焦点:日銀総裁、為替は金融政策「制約せず」 緩和期待立て直し

2015年6月19日(金)20時04分

[東京 19日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は19日の会見で、円安進行は金融政策運営の制約要因にはならないと強調した。国会での円安けん制ともとれる発言を受けて、市場では日銀による早期の追加緩和観測が後退しているが、総裁はあらためて2%の物価目標の実現にまい進する姿勢を示すことで、市場の緩和期待の立て直しを図ったとみられる。

総裁は10日の国会で、為替動向に関連して「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と述べ、急速にドル安/円高が進行する一幕があった。

市場関係者によると、発言自体が円安けん制と受けとめられことに加え、結果として円安が進行する可能性が大きい一段の金融緩和に対し、消極的との見方が広がったという。

ロイターがエコノミストやアナリスト19人を対象に6月9-12日に実施したアンケート調査では、5月調査で4人だった7月または9月の追加緩和予想がゼロとなり、早期緩和観測はほぼ消滅。一方、10月30日会合との予想が12人と前回の9人から増加した。

日銀が需給ギャップやインフレ期待など「物価の基調」はしっかりしていると繰り返す中、早期緩和観測の後退は自然な流れともいえる。

だが、日銀にとって、円安進行が金融政策の手足を縛っていると受け止められることは、何としても避けなければならない事態とみられる。

物価目標達成に向けた日銀の本気度が疑われれば、「何とか維持されているインフレ期待がしぼみ、追加緩和に追い込まれた昨年10月の再来となる可能性がある」(国内金融機関)との見方が市場でささやかれている。

足元の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率は、ゼロ%程度と低迷を続けている。

だが、日銀では、物価の基調が改善を続け、エネルギー価格下落の影響がはく落する今年度後半以降、物価上昇は加速するとみる。

一方、市場は依然として急速な物価上昇には懐疑的。年度後半以降の追加緩和を見込む向きが多い理由がそこにある。

黒田総裁の国会での為替発言の真意は不明だが、会見では「為替レートの特定の水準やスピードを考えて、政策を運営するということでは全くない」と述べるとともに、「私どもとしては、為替レートがどうであろうともというか、あくまで物価の現状、先行きを考慮して金融政策を運営していくということに尽きる」と明言。金融政策運営はあくまで物価目標の達成が目的と繰り返した。

米利上げ開始が視野に入り、外為市場に円安圧力がかかりやすい状況の中、それでも年度後半に物価上昇が加速しない可能性が高まった場合、本当に日銀が追加措置のカードを切るのか。

この日の黒田総裁の発言があっても、市場の一部では、円安が進んでしまえば、追加緩和カードは温存されるとの声がある。

日銀が「ちゅうちょなく」追加緩和を決断するのか、それとも進行する円安を横目に事態の推移を見守るのか。米連邦準備理事会(FRB)が本当に9月利上げをするのか、という変数を抱えながら、日銀と市場の腹の探り合いが、夏場にかけて展開されそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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