焦点:人民元でジレンマに直面する中国

2015年9月11日(金)16時40分

[東京 11日 ロイター] - 人民元相場をめぐり、中国がジレンマに遭遇している。人民元を買い支えれば国内の流動性を吸い上げ、デフレ経済を一段と悪化させるリスクを高める一方で、人民元安を容認すれば、借金まみれの民間部門の返済負担を重くする。

<中国経済の診断書と処方せん>

中国の楼継偉財政相は今月7日、「中国は過去に9―10%の成長を達成した。しかし、これは持続不可能で、潜在成長率も上回っていたため、過剰生産能力と在庫の大量増加を招いた」とし、過剰生産能力と在庫の調整には「今後数年を要する」との認識を示した。

中国が選んだ処方せんは、過剰設備の削減という政治的に困難な「供給圧縮」政策ではなく、財政拡大による国内需要のテコ入れと、人民元安による輸出拡大という「需要喚起」政策だ。

中国は8月11日から3日間で、人民元売買の基準となる対ドル為替レート「基準値」を4.6%余り引き下げた。しかし、市場実勢を尊重する政策は、予想以上の人民元安を招き、中国人民銀行(中央銀行)は価格維持のため、連日人民元買い/ドル売り介入を余儀なくされている。

<人民元買いのコスト>

8月末の中国の外貨準備高は3兆5573億ドル(約428兆6500億円)で、7月末と比べて939億ドル(約11兆3000億円)減少した。月間減少幅は過去最大。

人民銀行は8日、外貨準備高が大幅に減少した要因を「外国為替市場で操作を行ったため」と説明し、元買い/ドル売りの市場介入を認める異例の報道官談話を発表した。また、家計や企業の外貨選好が強まったことも、外貨準備の減少につながったと説明した。

中国国内では、巨額の元買い/ドル売り介入に伴って、人民元の流動性が低下し、金融引き締めと同様の効果が発生している。

「人民銀行は為替介入を7月の約500億ドルから、8月には1220億ドルに拡大したと考えられる」とバークレイズ証券・シニア外債ストラテジストの飯田美奈子氏は言う。

飯田氏は、介入に伴う流動性の引き締まりを打ち消すために実施された公開市場操作(資金供給オペ)5300億元に、預金準備率引き下げによる流動性注入を3カ月間で平準化した規模である2500億元を加え、介入の全体像として見積もった。

そのうえで、人民元買い/ドル売りが国内流動性に及ぼす影響を相殺するために、人民銀は預金準備率をさらに月間約0.4%ポイント引き下げる必要がある、と飯田氏は言う。

<元安容認で企業の債務返済負担増>

供給過剰に苦しむ中国経済の問題を考えれば、金融緩和と人民元のなだらかな下落で輸出の拡大を図るシナリオが最も適した選択肢だ、とグローバル・エコノミストの斎藤満氏は指摘する。

ただ、「人民元の切り下げは、近隣窮乏化を招き、デフレを輸出するほか、企業部門が抱える香港ドルや米ドル建ての膨大な債務の返済負担を増やし、企業部門の収益を圧迫する」(同)と指摘する。

JPモルガンによると、2007年第4四半期、中国が巨額の財政出動する前の段階で、中国の民間債務は合計4兆3000億ドルだった。その後、中国の民間非金融部門の債務は19兆9000億ドルまで急増した。

中国の債務対GDP比は、111%から188%に急激に上昇した。

「人民元は対ドルのみならず、対香港ドル等でも下落しているが、それらの通貨で資金調達している中国企業にとって、人民元の過度の下落は、デット・オーバーハング(借り入れ過剰で収益の大半が金融機関への返済に回る状況)の悪化を招く」と斎藤氏はみている。

こうした状況を懸念してか、中国の李克強首相は9日、遼寧省大連での世界経済フォーラムで各国の経済人と会い、人民元相場の安定維持を図る決意を示し、「元安を通じた輸出刺激は望んでいない」と断言した。

<オンショアとオフショア人民元相場のかい離>

人民元のスポットレートは、8月11日に対ドル基準値の算定方法を変更して以降、基準値に近い水準で推移している。

9月11日の上海外為市場では、人民元の対ドル基準値が1ドル=6.3719元に設定された。前営業日と比べ、0.0053元のドル安/元高。

人民元の直物相場は6.3745元付近。中国本土外(主に香港)で流通するオフショア人民元レートはは6.4020元付近。

両相場のかい離は、中国が元安見通しを抑制するために、介入のみならず、元売り/外貨買いの為替予約に対する準備金の引き当て義務などを設け、厳しく管理していることにより発生している。

厳格な為替相場管理について市場では、持続可能ではないとの見方が多く「資本流出に歯止めをかけるためには、オンショア人民元相場の一段の低下が必要」(バークレイズ証券の飯田氏)との声も出ている。

(森佳子 編集:田巻一彦)

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