焦点:新興国債に新たな難題、今後5年で1.6兆ドルの大量償還

2016年3月14日(月)11時08分

[ロンドン 11日 ロイター] - 新興国市場に最近見られる落ち着きの兆しは、単なる嵐の前の静けさかもしれない。今後5年で1兆6000億ドルという巨額の債務償還が予定され、新たな問題になりかねないからだ。

2020年までの新興国債務の年間返済額は15年と比べて1000億ドル超も増える見通し。これは08年の金融危機以降の借り入れブームに関係している。

金融危機後は、米国の事実上のゼロ金利によって投資家の高利回り債需要が増大した流れを受け、アフリカの各国政府からトルコの銀行に至るまで新興国の借り手がこぞって外貨建ての起債に動いた。

だが、その返済期限が迫ろうとしている。ICBCスタンダード・バンクのデータによると、1兆6000億ドルという償還予定額のうち4分の3以上を社債が占める。

これまで社債市場では、償還額が比較的小さく、世界的な低金利の恩恵もあってデフォルト(債務不履行)の発生は抑制されてきたが、コモディティ安と米国の金利上昇に加え、こうした大量償還という要素も出てきたことから、厄介な事態が起きてもおかしくない。

UBSの新興国市場調査責任者、バヌ・バウェジャ氏は「新興国に立ちはだかる障害を取り除くことはできない」と語り、その理由として(1)特に今後トラブルに見舞われる恐れがあるエネルギーと金融のセクターを中心に既に借り入れが膨らんでいる(2)国際金融市場がかつてほど新興国に対して寛容でなくなっている──ことを挙げた。

重圧がかかりそうなのは、原油価格下落に見舞われたエネルギーセクターだ。

ベーブソン・キャピタル・マネジメントの新興国社債責任者、ブリジット・ポッシュ氏は、より規模の小さい民間企業は債務再編が避けられないだろうが、より大きな問題は国有の準ソブリン格の企業からもたらされる恐れがあると警告する。

ポッシュ氏によると、ブラジル国営石油会社ペトロブラスやメキシコ国営石油会社ペメックスといった準ソブリン格企業の抱える社債は今後4年のセクター全体の償還予定額の80%強に上り、これらの企業が政府からの支援を必要とすれば、政府部門にリスクが波及しかねないという。

UBSのバウェジャ氏の試算に基づくと、エネルギー・素材では外貨建て社債残高の25%強が今後3年で償還を迎え、金融の場合はこの比率が約33%になる。

バウェジャ氏は、政府支援は投資家にとって社債がより安全になることを意味するものの、ソブリン債にリスクが転嫁されるとともに、他の企業の借り入れコストまで引き上げる傾向があると説明し、金融セクターはとりわけ脆弱に見えるとの懸念を示した。

UBSのデータによると、新興国のうち外貨準備との比較で見るとグロスベースの債務借り換え必要額が最も大きいのはトルコで、ハンガリーやインドネシア、南アフリカ、ロシアもそれに近い水準にある。

<根強い需要>

国際通貨基金(IMF)は、新興国企業が新規調達した資金を返済に充てる割合が高まっていると警鐘を鳴らす。05年時点で調達資金の返済充当率は5%弱だったが、14年には約30%に達した。

このところニューヨークやロンドンでは新興国政府の起債に関する説明会が相次いで開催されており、投資家の需要が試されつつある。

もっとも大半の投資家は、デフォルト急増の懸念は一蹴している。特にドル高がこれ以上進まなかった場合、あまり心配はないとの見方だ。低金利環境にあって、新興国債が提供する利回りに対する投資家の引き合いは引き続き強いだろうという。

ほとんどの先進国の中央銀行が利上げするまでにはなお相当の時間があり、米10年債利回りはなお2%未満で推移するなど、世界的に借り入れコストの低い状態は続く可能性が大きい。

フィデリティ・インターナショナルのファンドマネジャー、スティーブ・エリス氏は「この利回りなら、(新興国の)借り換えに大きな問題が起きるとは予想されない。デフォルト率は低水準にとどまりそうだ」と話した。

それでも借り換えには信用力の問題がネックになるかもしれない。

スタンダード・バンクのデータでは、向こう5年に償還を迎える新興国債の34%が投資適格級未満、8%が無格付けで、発行体は借り換えに苦労する可能性がある。

ロンバード・オディエのチーフグローバルストラテジスト、サルマン・アフメド氏は「やみくもに利回りを追求する局面は終わったので、投資家は信用力ごとに投じる資金に微妙に差をつけていくだろう」とみている。

(Karin Strohecker記者)

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