アングル:企業悩ます人手不足・人件費増、高齢者雇用などに活路

2015年5月22日(金)19時45分

[東京 22日 ロイター] - 景気拡大の裏側で深刻化する人手不足と人件費上昇が、非正規比率の高い小売り、外食、サービス産業などの経営を一段と圧迫している。必要なパート社員やアルバイトを確保するには時給引き上げが避けられない。

出店計画を下方修正するなど経営戦略への影響も目立つ中、各社には高齢者雇用や短時間での雇用などに活路を見いだそうという動きも広がっている。  

    <出店計画にも影響>       

全国に約3000店を展開し、約9万人の従業員を抱えるすかいらーく 。2015年1―3月期は、人手不足のショックを乗り切り、売上高人件費率が前年同期の32.7%から31.7%に低下した。寺口博取締役は「生産性向上に取り組み、人件費率が低下した」と話す。

同社が取り組んだのは、店舗オペレーションの簡素化や効率的な人員配置などで、こうした細かな対策の積み重ねが奏功した。しかし、寺口氏は、年間を通して、人件費率が前年を下回るかどうかは、「何とも言えない状況」と慎重な姿勢を崩さない。   

小売りや外食、サービス産業は総コストに占める人件費の比率が高く、賃金を引き上げれば、他の産業以上の負担となって企業経営に跳ね返る。   

実際に、人手不足の長期化による人件費上昇は、各社の事業計画にも影を落とし始めている。平和堂 は、今期7店舗の出店を予定しているが「パートなど人手不足が問題」(夏原平和社長)という。

多くのアルバイトに支えられているコンビニエンスストアも出店計画に狂いが生じている。セブン―イレブン・ジャパン、ローソン 、ファミリーマート の大手3社の15年2月期は、期初の出店計画4300店に対し、実際は3732店にとどまった。ローソンの玉塚元一社長は「地域によっては、人手不足は深刻さを増している」と指摘する。16年2月期は合計3900店の新規出店を計画しているが、着地は不透明だ。

    <人件費増で「お値打ち感」失う>   

輸入牛肉価格の上昇に円安が加わって材料コスト高に苦しむ牛丼業界では、深刻な人手不足がビジネスモデルの転換を迫る事態も起きている。

夜間にひとりでオペレーションする「ワンオペ」が問題となったゼンショーホールディングス は、2015年3月期の連結当期損益が上場来初めて赤字となった。原材料高・人件費増・米国の事業清算などが大きな打撃となった。「ワンオペ」による深夜営業を休止した店舗については、9月にはすべて営業再開を計画しており、人件費負担増は今期も続く。   

上昇したコストを商品価格に転嫁できれば問題解決は容易だが、それには価格に厳しい消費者の反応が壁になる。

松屋フーズ は、昨年7月にチルド牛肉を使った「プレミアム牛めし」を発売。従来の牛めしを順次切り替えるはずだったが、計画は足踏みだ。緑川源治社長は「生産性が上がる準備が間に合わない」と説明する一方、「牛めしで高い価格は取りにくいかもしれない。日常食べるものは、お値打ち感と美味しさが必要」と本音を漏らす。従来の牛めし290円に対して、プレミアム牛めしは380円。想定以上の客離れを引き起こしており、価格設定の難しさを示した格好だ。   

    <短時間勤務・高齢者など取り込み>

吉野家ホールディングス は今後、高齢者や主婦の雇用を拡大する方針だ。店舗の労働環境改善を進めるチームを1月に立ち上げ、定年退職した高齢者や主婦が働くための職場作りを進めている。例えば、従来行ってきたような、米が炊きあがった釜を持ち上げるなどの作業は、高齢者や女性には困難になるため、改善できないか検討中だ。   

イオンでも、2―4時間の短時間のパートを積極投入する。「これまで、夕方の繁忙期に人手が足りず、品切れやレジの行列などを起こし、機会損失を生んでいた」(岡崎双一イオンリテール社長)という。今期は、30億円をこうした人材確保に充てる。   

また、丸井グループ では、コールセンターで事務処理にあたるアルバイト確保が厳しくなりつつあるという。首都圏では集まりにくい人材をカバーするため、コールセンターを各地に分散させることで、人員不足の解消への取り組みを強化している。

(清水律子)

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