増税・補正規模・解散、強まる政策不透明感 日本株は方向性欠く

2016年5月25日(水)16時41分

[東京 25日 ロイター] - 政策の先行き不透明感が増すなか、日本株は方向性を欠く動きとなっている。延期をほぼ織り込んでいた消費増税に予定通り実施の可能性が浮上。第2次補正予算の規模予測が立てにくくなり、日銀追加緩和や衆参同日選の可能性も連動して変化する展開に直面している。「変数」が多過ぎると投資家の多くは様子見となり、足元の日本株の売買代金は今年最低水準に落ち込んでいる。

<消費増税実施も視野に>

ここにきて読みにくくなってきたのが、2017年4月に予定されている10%への消費税率引き上げの有無だ。

多くの市場参加者は延期で決まりと見込んでいたが、麻生太郎財務相が21日の日米財務相会談で予定通り実施する旨を伝えたことが明らかになると、にわかに「増税実施がありうるかもしれない」(国内証券ストラテジスト)の見方が市場でも浮上。週明け23日の日経平均は一時300円を超える下落となった。

萩生田光一官房副長官も24日、ロイターとのインタビューで、消費増税について「特別な事態が起きない限り、予定通りやる方が国際社会の信頼を得られる」と述べるなど、安倍晋三首相の周辺から予定通り実施の声が出てきている。

そうなると予想しにくくなるのが、第2次補正予算の規模だ。消費増税延期なら、約5兆円の景気下押し効果がなくなるため、3─5兆円とやや小型の補正予算が編成されるとの見方が多かったが、予定通り実施となれば、景気下支えのために大型補正が必要になる。

自民党の議員連盟「アベノミクスを成功させる会」は20日、消費税率引き上げについて、予定通り来年4月から実施すべきとの提言をまとめた。16年度に15─20兆円規模の補正予算を編成、3年間で37兆円規模の財政出動を影響緩和措置として実行するのが望ましいとしている。

<市場は増税に強い警戒>

しかし、市場では、消費増税に対して警戒感が強い。「増税は恒久措置。補正予算は一時的な効果にとどまる。大規模な財政出動を決めても、増税実施なら市場は嫌気するだろう」(日本アジア証券・グローバル・マーケティング部次長の清水三津雄氏)とみられている。

大規模な財政出動が可能かという問題もある。人手不足は深刻で、公共投資予算を組んでも執行できないケースも少なくない。市場では「財政出動がバラマキに終わるようなら、海外投資家は失望する」(外銀エコノミスト)との声も出ている。

補正予算は基本的に単年度の事業だ。「来年度は予算が付かないかもしれないとなれば、担当者の身も入らない。効果は薄れてしまう」と、シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は懸念する。

一方、消費増税実施と大型補正の組み合わせが嫌気されて株安になれば、日銀の追加緩和の可能性が高まる。大型補正による赤字国債増発と追加緩和の組み合わせは、「ヘリコプターマネー」の様相を帯びるため、日本国債の格付けにも影響を及ぼしそうであり、先行きは一層読みにくくなっている。

東証1部の株式売買代金は、ここ3日間、1.6─1.7兆円程度と、今年最低水準。日経平均も方向感を失い、1万6500円を中心とした狭いレンジ内での推移となっている。「政策の不透明感がこのところ増しており、国内外ともに売買を手控える投資家が多くなっている」(国内証券トレーダー)という。

<大規模補正には疑問も>

一方、25日付読売新聞朝刊が、安倍首相は消費税率引き上げを先送りする方向と報じるなど、延期の報道もある。

増税延期と大規模補正という組み合わせもあり得る。15年10─12月期の需給ギャップは、日銀の試算では1兆円強だが、内閣府の試算では8兆円程度。「リーマン・ショック級」の景気減速とは言えない今の経済状況では、20兆円といった大規模な財政出動が必要かは疑問だが、10兆円程度の規模を期待する声もある。

ただ、最近は毎年のように補正予算の編成が行われており、その効果が切れたときに景気下押し圧力が強まり、新たな補正予算が組まれるというパターンが続いている。大型の補正予算は、その反動も大きくなる。

「少子化対策など日本の潜在成長力を引き上げるような使途に財政資金を使わないと、景気減速と補正予算の無限ループに入ってしまう」と、りそな銀行・アセットマネジメント部チーフ・エコノミストの黒瀬浩一氏は懸念する。

また、市場では、衆参同日選の可能性が株高に直結するとは限らないとの警戒感も出てきた。

民進党が25日、消費増税延期法案を提出。与党としては、増税延期を選挙の争点にしにくくなっている。もし、自民党が増税実施を打ち出せば、政策不透明感が強まり、株安要因になるとみられている。

市場が求める選挙の争点は増税ではないと、HSBC(香港)日本担当エコノミストのデバリエいづみ氏は指摘する。「社会保障を充実させる一方で、高い税金が課される北欧型の高コスト・高サービスの社会を選ぶのか、それとも社会保障の水準は低いが税金も安い低コスト・低サービスの社会を選ぶのか。そこの議論が抜けているから増税の話も腰が定まらない」と冷ややかだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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