アングル:再燃するデフレの脅威、中国減速と商品安で

2015年7月28日(火)14時05分

[ロンドン 27日 ロイター] - 世界中の投資家と中央銀行は、昨年襲われたデフレに対する恐怖感に再び苛まれつつある。原油やその他コモディティの価格がまたもや下げ歩調になってきたからだ。

足元の中国株安で、中国経済が冷え込んで世界経済の成長を大幅に押し下げることも懸念されている。

今年春ごろまでに、投資家が原油価格が下げ止まったと自信を持ったことでデフレ懸念はいったん後退した。安全とされる国債から資金が流出し、各国中銀による金融緩和が徐々に世界経済を上向かせるとの期待から利回りが上昇。デフレとの闘いにおける勝利宣言が出されてもおかしくない状況だった。

ところが7月に入ると、トムソン・ロイター・ジェフリーズ/コアコモディティCRB指数は10%下落し、2009年初め以来の低水準に沈んでしまった。

重要なのは同指数が3月につけた安値を割り込んだ点で、原材料価格が消費者物価の前年比上昇率の足を引っ張る流れに早晩歯止めがかかるのかどうか疑念が生じている。

JPモルガンのグローバル・チーフエコノミスト、ブルース・カスマン氏は「最近のコモディティ価格の軟調は、われわれが想定していないような世界経済成長の失速を示唆しているのではないかと心配している」と述べた。

同社はまだ公式の見通しを変更していないが、カスマン氏は第2・四半期の世界経済の成長率が4月初め時点の予想から1%ポイント下がって2%にとどまるだろうとみている。

デフレの長期化は、特に家計や企業、政府の債務水準が非常に高い先進諸国にとって打撃になる。物価が下がれば、債務の実質価値が増大して返済がより困難になるからだ。

消費者物価の上昇率は既に世界的にほぼゼロで推移している。また中国をはじめ新興国の経済が急激に減速している中で、米国や英国、欧州大陸で景気回復が進んでいても十分な物価上昇圧力を生み出せそうには見えない。

そうなると米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(英中央銀行、BOE)は、市場が想定する2016年初めまでの利上げ開始が難しくなり、恐らくは先送りすることになる。

一方でドルとポンドは利上げを見越して上昇し、それ自体が輸入物価押し下げを通じてデフレ効果をもたらしている。

カスマン氏は「財の価格が下がり、ドルが強くなっているためFRBの利上げへの歩みは遅くなる可能性がある。ドルの動きは重要だ」と指摘した。

<最大限の不確実性>

JPモルガンによると、第2・四半期の世界の物価上昇率は1.6%で昨年末の2.0%から鈍化した。年内を通じて上昇すると見込まれるが、それはコモディティ価格と経済成長がこれ以上弱まらないことが前提になっている。

こうした中でバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが公表した最新のファンドの資金動向に関するデータによると、投資家は「デフレ・トレード」を開始していることが分かる。22日までの週には、数十億ドル規模の金やコモディティ、新興国資産が売られた。

ほとんどの市場関係者が注目するのは中国だ。同国がコモディティブームの中で何年にもわたって高値相場を維持してきた局面は終わりつつあるように見受けられる。

上海株は9日までの3週間で3割強の時価総額を失った後、政府のテコ入れで持ち直したが、27日に再び8.5%の大幅安になった。

中国からは資金が流出し、ゴールドマン・サックスの推計では過去1年間の流出額は7610億ドルに達したという。

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツは、金融セクターは過去1年で中国の経済成長を2%ポイント押し上げてきたが、第3・四半期は押し上げ効果はゼロかマイナスに転じるとみている。

先週発表したノートでは、中国について「われわれは今まさに最大限の不確実性に見舞われている。安全な投資先は存在せず、投資環境はリスクがどんどん増しているように見える」と悲観的な見方を示した。

足元の事態は中国の中央銀行だけでなく、物価目標を掲げるFRBやBOE、欧州中央銀行(ECB)といった先進国の中銀にとっても問題を生じさせる。

27日にはECBが新たな論文を公表し、デフレとの闘いはまだ終わっていないと警鐘を鳴らした。

ECBは「統計的な観点から基調的な物価上昇率が上向きに転換したと判定するのはなお時期尚早だ。そうした上向きの動きが十分な力強さを持っているというシグナルになるには、もっと多くのデータが必要だ」としている。

(Jamie McGeever記者)

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