アングル:ポンド安で英企業買収に好機到来、夏場以降に件数増加か

2016年7月25日(月)16時30分

[ロンドン 24日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱決定を受けたポンド安を機に、英国企業を割安で買収しようと機会を探る外国企業が目立っている。トムソン・ロイターのデータによると、6月23日の国民投票以降、外国企業による英国企業の買収案件は約60件、買収総額は345億ドルに達した。

これは国民投票までの1カ間と比べると、案件数こそ79件から減ったものの、買収総額は43億ドルから大幅に拡大した。ソフトバンクによる英半導体設計ARMホールディングスの買収(320億ドル)が大きな割合を占めた格好だ。

英国がEU離脱を決めれば、国内経済やEU単一市場へのアクセスをめぐる不透明感からM&A(合併・買収)が一定期間枯渇するのではないかとの見方があったものの、ひとまずは否定されたといえる。

英国企業に関心を持つ外国企業の事情に詳しい複数のバンカーによると、夏場を過ぎれば英国企業の買収が増える可能性もあるという。

ソフトバンクによるARM買収について、英国政府は同国経済の底堅さを示すものだと指摘。しかし、M&Aを専門とするバンカーによると、国民投票後の買収案件のうちいくつかは、英国経済に対する強気の見方というよりも為替レート要因で英国企業に比較的割安感が出たことのほうが要因としては大きいという。ポンドは国民投票後に31年ぶりの安値を付けた。

法律事務所ハーバート・スミス・フリーヒルズのUKコーポレート部門責任者、ベン・ワード氏は「買収機会であることは明白だ」と指摘。「ドル、人民元、円という強い通貨圏の人々は間違いなく健全なポンド建て資産の獲得に関心を抱くだろう」と述べた。

国民投票以降の買収案件にはこのほか、南アフリカの小売り大手シュタインホフ・インターナショナルが英格安小売りのポンドランドを約6億ポンドで買収合意した案件などがあった。

<数年前に決裂した案件も復活>

ロンドン在勤の一部バンカーによると、航空宇宙、住宅建設、小売りといったセクターの英国企業はキャッシュリッチな外国企業に敵対的買収を仕掛けられると感じている。

JPモルガンのグローバルM&A部門共同責任者、ハーナン・クリスターナ氏は「海外のライバル企業に不必要な買収機会を与えないよう顧客企業を支えている」と話す。

また、関係筋によると、米国とアジアの複合企業は英国企業が割安となっている機会を生かそうとしており、中には価格面で折り合わずに数年前に決裂した案件に再び取り組むため、銀行とアドバイス契約を結んだ外国企業もあるという。

<ソフトバンクによる有用な教訓>

一方、価格面の話を除けば、外国企業にとって英国企業の買収は難しい判断を迫られることになる。英国とEUの将来の関係をめぐる不透明感を評価しなければならないためだ。

巨額の買収案件は政府の厳しい審査に直面する可能性もある。メイ英首相は「戦略的に重要」とみなす英国企業を対象とする外国企業による買収には反対すると表明している。

しかし、複数の銀行筋によると、英国政府からすぐさま歓迎の声が上がったソフトバンクによる友好的なARM買収は、国民投票後のM&Aにとって有用な教訓を示したという。

ソフトバンクは向こう5年でARMの英国人員を2倍に増やし、ケンブリッジ本社を維持すると約束した。

助言会社ペレーラ・ワインバーグのパートナー、パウロ・ペレイラ氏は「『政争の具』があまりにも多いため、敏感なセクターで大きな契約を交わしたいなら事前に一定の譲歩を検討し始めるのが賢明だ」と述べた。

(Pamela Barbaglia記者、Freya Berry記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子)

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