焦点:タカタが苦渋の全米リコール、対策費の負担さらに拡大も

2015年5月25日(月)11時35分

[東京 25日 ロイター] - 欠陥エアバッグ問題の渦中にあるタカタが米国最大規模の自動車リコール(回収・無償修理)に踏み切った。米当局からの強い圧力がその背景にある。

リコール対象台数は今後さらに拡大する可能性があり、タカタに対する集団訴訟も増加しかねない。膨れ上がるリコール費用を自動車各社とどう分担するかの見通しも立っておらず、事態の早期決着は極めて難しい情勢だ。

<全米最大のリコール、さらに拡大も>

今月19日、タカタが全米リコール実施を決めた対象は3380万台。車1台で運転席側と助手席側両方のエアバッグを搭載する車は2台と数えるため「のべ数」になるが、その数は昨年の米国での新車販売の約2倍に当たり、全米にある車の約7台に1台が対象になるイメージだ。問題のエアバッグを搭載する車両を持つ自動車メーカーは国内外11社に及ぶ。 

今回の措置は米当局からの強い要請を受けて、タカタが自ら実施するリコールとなる。リコールは本来、自動車メーカーが行う措置で、タカタのような部品メーカーが主導するのは極めて異例だ。今回の対象数は、自動車メーカーがこれまで進めてきたリコールの一部と重複する1570万台と、タカタが新たに追加した1810万台からなる。

「数には驚かれると思うが、お客様の安全第一で行った結果。手は打ったと思う」――。トヨタ自動車の豊田章男社長は21日、日本自動車工業会(自工会)の懇親会で、タカタのリコールについて、こう評価した。原因究明を急ぐタカタや自動車メーカー各社の取り組みを踏まえ、同社長は「原因がわかったら、その処方箋的な対策を取る。病気と同じだ」と語った。

しかし、同社のエアバッグがなぜ各地で死傷者を出す事故を起こしたのか、その肝心の原因は特定されていない。自工会会長の池史彦・ホンダ会長は同日の定例会見で、問題解決には「数年かかってしまう」との見通しを示した。タカタが新たに対象を追加したことで、自動車メーカーは他国でも対応を迫られる可能性があり、その数はさらに増えそうだ。「数の大きさには相当な危機感と問題意識を持っている」と同会長は顔をしかめた。

タカタ製エアバッグはこれまで、作動時にエアバッグを膨らませる部品のインフレ―ター(ガス発生装置)が異常な破裂を起こし、飛び散った金属片が乗員を傷つける事故が米国を中心に相次いでいる。少なくとも世界で6人の死亡も確認されているが、最初のリコールから7年経った今も、根本的な原因について結論が出ていない。

<増大するリコール費用、赤字転落も>

膨らむリコール対策費用は、タカタの収益を一転して赤字に転落させる恐れがある。同社の2016年3月期の連結純損益予想は200億円の黒字(前期は296億円の赤字)。北米などでの旺盛な自動車需要により本業が好調なほか、現時点では「合理的に見積もることが困難」としてリコール費用を織り込んでいないためだ。

タカタの今回の全米リコールを含めると、世界でのリコール総数はのべ5000万台以上に拡大する。しかし、この中には自動車メーカーが自主的に実施している原因調査や予防措置としてのリコールが多く含まれており、その費用の多くは自動車メーカー側が暫定的に負担している。原因が特定されず、タカタの責任も明確できないため、同社と自動車メーカーの間の費用分担の比率が決められないからだ。

タカタは、自動車メーカーによるリコール対象車のうち約940万台分については、13年3月期と15年3月期に計約785億円の引当金をすでに計上済みだが、昨年11月の米公聴会以降に実施されたリコールは未計上という。今回の全米でのリコール実施に伴う費用もどう引き当てるのか、同社は「まだ精査中」(広報)として方針を明らかにしていないが、タカタ自らが対象数を新たに増やし、欠陥を認めた以上、自らが負担すべきリコール費用が膨らむのは必至だ。

現時点でタカタが負担することになりそうな追加リコール費用は、3000億円近くになるとの試算もある。今回の全米リコールに加え、トヨタなど計7社が今年5月に発表した世界での約1200万台の追加リコールも対象になる可能性があるためだ。すでに北米では集団訴訟も起こされており、リコール対象の拡大は訴訟の増加にもつながりかねない。裁判の結果次第では和解金などの負担も発生する恐れがある。

タカタの15年3月末の純資産は1487億円、現預金は691億円。実際はリコール費用が出ていくタイミングや集団訴訟での支払いまでには時間差があるとみられるものの、債務超過となる可能性や資金の流動性など財務基盤の悪化が懸念される。

<自動車メーカーも呉越同舟>

タカタの欠陥エアバッグ問題については、自動車メーカーも「呉越同舟」の状況にある。もしもタカタ製の仕様そのものが欠陥との結論に至り、同社が約20%の世界シェアを持つインフレ―ターをすべて作ることができなくなると、自動車生産そのものも滞る恐れがあるためだ。

事態の軟着陸をめざし、タカタを支えざるを得ない――。欠陥エアバッグ問題に対する自動車各社の首脳発言にはこうした思いも透けて見える。自工会の池会長によれば、タカタ側が製造上のミスなどと過去に認めた分について、同社が分割払いで対応することで自動車各社はほぼ合意済みで、一気に高額な支払いが生じないよう配慮している。タカタに今後発生するリコール費用の支払いについても、分割払いにするなど「各社とも話し合いに応じる覚悟はあると思う」と話す。

「タカタは他が参入しにくい製品を作り、それを日本の自動車メーカーがみな必要としている。だからこそ銀行は金を出さなければならない」(ある投資銀行筋)との見方もある。

だが、安全に対する不安が拭えない限り、将来の新規取引でのタカタ離れは徐々に進む可能性がある。経済産業省幹部も「原因究明が第一だが、代替品が十分に供給された後、タカタとの関係を絶対に残さないといけないのかどうか、自動車メーカーもそういう話をいったん整理しないといけない」と指摘している。

(白木真紀 取材協力:江本恵美、Antoni Slodkowski、斎藤真理 編集:北松克朗)

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