アングル:香港・深セン相互取引、A株のMSCI採用は期待薄

2016年8月20日(土)07時27分

[香港 18日 ロイター] - 中国政府は今週、香港と深センの株式相互取引を年内に解禁することを承認した。だがこれによって、国際的な運用指針となっているMSCIの新興国市場株価指数に人民元建てA株が採用される流れが一気に加速することはなさそうだ。外国人投資家にとって中国株投資にはなおいくつかのハードルがある。

中国は、MSCI指数にA株を組み入れてもらった上で、今後10年間で最大4000億ドルを国内株式市場に呼び込むという算盤をはじく。A株を含まなければ国際的な指数として不完全だとも主張している。

しかし今から1年半前に上海と香港の株式相互取引が始まって以来、多くの外国人のファンドマネジャーはいまだにこの制度を利用できない状況にある。制約となっているのは受益所有権に絡む法的な問題や実務面の障害だ。

その意味では、香港と深センの相互取引が認められたことでMSCIがA株指数採用を決める公算は小さい、と投資家やアナリストは予想している。

BNPパリバ・インベストメント・パートナーズのアジア太平洋株式株責任者、アーサー・クウォン氏は「A株は指数採用に一歩近づいているが、MSCIが目を向けるべき他の問題が存在する」と指摘した。

<残る宿題>

MSCIは今年6月に3年続けてA株の指数採用見送りを決めた際に、中国は市場開放に向けてもっとやるべきことがあると説明した。

香港取引所の李小加(チャールズ・リー)最高経営責任者(CEO)も今週、深センとの相互取引承認でA株は指数採用への「正しい軌道」に乗ったと語ったものの、MSCIが提起したすべての問題は払しょくされていないと認めた。

MSCIは中国側に、適格外国機関投資家(QFII)制度を通じた投資で中国国外への自由な資金還流を容認し、A株関連の投資商品販売に伴う事前の許可申請義務を撤廃してほしいと要望。また最近実施された株式取引の売買停止措置の縮小や新たな投資枠の導入が実効性を持つかどうか見極めたいとしている。

ただし香港と深センの相互取引は、これらの懸案を直ちに解決するわけではない。中国の規制当局はこれまでMSCIの要望をかなえてきたとはいえ、今回の問題については取り組むのかどうか、あるいは取り組むとしたらいつになるかは明らかにしていない。

パインブリッジ・インベストメンツで香港を拠点とするポートフォリオマネジャー、ウィルフレッド・ソン・ケン・ポー氏は「資本移動や売買停止、A株関連投資商品販売の制限をめぐる懸念はまだ解決の途上にある」と述べた。

<享受できない恩恵>

中国政府は香港と深センの相互取引とともに、外国人投資家の投資総額上限を撤廃する方針も打ち出した。それでも多くの欧米投資家は、受益所有権に関する問題のためにそうした恩恵を享受できない。

上海の投資コンサルティング会社Z─ベン・アドバイザーズの調査責任者アイバン・シー氏は「香港と深センの相互取引は、A株のMSCI指数採用にとって前提条件ではなく付加的な条件にすぎない。受益所有権をめぐる枠組みが変更される可能性に言及されなかった点は恐らくは、大手資産運用会社や機関投資家が相互接続を利用する上でプラスに働かないだろう」とみている。

ロイターは6月にMSCIのグローバル責任者レミー・ブライアンド氏に、香港と深センの相互接続および投資上限撤廃があればA株の指数採用に動くかと質問した。これに対して同氏は、そうした措置は「好ましい」としながらも、投資家の多くが受益所有権問題のためにこの制度を利用したがらず、現時点では相互接続制度は投資アクセス上の懸案を解消する内容になっていないと回答していた。

(Michelle Price記者)

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