焦点:過熱する不動産融資、中国主要銀に不良債権の長い影

2016年5月26日(木)13時49分

[香港 25日 ロイター] - 中国の主要銀行は住宅購入者や不動産デベロッパー向けの貸し出しを加速させ、少なくとも世界金融危機以降で最高の水準に達している。相場過熱や企業の債務負担増を受けて不動産市場が悪化すれば、銀行は危機に瀕する可能性がある。

ロイターが財務諸表を分析したところ、中国の5大銀行の住宅ローンおよび不動産向け融資は、2015年末に前年比11%増の12兆4000億元(1兆9000億ドル)に達し、融資全体の28%を占めた。

製造業や運輸業向けの融資を上回って最大の比率を占めており、これに不動産を担保にした融資を含めると全体の40%超と、7年前の約26%から増大している。

中国の5大銀行は中国工商銀行(ICBC)、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行、交通銀行。

中国工商銀行(ICBC)や中国銀行など大手銀行が貸し出しを増やすなか、中国の大都市の不動産価格は急騰し、バブル崩壊が近いとの懸念が一部でささやかれる状況となっている。

格付け大手フィッチ・レーティングスの金融機関担当アソシエイトディレクター、ジャック・ユアン氏は「懸念は2つある。融資の担保として不動産への依存が増していることと、不動産価格が過熱ともいうべき水準に達していることだ」と指摘。「仮に価格が急落すれば、かなり深刻な結果をもたらす可能性がある」と話す。

多くのデベロッパーは、中国で2013年後半まで8年間続いた不動産バブルの影響ですでに重い債務を背負っている。中国経済が四半世紀ぶりの成長鈍化に陥り、大都市以外では不動産市場がまだ停滞する中で、債務は膨らみ続けている。

陽光新業 は借り入れに積極的なデベロッパーの1つ。同社は先週、現在の61億元の負債に加え、新たに3億元を借り入れると発表した。ただ、同社の売上高は2015年に半減しており、現在のキャッシュフローでは返済に17年かかることになる。

スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は今年3月、中国不動産デベロッパーの信用格付けに関するリスクを警告した。収益低下にもかかわらず、土地や建設に投じる資本を増やし、レバレッジを高めているというのだ。特に「一線都市」や「二線都市」で高騰した土地を購入した企業は、価格下落によって危険に陥りかねない、と同社は指摘した。

住宅ローンがもたらすリスクも高まっている。仏投資銀行ナティクシスの調査によると、今年第1・四半期の住宅販売総額1兆6000億元に対し、1兆元の新規住宅ローンが組まれたという。ローン資産価値比率(LTV)は62%となり、前期の28%から急上昇している。

<デフォルト事例も>

2014年以来6度にわたる利下げと頭金比率の規制緩和を背景に、4月には「一線都市」の平均住宅価格が4年ぶりの大幅上昇となった。特に、深セン市と上海市の値上がりが目立っている。政府統計によると過去1年にそれぞれ62.4%と28%の上昇率を記録した。

ルミナンス・グローバル・ファンド(シンガポール)の株式ファンドマネジャー、ロシャン・パドマダン氏は「放物線状の値上がりは崩壊の前触れだ。実体経済を反映していない」と指摘。「不動産市場は中国銀行セクターに深刻な不安定要素をもたらす可能性がある」と述べた。

中国の商業銀行の資産の質にも大きな疑問符がつく。不動産セクターの債務不履行(デフォルト)などかつては想定できなかったが、2014年3月に浙江興潤置業投資が銀行融資を返済できなくなり、その10カ月後には不動産大手の佳兆業集団(カイサ・グループ) がドル建て債の金利を支払えず、デフォルトに陥った。

中国の銀行規制当局によると、銀行の不良債権はすでに11年ぶり高水準となり、全体の約2%を占めている。しかし多くのアナリストは状況はずっと深刻だとの見方をしている。

CLSA(香港)は、実際の数字は15─19%だとみている。英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)はどんなに楽観的な試算でも15%はあり、おそらく最低35%だろうとしている。

最大手の中国工商銀の場合、最新の年次報告書によると、2015年に不動産デベロッパーに対する新たな減損処理が前年比で3倍に増えた。工商銀は同セクターに対する「リスク管理を強化」し、未返済融資の監視と分析に力を入れたと報告書の中で説明している。

5大銀行はコメントの求めに応じなかった。中国人民銀行(中央銀行)からもコメントは得られていない。

*見出しを修正しました。

(記者:Sumeet Chatterjee、 Patturaja; Murugaboopathy 翻訳:長谷川晶子 編集:加藤京子)

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