アングル:中国人海外旅行は正月も大幅増、爆買いに減速感も

2016年1月19日(火)16時41分

[東京 19日 ロイター] - 中国株や人民元の下落が進んでいるが、中国人観光客は今年1月1日─3日に前年比20%を超える海外旅行関連消費を行ったもようだ。中国からの訪日客の消費も昨年10─12月期に前年比2.2倍という高い伸びを示した。

ただ、株安等で「爆買い」のペースが鈍化し始めたとの声や、中国当局による「国産品購入の奨励」による影響を心配する見方も出てきた。

中国人のお財布代わりとなっている銀聯カードによると、2016年1月1日─3日の世界各地における海外旅行取り扱い金額が、前年同期比26.2%増の3486億元にのぼった。昨年秋の国慶節からの休日(10月1─7日)期間での同取扱額が前年同期比25.4%だったのと比べると、海外旅行や外国での消費意欲は引き続き拡大していると想定できる。

中国政府は昨年からの人民元下落を受けて、海外消費でさらなる通貨下落につながることを回避するため、銀聯カードの1枚当たりの利用上限額を引き下げた。しかし、1人に付き複数枚の同カードを保持する富裕層には、そうした制限も効果はなかったようだ。

一方、日本における中国人観光客の動向はどうか──。

観光庁が19日発表した「訪日外国人消費動向調査」によると、昨年10─12月の中国人の旅行消費額は前年比2.2倍。同じ期間の訪日外国人消費全体の伸び率57%増を大幅に超える伸びだった。

中国経済の減速や株安、人民元下落による訪日客の消費については、足元で大きな変調はみられないという。中国人観光客の購買力の大きな受け皿になっている百貨店業界は、強気の見方を維持している。

高島屋 の木本茂社長は「(中国の景気減速は)中国国内の百貨店各社には、影響が出ている。しかし、今のところ、インバウンドには影響がない。13億人のうち、11月までで(訪日客は)460万人。まだ余力はある」とみている。

日本百貨店協会の井手陽一郎専務理事も「中国からのビジネス客は堅調だし、観光客もビザの緩和で増えている。リピーターが増えることで、1人当たりの購入金額は下がることがあるが、パイが広がることでインバウンドは増加する。13億人の人口のポテンシャルは高い」と、今後の伸びに対する期待感は強い。

ただ、中国人訪日客の数を過去に遡ってみると、増勢に陰りが出てきた可能性もある。15年4─6月期、7─9月期は前年比2倍超のペースだったが、10─12月期は前年比86%増に減速。

1人当たりの旅行支出も、15年前半の前年比20─30%増のペースから10─12月期は同18%増にスローダウンした。

昨年6月以降の中国株安や、8月から目立ってきた人民元安/円高の影響を指摘する声も関連業界の一部から出てきている。高島屋の木本社長も「人民元が対円で下がっている点には、注意しておく」と言及している。

同時に中国人観光客消費に依存し過ぎることに神経を使い始めた。

SMBC日興証券・シニアエコノミストの平山広太氏は「人民元安が始まったのは昨年8月以降。まだ10%強の円高なのでさほど影響はないが、さらに人民元安となれば株安とあいまって影響する可能性もある」とみている。

BNPパリバ証券は、米中の経済ファンダメンタルズの違いを考慮すると「昨夏から累計で3割程度減価の可能性がある」と予想。この先、人民元が一段と下落する場合には、中国人観光客によるインバウンド消費にも影響が出かねないと懸念する見方もある。

また、中国当局による規制強化の影響を注視する声もある。 高島屋の鈴木弘治会長は「これだけ海外で買い物をしている自国民がいるのに、指をくわえて見ているかは疑問」と述べ、関税の引き下げなどで中国国内での買い物を促す政策を取ってくる可能性をみている。こうなると、「爆買い」のひとつの背景になっている日本での買い物の割安感が薄れる要因になりうる。

こうした懸念に対し、平山氏は「中長期的にみれば、日本の観光魅力度と来日のしやすさを高める余地はまだある。また、中国人の所得水準上昇というプラス効果も期待できる」と分析。一時的な減速を懸念するよりも、日本側の受け入れ体制の充実を図ることが重要だと指摘している。

(中川泉 清水律子 編集:田巻一彦)

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