G20で注目される積極財政論、日本が抱える格下げリスク

2016年2月25日(木)17時37分

[東京 25日 ロイター] - 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に向けて、財政政策の注目度が高まってきた。先進国で実施してきた金融緩和政策の限界点が意識され出す中、景気下振れを防ぐ役割が期待されている。だが、日本では、財政状態のさらなる悪化や、国債の格下げなどリスクも大きい。円債市場の「警報機能」が事実上喪失しているとの声もあり、財政規律の緩みという危険も付きまとう。

<財政出動の余裕乏しいG20>

民間が借りないのなら、政府が借りるしかない。これが財政政策である。企業や家計がリスクに対し消極的な場合、政府が借金してでも投資をして、民間に需要をもたらす。その投資が起点となり、連鎖的に需要が生まれ、景気が改善するのがベストシナリオだ。

今週26─27日に中国の上海で開かれるG20に向けて、財政政策論議が活発化している。未曾有の金融緩和を行っても、足元の世界経済はもたつきが目立つ。年初からの世界的な株安もあって、G20が協調して財政出動することを求める声が金融市場でも高まっている。

しかし、各国とも財政に余裕があるわけではない。リーマン・ショック後に膨らませた財政のツケをいまだに支払っている段階だ。米国では債務上限問題が解決されたわけではなく、欧州も南欧諸国を中心とした債務問題の根本治療には時間がかかる。中国は4兆元投資の後始末に苦しんでいる。

G7各国の政府債務残高(一般政府ベース、OECD調べ)は対GDP(国内総生産)比で、2000年に平均80%だったが、15年には125%に上昇している。

しかも多くの国では、国債を中央銀行が買って金利上昇を押えるという決して健全とはいえない状態だ。多額の財政出動にもかかわらず成長率の伸びは鈍く、生産性も低下している。

<難しい日本の舵取り>

なかでも日本は先進国で最も債務が積み上がっている国だ。15年の日本の債務残高は、GDP比(同)で233%。対外債権と相殺したとしても、借金がなくなるわけではない。社会保障費は膨張し続けており、S&Pによる昨年9月時点の予測では、債権と相殺したネットの一般政府純債務残高の対GDP比は、15年度の128%から18年度には135%に上昇する。

また、日本は需給ギャップがほぼ解消した状態にある。「その状態では1─2兆円程度の財政出動をしても効果は限定的だ。経済に大きな刺激を与えるには10─20兆円といった規模が必要になる」と、SMBC日興証券・シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は指摘する。

さらに機動性にも問題が残る。日本の国会では、2016年度予算案を審議中だ。補正予算を編成するなら、その後になる。また、補正予算はあくまで短期的な措置である。景気下振れを防ぐ効果はあっても「来年度は予算がつかないと思えば効果も薄れる」(外資系証券エコノミスト)との指摘も出ている。

日本の「財政政策」としては、10%への消費再増税の見送りという選択肢もある。17年4月に予定している消費増税の実施を延期すれば、景気下押し圧力は軽減されるとの見方も多い。

一方、消費増税を予定通り実施したうえで、補正予算を組むという選択肢もある。ただ、それではブレーキとアクセルを同時にかけるようなものとの批判も出よう。

<失われた「警報機能」>

大規模な財政出動や消費再増税見送りには、リスクも伴う。市場が警戒するのが、日本国債の格下げだ。

現在、日本国債の格付けはS&PがA+(見通しは安定的)、ムーディーズがA1(同)。金融機関が自己資本を計算する上でのリスクウエートが上昇するBBB+・Baa1まで3段階、ジャンク級まで6段階あり、1段階程度の格下げでは、大きな影響は出ないかもしれない。

しかし、市場では「ヘッジファンドなど海外勢の売り材料になる可能性がある」(国内銀行ストラテジスト)との警戒感も強い。海外勢の日本国債保有シェアは昨年末時点で10%弱に上昇。かつてのような国内勢だけのマーケットではなくなっている。

日本国債の格付けが引き下げられれば、ほぼ自動的に邦銀の格付けも引き下げられる。足元でドル調達コストが上昇しているなかで、格下げされればコストがさらに上昇しかねない。ドル調達だけでなく、証券などの発行コストも上昇する可能性がある。

消費増税見送りや財政出動が即座に、格下げと直結するわけではない。安倍晋三首相は、14年11月に消費再増税の延期を決定したが、S&Pが格下げしたのは15年9月。格付け判断においては、政策の効果で景気が持続的に回復し、財政再建に結び付くかどうかがポイントになる見通しだ。

さらに日銀の「爆買い」が円債市場の需給を引き締めており、金利の急上昇や悪い円安は起きない可能性もある。しかし、「金利上昇という財政規律に対する警報機能が事実上失われた」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏)なかでは、それこそが日本にとって実は最も危険な状況かもしれない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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