アングル:「影の銀行」への回帰強める中国の斜陽産業

2016年5月26日(木)08時09分

[上海 25日 ロイター] - 中国では、激しい逆風にさらされている産業が基盤を置く一部地域で、銀行の企業に対する貸出態度が厳しさを増し、これらの企業はいわゆる「影の銀行(シャドーバンキング)」に再び依存するしかない状況に追い込まれている──。ロイターが人民銀行(中央銀行)の統計を分析したところ、こうした構図が浮かび上がってきた。

影の銀行は2014年に野放図な拡大を懸念した中国当局からいったん締め付けを受けた。しかし鉄鋼や石炭などが盛んないくつかの省では、足元でまた企業が伝統的な銀行よりもずっと高い金利で影の銀行から借り入れる傾向が鮮明だ。例えば重工業が活発な遼寧省においては、第1・四半期の影の銀行からの企業借入額は前年同期比で2000%を超える増加となった。同省内の資金調達額全体は前年同期から1%しか増えていない中で、調達先別で影の銀行の比重が19%を占めている。

上海のある資産運用会社のディレクターは「経済のしくみがきちんとしており、とりわけ地方債市場を大いに利用できる地域は、影の銀行への回帰度合いはそれほど大きくない。だがより経済規模が小さく、貧しい地域は事情が異なる」と述べた。

米国風には「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼べる地域で影の銀行からの借り入れが再度急増したのは、伝統的な銀行が長年培ってきた考え方を放棄していることの表れだ。つまり、国有企業(SOE)への融資は、地元政府がほぼ間違いなく救済してくれるのでリスクフリーとみなせるという認識は、捨て去られつつある。

過去半年間で増え続けた社債のデフォルト(債務不履行)はSOEで、その多くは旧来型の産業に属している。

またデフォルトの増加は、政府がこうした産業の過剰設備を整理しようとする取り組みの裏返しでもある。ただ、これらの産業に対する影の銀行の融資が裏付けとなる「理財商品」を個人投資家が購入することで、社債市場から個人投資家へとリスクの背負い手が移り変わるリスクが増大している。

もっとも伝統的な銀行としては、エコノミストが唱えるような経済成長持続のためのより効率的な信用供与を実現するためには、実情に即した信用リスクを融資に反映させなければならない。そしてこうした状況が実際にある程度起こりつつあるようなのだ。

人民銀行の統計によると、経済的により富裕な地域では第1・四半期も銀行借り入れはおおむね容易で、商業銀行の融資は過去最高水準を記録した。富裕地域の中で、第1・四半期に借入額全体に対する影の銀行のシェアが増えたのは上海だけだった。

対照的に湖北省、山西省、吉林省、安徽省、河南省、四川省、山東省においては、影の銀行からの融資が第1・四半期に240─249%増加。中国全体での増加率の30%を大きく上回った。

<当局の変化>

14年に当局が影の銀行への規制に乗り出した際には、社債のデフォルトを慎重な態度で容認し始めたが、その多くは結果的に救済を受けた。

しかし今年の場合はもっと事態は深刻だ。これまでに確認されただけでもデフォルトは20件超と未曾有のペースで、特に過剰生産問題を抱える産業では多くの企業が25年ぶりの低成長のもたらす痛みを感じている。

それでも政策担当者は、自力での存続が難しい「ゾンビ」SOEへの厳しいコメントを相次いで発し、かつてと態度は一変した。このため4月に入ると社債が急激に売り込まれ、信用スプレッドは2012年以降で最も拡大した。投資家が個別の発行体ごとのリスクを織り込み始めたからだ。

先の上海の資産運用会社ディレクターは「4月全体で見ると、ゾンビSOEへの政府の行動とメッセージは非常に整合的でわかりやすかった」と指摘した。

4月20日には人民銀行が金融機関に、石炭・鉄鋼企業の「合理的な」資金調達ニーズは支えるべきだが、ずっと赤字を垂れ流して競争力を失っている企業からの融資は「断固として圧縮し、引き揚げる」よう促した。

(Nathaniel Taplin記者)

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