焦点:三菱UFJ銀頭取に小山田氏、海外業務のカバナンスに課題

2016年1月28日(木)20時20分

[東京 28日 ロイター] - 三菱UFJフィナンシャル・グループの中核・三菱東京UFJ銀行の頭取に昇格が決まった小山田隆氏にとって、持続的成長をどのように達成していくのかが課題になる。成長の原動力となっている海外業務は、戦線の拡大に伴うガバナンスのぜい弱性も指摘され、国内業務は構造的な低収益に陥っている。

合併によって同行が誕生してから10年の節目を迎え、「エース」の手腕が問われる。

<プリンスの登板>

「派手なスタンドプレーとは無縁だが、しっかりと物事を見極め、オーソドックスな手を打つタイプ」――。三菱UFJのあるOBは、小山田氏をこう評した。「銀行員にしては珍しく、誰に対しても誠実」との指摘も多く、行内だけでなくライバル銀行や金融当局からの信頼も厚い。

企画部門や大企業担当の営業部門などの中核部門を歴任し、すでに30代の企画部若手時代から将来の頭取候補と目され、プリンスとも言われてきた。

現在の三菱UFJの母体となった旧三菱銀行と旧東京銀行との合併、その後の旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行の合併の際には、それぞれ旧三菱、旧東京三菱サイドの事務方の責任者として統合をまとめ上げた実績もある。

<弱点は海外業務>

ただ、弱点は海外業務の経験がほとんどない点だ。三菱UFJは、邦銀で唯一、米国の地銀を持っていることに加え、2013年にはタイの大手銀行、アユタヤ銀行を傘下に収め、日本、米州、アジアで商業銀行業務を展開している。米金融大手のモルガン・スタンレーにも出資してきた。

複数のMUFG関係者は「海外ビジネスの経験と、当局も含めて海外人脈が薄い点が心配」と口をそろえる。

MUFGは昨年、米国の金融監督当局から米州におけるガバナンスのぜい弱性を指摘された。海外業務の急拡大にリスク管理を含めたガバナンス体制の構築が追い付いていない現状を浮き彫りにしている。

リーマン危機以降、世界的に金融規制は強化され、当局の銀行に対する「監視の目」も厳しさを増す。「攻めの姿勢を崩さずに、守りも固めなければらない。非常に難しい時代に入っている」(金融当局幹部)ことが、メガバンクの現状と言える。

こうした懸念に対して、28日記者会見した小山田氏は「何がプライオリティが高いのか、自分なりに認識できている。適材を適所に配してチームプレーをしっかりやっていく」と強調した。

一方の国内業務は、低金利の長期化で青色吐息の状態が続く。個人を対象にしたリテール業務は、投資性商品の販売など手数料収入の拡大で収益拡大を目指すが、「人件費も含めたコスト構造の抜本的な課題が必要」(銀行アナリスト)との指摘もある。

フィンテック(金融と情報通信技術の融合)により、銀行業務は大きなコスト削減余地が生まれるが、一方で既存の業務とのぶつかり合いが生じる可能性もある。

<旧行バランス人事を廃せるか>

三菱UFJの誕生から今年で10年。しかし、役員人事ではいまだに旧行バランス人事が重視されている。「旧行の上が詰まっているため、優秀な人材が登用されないケースもある」(役員)という指摘もある。

人事制度について、小山田氏は現在も適材適所としながらも、「一段と適材適所が進んでいく」と語った。

海外業務の拡大や業務範囲の広がりで、組織の多様性や柔軟性も求められる金融ビジネス。小山田氏は会見で「ビジネスモデルの深化」を強調したが、対応できる組織に作り替えることができるかどうか。

座右の銘は「有志竟成(ゆうしきょうせい)」。「強い志をもってやれば、最終的に成就する」という意味だと説明した。変革を拒む岩盤を突破する志が問われそうだ。

(布施太郎 編集:田巻一彦)

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