏らない路線になる、というものだ。

みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、足元で米雇用統計以外の経済指標はふるわず、7月と状況は変わっていないとして「(早期利上げを)正当化する状況にない」と指摘する。三井住友信託銀行のマーケット・ストラテジスト、瀬良礼子氏は「市場インパクトがあまり生じないような発言が予想され、相場も反応しにくい」とみている。

三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト、内田稔氏は、9月利上げが明確に必要なほど物価上昇が盛り上がっているわけではないが、米雇用統計は2カ月連続で市場予想を上回っており、年内利上げを諦めるほど弱気でもないはずと指摘、「結局、指標次第という話になり、どっちつかずになりそうだ」と予想する。

<円売り出やすい状況でも、くすぶる円高リスク>

今回の局面ではイエレン議長に近い2人からタカ派寄りの発言が出ていることに注目する向きもある。仮にイエレン議長が彼らの一連の発言を追認する姿勢を示せば、早期利上げ期待が急速に高まる可能性がある。

米商品先物取引委員会(CFTC)のまとめたIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組(8月16日までの1週間)によると、投機筋の円の買い越しは、7月上旬以来の高水準となる5万6006枚に拡大しており「ポジション調整の円売りが出やすい状況」(別の国内金融機関)とされる。

もっとも、タカ派期待の高まりから9月FOMCにかけてドル/円が上昇するなら、戻り売りのチャンスとみる向きもある。みずほ銀行の唐鎌氏は「仮に9月利上げでドル高/円安となっても、持続力は乏しいだろう。ドル高が米経済の重しになる構図は変わっていない」と指摘している。

米金利が上昇すればドル高は支援されるが、株価が崩れるなら円高が促されかねない。バンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフFXストラテジスト、山田修輔氏は「米経済への懸念が残る中でタカ派色が強まっても、ドル/円は上がりにくい」と指摘している。

(平田紀之  編集:石田仁志)

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