アングル:積み立て不足に悩む米企業年金、会計処理の新手法に活路
[ニューヨーク 14日 ロイター] - 米企業の年金運用は低金利や株安で打撃を受け、積み立て不足に悩まされている。このため、積み立て不足の補充先送りが可能となる証券取引委員会(SEC)が導入した新しい会計処理の方法を利用しようとする動きがある。
人材コンサルティング会社マーサーの最新データによると、S&P1500指数構成企業の平均的な年金積立率は2月末時点で78.1%で、2013年終盤の約95%から低下した。
一部の積立率はもっと低く、最悪の部類に入るデルタ航空の場合は45.4%でしかない。
こうした中でSECが昨年9月、企業の年金債務測定における割引率計算でこれまでと異なる手法を認める決定を下したことが注目を集めている。新たな手法を用いれば、企業が即座に積み立てなければならない金額が減少する。
クレディ・スイスの会計・年金アナリスト、デービッド・ザイオン氏によると、これまでにS&P総合500種指数構成企業のうち19社が、新手法を採用したか、採用を予定している。名を連ねるのは、自動車部品販売のオートゾーンや娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニー、通信大手AT&Tなど。財務面の効果にはばらつきがあり、今年度の年金積み立て負担軽減を通じてAT&Tは税引き前利益が10億ドル押し上げられる一方、ディズニーは1億3700万ドルの経費節減を見込む。
またザイオン氏は、アルミ大手アルコアや航空機大手ボーイングなどを含めたS&P500種の48社が新手法を採用すれば、年金債務支払いと金利のコストがそれぞれ5%と20%減少し、税引き前利益が5%強増える可能性があるとの見通しを示した。
多くの企業は現在、会社側が年金債務を負わない確定拠出年金のみを従業員に提供しているが、製造業を中心に歴史の古い企業は多額の確定給付年金の債務を抱えており、これが積み立て不足問題を引き起こしている。
大幅な積み立て不足を招いた一番の要因は、異例な低金利で年金基金が運用面で長年頼りにしてきた債券収入を減らし続けている。
年金基金の年間期待収益率の代用となる割引率は、社債投資でみると現在は4.06%だが、2年前は5%近く、08年末は6.2%だった。
年金の数理計算を手掛けるミリマンのゾラスト・ワディア社長は、割引率が低下の一途をたどって過去最低水準になっていることで「年金債務がどんどん膨張している」と指摘した。
さらにマーサーによると、今年1─2月で年金の米国株資産が830億ドル失われ、積み立て不足の総額は4870億ドルまで増大。同社の退職者向け事業部門を率いるジム・リッチー氏は「年初の2カ月で、昨年の積み立て状況の改善分がすべて消し飛んだ」と述べた。
マーサーの試算では、S&Pの1500社のうち59%は積立率が80%未満となっているもようだ。金融危機前の07年は、平均積立率が104.3%で、2000年時点だと121.9%に達していた。
(David Randall記者)
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