焦点:荒れる日本市場、政策報道で右往左往 効果の議論なく

2016年7月27日(水)18時56分

[東京 27日 ロイター] - 日本市場が荒れている。経済対策や追加緩和への思惑でドル/円や日本株が大きく振れる展開だ。ほぼ完全雇用状態とみられている日本で、大型の経済政策を打つ意味や効果に関する議論は置き去りにされ、事業規模や「真水」の多寡だけが短期売買の材料にされている。

<報道に一喜一憂>

日本政府は来週、経済対策を閣議決定する予定だが、27日の市場では、この経済対策に関する報道や要人発言で相場が大きく振れる展開となった。

経済対策の事業規模は20兆円程度というのが市場観測の大勢だったが、27兆円になりそうだと一部で報じられると、株高・円安が加速。日経平均は400円超の上昇、ドル/円は一時106円台に上昇するなど、朝方に比べ2円近く上げ幅を拡大した。

日本政府が50年債の発行を検討するとの報道も市場の思惑を強めた。「大型の経済対策に国債発行。日銀が国債購入増をともなう追加緩和に踏み切るとの思惑もあり、疑似的にせよヘリコプターマネー(ヘリマネ)の色彩が強まるとみた短期筋が円売り・株買いに動いた」(国内証券トレーダー)という。

50年債に関しては、ロイターが午後、発行検討の事実はないとする財務省理財局の見解を伝えると、日本株とドル/円は上昇幅を縮めた。その後、安倍晋三首相が福岡市内での講演で、経済対策の事業規模が28兆円超になるとの見通しを示したことた伝わると、株高・円安が再開するという目まぐるしい展開となった。

<ヘッドラインだけに反応>

エコノミストが注目しているのは、経済対策の「真水」部分だ。国や地方が直接行う財政支出で、国内総生産(GDP)を押し上げる効果が期待できる。

一方、事業規模は「真水」に加え、中小企業向けの資金繰り支援なども含まれる。この部分で実際に資金がどれだけ出るかは、企業の借り入れ次第で、28兆円という数字はあくまでも全体の「枠」に過ぎない。

安倍首相はこの日の講演で財政措置(真水)は13兆円になるとの見通しを示したが、これには財政投融資が含まれる可能性も高い。財政投融資を除く国の支出分にしても、2016年度第2次補正予算だけの数字か、17年度当初予算などを含めた数年間の予算総額を示すのか、明らかにはなっていない。

「13兆円が減税など今年度のものであれば、円債市場への影響はあるが、従来言われているような財政投融資を含めた金額で、複数年度になる可能性が高いので市場への影響は限られるだろう」とSMBC日興証券・金融財政アナリストの末澤豪謙氏はみる。

それにもかかわらず、日本株やドル/円が反応したのは、短期筋が報道の見出しだけで売買しているからに過ぎない。「特に海外の短期筋はヘリマネの匂いがする報道には非常に敏感に反応する」(別の国内証券トレーダー)という。

<経済対策は必要なのか>

こうした派手な短期売買の勢いに弾かれるかのように、市場ですっかり沈静化してしまっているのが、経済対策の必要性や効果に関する議論だ。

日本の失業率は5月時点で3.2%程度。多くのエコノミストが構造失業率と同程度と試算している。有効求人倍率は24年7カ月ぶりの高水準。GDPは一進一退だが、英国のEU(欧州連合)離脱にともなう混乱も今のところ押さえられている。

需給ギャップは、内閣府試算で1─3月期マイナス1.1%程度(5.5兆円程度)とまだあり、消費や物価も弱い。ギャップを埋める意味で対策を打つ理由がないわけではないが、今回の施策のタイミングや規模については懐疑的な見方もある。

「いまの日本はほぼ完全雇用状態にある。人手が不足して公共投資もままならない。事業規模にせよ、真水にせよ、大型の経済対策が本当に必要なのかは疑問だ」とりそな銀行・アセットマネジメント部チーフ・エコノミストの黒瀬浩一氏は指摘する。

市場には、ヘリマネ的な政策が日本経済に必要な潜在成長率の引き上げに寄与するか、疑問を呈する声もある。

さらに「経済対策の事業規模が28兆円超と当初の想定より大きくなったのは、真水部分が小さそうだとして26日に株価が下がったためではないか」(日本アジア証券・グローバル・マーケティング部次長の清水三津雄氏)との見方も出ている。

政策に関する報道で株価や為替が短期筋の売買で大きく振れ、それによって政策の規模や骨格が影響されてしまうなら、将来の禍根となりかねない。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

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