焦点:TPPの戦略的重要性増す日本、AIIB創設の動きで

2015年5月26日(火)17時34分

[東京 26日 ロイター] - 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)創設の動きをにらみ、日本の政府関係者の間で、環太平洋連携協定(TPP)の早期実現が重要との認識が高まっている。

日本は、TPPによって米国のアジア重視の姿勢が維持され、アジア地域において貿易ルールに基づく新たな体制を日米主導で構築したい意向。将来的には中国もその体制に取り込みたいと考えている。一方、中国はAIIBなどの機関創設を通じて、アジアの経済体制再編を目論んでいる。

「日本にとって、TPPは戦略的な価値がある」──。TPP交渉に詳しいある政府関係者は話す。安倍晋三首相は日本にとってセンシティブな農業分野をリスクにさらす、という政治的リスクをあえて取った、との見方だ。

「もしAIIB創設が進んでTPPが妥結に失敗すれば、アジア太平洋地域の主導権争いでイメージ的に打撃を受ける。それは利益の機会が失われることになり、米国側の陣営についたものにとってマイナスになる」と、その政府関係者は語る。

オバマ政権がアジア地域のリバランス政策の中心と位置付けるTPPにとって、22日に米上院で貿易促進権限(TPA)法案が可決されたことは一定の前進だった。

ただ、6月1日以降に審議が始まる米下院では、TPP慎重派の抵抗はさらに根強いと予想される。TPP参加国はTPA法案の成立が、妥結にとって不可欠だとしている。

年内にもAIIBを始動させようとする動きによって、AIIBと距離を保つ日米にとってTPPの重要性が増している。TPPは市場アクセスだけではなく、知的財産権など広範にわたるルールを取り決める。

AIIBの創設メンバーは57カ国。米主導の世界銀行、日本主導のアジア開発銀行と競合する。外務大臣政務官も務めた自民党の柴山昌彦衆院議員は「中国主導となっているAIIBなどの経済圏の動きが先行してしまうことで、フェアな先進国のルールをまず先に確立しようという戦略が一定の影響を受けることは避けられない」と語る。

内閣府の試算によると、TPPで関税が撤廃された場合、日本の農業生産にとって3兆円のマイナスとなる。日本経済全体にとってTPPの国内総生産(GDP)押し上げ効果は1%以下に過ぎない。一方で安倍首相はTPPは経済成長に必要な改革をもたらすと主張している。

しかし、日本は経済的なデメリットよりも、戦略的な利益の方が重要だと認識している。米国の関心をアジア地域につなぎとめるために必要だからだ。日米同盟で安全保障上の日本の役割を拡大させるという安倍内閣の方針もその1つだ。

TPPが米国の企業に与える利益を考慮しても、やはり戦略的利益が優先するだろう。

安保政策などに詳しい政策研究大学院大学の道下徳成教授は、TPPが妥結に失敗した場合、「日本は米国をアジア地域につなぎとめる重要なシンボルを1つ失うことになるだろう」と指摘している。

*見出しおよび本文中の表現を一部修正して再送します。

(リンダ・シーグ 翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

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