焦点:三菱自、燃費不正の先行き見えず グループからの支援は難航も
[東京 25日 ロイター] - 燃費不正の発覚で三菱自動車が新たな経営危機に直面する懸念が強まっている。2000年代前半のリコール(回収・無料修理)隠しの際、支援に動いた三菱グループの主力企業は業績が悪化しており、内部からは「今回支援するのは厳しい」との声も聞かれる。提携先の日産自動車やユーザーへの補償、エコカー減税の追加納税負担、厳しい行政処分などが予想される中、同社の経営は先の見えない隘路に入りつつある。
<対象車拡大と顧客離れ必至か>
「かなりダメージは大きい」――。燃費不正の事実が明るみに出た20日、国土交通省で会見した三菱自の相川哲郎社長は、不祥事再発へのいら立ちと経営危機への不安をにじませた。
燃費を実際より良く見せる試験用データの不正が発覚したのは、13年6月から生産している軽自動車「eKワゴン」と「eKスペース」、日産の「デイズ」と「デイズルークス」の4車種、計62万5000台で、三菱自は20日午後、4車種の生産と販売を停止した。
eKシリーズは三菱自にとって国内販売の半数近くになる主力車種。軽自動車だけでなく、SUV(スポーツ型多目的車)「パジェロ」や電気自動車「アイ・ミーブ」など約10車種で少なくとも02年以降、国内法令とは異なる方法で燃費試験用データが測定されていたこともわかった。
さらに、共同通信などによると、三菱自が車体のデザインや内装を小幅に変更するマイナーチェンジの際、法令上必要な走行試験を行わず、机上の計算だけでデータをまとめて国交省に提出していた事例も判明している。
同社は販売の約9割を占める海外市場向けの車も調査することを決めた。燃費不正の影響が国境を越えて広がり、強化してきた東南アジアなど新興国での事業拡大にブレーキがかかる恐れもある。
<日産、協業見直す可能性も>
今回の不正は日産からの指摘で発覚。三菱自に代わって次期モデルの設計開発を担当する日産が昨年11月、現行車の燃費を試験したところ、走行抵抗値が国交省に提出されていた数値と明らかな開きがあったため、今年2月に両社で調査を開始。4月に不正が判明した。 日産は「現時点では提携関係に変更はない」(広報)としているが、同社幹部からは「三菱への不信感はもはや拭えず、関係を続ければ日産のイメージダウンにもつながりかねない」との声も漏れる。協業見直しや提携解消につながれば、生産拠点である三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)のさらなる稼働率低下を招きかねない。
燃費不正の対象車のうち、日産向けに生産している2車種は46万8000台と75%近くに上る。デイズは15年度の軽販売ランキングで3位に入る人気シリーズだけに、日産への補償は契約違反や販売機会損失などの点から高額になることも予想される。
懸念されている補償はこれにとどまらない。不正のあった車の実際の燃費がエコカー減税の対象にはならないことが確定した場合、同社は対象車を購入し減税を受けた顧客の追加納税分を全額負担する方針。さらに購入者には実際の燃費と不正値との格差に相当するガソリン代も支払う方向で検討している。
<三菱グループの支援不透明> 三菱自が今後予想される経営難を乗り切るうえで、大きなカギになるのが三菱グループ各社からの支援だ。2000年と04年にリコール隠しが発覚した際は三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行(当時、東京三菱銀行)の主力3社が中心となって多額の増資を引き受けた。
この支援により、三菱自は13年に累積損失を解消、ここ数年の業績回復で財務体質も改善した。14年6月には、生え抜きの相川氏が社長に就任、前任者である三菱商出身の益子修氏による約9年間の経営再生を受け、SUVと電動車両を軸とした成長戦略に踏み出そうとしていた矢先の不祥事だった。
しかし、グループによる支援ができた当時とは違い、各社には上場企業として高い資本効率や出資に対する説明責任が株主から強く要求されるようになっている。さらに、三菱重は大型客船事業の遅れで損失を抱え、三菱商も資源価格の下落により業績が悪化しており、グループが三菱自に救いの手を差し伸べられる環境にはない。
「簡単に支援なんて言ったら、見識が問われる」とグループ大手のある幹部は三菱自への安易な救済論にくぎを刺す。株主への説明責任が果たせないという指摘だ。「(支援がまとまった)10年前さえ、三菱重の株主総会では、三菱自に対する出資に異論が相次ぎ、総会が紛糾した。いまはガバナンスの考え方がさらに進化している」。さらに別のグループ企業の幹部社員も「三菱自への新たな支援は厳しい」と語る。
<行政当局の厳しい対応も>
石井啓一国土交通相は22日の会見で、三菱自に対して「長年積み上げてきた日本ブランドに対する信頼・信用を失墜させ、ユーザーに対しても多大な迷惑をかけた。猛省を促したい」と語り、買い取りも含めてユーザーへの「誠実な対応」を要請した。21日には菅義偉官房長官が「極めて深刻な事案。厳正に対応する」と述べ、行政処分の可能性を示唆した。
米高速道路交通安全局(NHTSA)も22日、ロイターの取材に対し、米国で販売した車両に関する情報を提出するよう三菱自に求めたことを明らかにした。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は22日、三菱自の長期会社格付けを現在の「ダブルBプラス」から引き下げる方向で検討する「クレジット・ウォッチ」に指定したと発表した。三菱自の株価は燃費不正の発表から3日間で41.6%の急落となっており、今後は株主による訴訟の可能性も否定できない。
*22日に配信した記事に内容を追加して再送します。
(白木真紀、布施太郎 取材協力:宮崎亜己 編集:北松克朗)
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