インタビュー:マイナンバー医療適用なら人権侵害の懸念=医師会常任理事

2015年10月7日(水)12時20分

[東京 7日 ロイター] - 日本医師会の石川広己・常任理事は、ロイターとのインタビューに応じ、マイナンバーを医療分野に活用することは、遺伝子治療が中核となるこれからの時代には人権侵害のおそれがあるとして強く反対する姿勢を示した。

医療改革の前提となる国民総医療番号制の導入と電子カルテ普及についても、プライバシー問題に加えて膨大な費用を医療機関が負担する点を指摘し、困難との考え方を示した。

──骨太方針の議論で、マイナンバーシステムを医療分野にも適用することに医師会が反対した主な理由は何か。

「マイナンバー制度を医療分野に持ち込むことには反対だ。これからの医療は遺伝子情報が中核となってくるが、究極の個人情報である遺伝子情報が漏れれば、将来的な病気の予測などが、差別や人権侵害につながりかねない。優生医療の拡大のおそれもある」

「政府はマインバー法附則6条で、個人情報提供の範囲を拡大するにあたって、法施行後3年をめどとして、国民の理解を得つつ措置を講ずるとしていた。にもかかわらず、改正マイナンバー法でこれを破り、特定健診の結果をマイナンバーとひも付けることにしてしまった」

「国民番号と医療番号が同じなのは、米国、韓国、北欧。分けているのは英独仏など。これはプライバシーなどの問題を考慮しているため。どちらの制度を採るかは、国への信頼にかかっている」

──マイナンバーとはひも付けのない形の国民総医療番号の導入ならば、医師会も合意したと理解していいのか。

「1枚のカード情報で、病気の履歴や個人情報が全てわかってしまうというのは可としない。固有の医療番号はあってもいいが、希望者だけに限定すべき。人に知られたくない病歴を消したい人もいるはずで、番号を変えることができるものなら構わない。プライバシーを保護するような形での番号を我々は提案している」

「生涯医療データを載せる必要はなく、当面の医療情報に限ることや、個人情報や人権は守り、本来的な医療利用に限り、ビッグデータなど2次利用はさせない」

──医療効率化や医療費削減は、必要との立場か。現在活用が進むレセプト(診療の請求書)データベースについて、どのような考え方か。

「私自身は、医療連携のICT活用は必要だと考えている。医療の偏在解消、高度化、効率化、介護との連携にとって、医療情報連携は必要だ」

「レセプト活用により薬の重複やCTなどの検査の重複も回避できる。一方で、レセプトデータをナショナルデータベースとして活用することには限界がある。例えば頭痛薬の副作用を緩和する胃痛薬も、処方すると胃炎系の病名も登録されてしまう。このため、胃炎患者数が実際以上に膨らんでしまし、正確な分析には使えない。薬の治療効果や副作用については、何の情報もないことも問題だ」

──レセプトだけでなく、病状や診療内容まで踏み込んだ医療情報の共有・連携を目指して、2020年までに電子カルテを9割まで普及させるという政府の目標達成は可能か。

「医療情報の連携や共有は、ほとんどできないと思っている。(電子カルテ普及は)おそらく2─3割しか進まないと思われる。したがって医療情報の共有と連携は、すぐにはできないだろう」

「理由は3つほどある。1つは医師のPCスキルの問題、2つ目はシステム構築・メンテナンスのばく大な費用の負担、3つ目は医師サイドが情報連携の必要性を感じていないということがある」

「連携はICT化をしなくとも、アナログの簡易手帳で医師や介護関係者、薬剤師など関係者が書き込んでいけば可能だ」

「特に費用の問題については深刻だ。これまで240程度の地域医療情報ネットワークの実証プロジェクトがあったが、現在実効性のあるのは40システム程度で例外的なケース。理由は初期費用は賄えても、その後のメンテナンス費用が続かないといった理由がある」

「例えば、社会医療法人2つの病院と3つの診療所の電子カルテ導入すると約4億円の初期費用がかかる。このコストを誰が出すのか。メンテナンスも含め計画的な財源計画が必要となる」

──小規模医療機関での電子カルテの普及が進まないと、医療データの蓄積に限界があり、ビッグデータ活用、創薬や医療の質の向上が進まないのではないか。

「電子カルテ普及のために、厚生労働省が医療情報基盤データベース事業を構築して、10の大規模医療機関で電子カルテによるデータを収集、1000万人分の患者情報データベースを目指している。医療研究にはそれを活用すればよい」「医師会としては、これに参加・活用する考えはない。創薬などへの活用は、研究機関が活用すればいい」

*このインタビューは9月29日に行った。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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