アングル:海外観光客増でホテル不足、打開策はオフィスビル改装

2015年6月10日(水)16時02分

[東京 10日 ロイター] - 安倍晋三政権が打ち出した「観光立国化」の政策が効果を発揮し、外国人観光客数は急増中だ。だが、受け皿となるホテルが東京や大阪などの大都市圏で不足していることが顕在化し、ボトルネックの懸念も出てきた。そこで注目されているのが、オフィスビルのホテルへの改装だ。

低コストで迅速に着工できるメリットがあり、急成長する可能性を秘めている。

<オフィスビル改装ホテル、相次いで開業>

今年4月、東京・秋葉原の電気街から徒歩約10分の場所に「GRIDS秋葉原」がオープンした。サンケイビル(本社・東京都千代田区)が築34年のオフィスビルをホテルに改装した。

白い外装のビルは、一見してホテルには見えない。一階にはカフェバーがあり、受付は1人が立てるほどの小さなカウンターがあるのみ。

外国人観光客を中心に、都内で安価で心地よく滞在できることを目的に開業したこのホテルには、カプセルホテルのような2段ベッドが並ぶ共用部屋(1泊3300円)から、西洋のテーストを入れながら畳の上に4人分の布団が敷ける「ジャパニーズルーム」などもある。

「今まさにホテルが足りないという中で、既存のオフィスビルをホテルにコンバージョン(用途変更し改修)することはコスト面だけでなく、スピードという意味でも、需要に応える最良の方法」と、サンケイビル・上級執行役員の佐々木ゆかり氏は、このホテルの意義を語る。

ホテル建設は通常3年かかるとされるが、サンケイビルは昨年9月にGRIDSの物件を取得。開業まで1年を要していない。土地と建物、改装費などを含めた開発費は10億円を下回るという。

<「コンバージョン」で効率的なリターン>

東京・築地に今年1月開業した「ファーストキャビン」も、築28年のオフィスビルを改装した。コンバージョンの手法は、ホテル開業に向けた1つの選択肢になっている。

オフィスビルとして使われていたこのビルを不動産投資会社のビーロットが取得、ファーストキャビン用のホテルにコンバージョンした。ビーロットはこのビルを今年3月に、香港の投資会社SIS International Holdings に売却している。

ビーロット執行役員の佐藤文恵氏は「築年数やビルの形などオフィスとしての競争力は劣るが、ホテルにすることで効率的にリターンを出すことができる物件がある」と述べる。事業戦略の一環として自社ビルを売却する企業があることで、中古ビルへの投資の機会はこれからもあるとの見通しを示す。

<小面積ホテル、効率運営のメリット>

GRIDSやファーストキャビンなどのホテルは、ビジネスホテルよりも小さな面積で運営することが可能。サンケイビルの佐々木氏によると、延床面積はビジネスホテルの3分の1程度で済むという。

一段と小スペースを志向しているのが「ナインアワーズ」だ。2014年7月に成田空港第2ターミナルビルに隣接するビルのワンフロアを借り、ホテルに改装し開業。京都にも店舗を持つこのホテルは一見カプセルホテルのようだが、スリーピングポッドと呼ぶカプセルにはデザインを追求、シャンプーなどのアメニティは、創業120年の歴史を持つメーカー製を使用するこだわりを見せる。

同社の松井隆浩・代表取締役は「眠る場所とシャワーの2つのサービスの品質を研ぎ澄ませている」としている。

通常のビジネスホテルでは、約3300平方メートルの土地がないと採算がとれないが、ナインアワーズは10分の1の330平方メートルの面積があれば出店できるという。

<今後も進むホテルの多様化>

ホテル調査会社のSTRグローバルによると、2015年の東京のホテルの稼働率は87%で、東日本大震災のあった2011年の74.7%から大きく改善している。ユニバーサルスタジオ人気で盛り上がる大阪のホテルの稼働率は89.6%と2011年の78.7%から大幅に伸びている。

ジョーンズラングラサール・マネージングディレクターの沢柳知彦氏は、海外からの観光客の増加が続くことが予想される中、今後もホテルの多様化が進むとみている。

「これまでホテルは、デパートのように万人に一様なサービスを提供してきたが、今は専門店化してきている」と分析。これからはプロダクトのデザインが重視され、それぞれの利用者に最適なサービスを提供することが求められてくると指摘している。

(藤田淳子 編集:田巻一彦)

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