焦点:三井住友FGによる運用会社子会社化、求められる独立性確保

2016年5月26日(木)12時51分

[東京 26日 ロイター] - 三井住友フィナンシャルグループは、傘下の三井住友銀行が40%出資する資産運用会社、三井住友アセットマネジメント(SMAM)を連結子会社化し、資産運用ビジネスの収益取り込みに動き出した。しかし、投資家の利益を最優先する「フィディーシャリー・デューティー」(広義の受託者責任)の徹底が世界の潮流となっている中で、これをどのように担保し、経営の独立性をどのように確保するのかが大きな課題となりそうだ。

<海外から不信の眼差し>

「日本の資産運用会社は、利益相反を適切に管理しているのか」――。金融庁幹部によると、こうした懸念が海外の運用会社から寄せられている。

日本の運用業界の特色の1つは、証券や銀行、保険などの金融グループに属している会社が多い点だ。このため親会社の利益かさ上げのためにビジネスを展開しているのではないか、との疑念が付きまとってきた。

例えば、投資信託の販売手数料。販売を担う証券会社や銀行に手数料が落ちやすい運用商品を組成しているのではないか、との指摘が専門家から提起されている。

資産運用会社の議決権行使にも同様の批判がある。株式を保有する企業の取締役選任の議決権を行使する際、本当に株主の利益の観点から行使しているのかどうか。親会社である証券会社や銀行が取引している場合、親会社の利益を優先させ、現取締役会を追認しているのではないか、との懸念が存在している。

<フィディーシャリー・デューティーで変わる運用業界>

運用会社は、顧客の個人や企業年金ら投資家の利益と親会社の利益との相反に直面

する可能性がある。その際に、投資家の利益を優先させ、これを担保させるため米欧諸国で採用されてきたのがフィディーシャリー・デューティーだ。

金融庁は運用会社に対し、顧客である投資家の利益やニーズを最優先に位置付けるフィディーシャリー・デューティーを全うするよう求めている。

こうした流れを意識した仕組み作りも広がってきた。みずほフィナンシャルグループと第一生命保険は、今年10月に両社の系列資産運用会社を統合して設立する新会社で、議決権の保有割合と経済持ち分を分けるスキームを導入した。議決権は、みずほ51%、第一生命49%とする一方で、経済持ち分はみずほ70%、第一生命30%とした。その上で、取締役会はみずほ、第一がそれぞれ3人ずつ指名する取締役のほか、社外取締役3人で構成。「みずほも第一も過半数を得ておらず、社外取締役を入れることでけん制機能が働く。これにより独立性を高めた」(みずほ広報)という。

<「口出ししない」ことも選択肢>

三井住友FGは、三井住友アセットの株式について、日本生命保険の傘下に入った三井生命保険が保有する株式5%全てと、住友生命保険と三井住友海上火災保険がそれぞれ保有する27.5%の一部を取得し、出資比率を60%に引き上げる。「みずほや三菱UFJフィナンシャル・グループと異なり、子会社に資産運用会社を持っていない弱点の解消」(グループ幹部)がようやく果たされることになる。

三井住友アセットは、業界中堅ながら運用業界の改革で先陣を切ってきた。同社の横山邦男社長は、三井住友銀行からの「天下りトップ」にもかかわらず、親会社とのしがらみを断ち切る改革を進めてきた。

顧客利益の最大化をうたった「フィディーシャリー・デューティー宣言」を早い段階で採用、具体的なアクションプランも作成した。販売や運用の手数料の透明化にも迅速に対応してきた。

フィディーシャリー・デューティーが形骸化していないかをチェックするために同社が設けた有識者による第三者委員会は、改革の陣頭指揮を執ってきた横山邦男社長の人事さえも「天下り」だとして、議論の俎上(そじょう)に乗せるほど徹底しているという。

こうした改革の動きは、三井住友FGの傘下に入ることで停滞しないのか。5月中旬の決算会見で問われた三井住友FGの宮田孝一社長は「三井住友FGの連結対象になったがゆえに、SMAMの独立性や、投資家のために頑張るという姿勢が緩まないように工夫する。口を出さないことも含めて大事だと認識している」と語った。

SMAMの横山社長は6月、日本郵政 グループの日本郵便社長に転出する。三井住友FGは、後任社長をグループから派遣する方向で調整しているが、どのようなトップを据えるのかが試金石になりそうだ。

運用業界の改革に取り組んできたHCアセットマネジメントの森本紀行社長は「フィディーシャリ―・デューティーの徹底が運用会社としての企業価値を高める。変革をマネジメントできる社長を送ることが重要だ」と話している。

*写真を差し替えて再送しました。

(布施太郎 編集:田巻一彦)

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