焦点:大台前に足踏みする日経平均、株高材料に「いびつ」さも

2015年3月3日(火)16時54分

[東京 3日 ロイター] - 日経平均が1万9000円の大台を前に足踏みしている。ドル/円が約2週間ぶりに120円台を回復したにもかかわらず、利益確定売りに押されマイナス圏に沈んだ。

これ以上の円安進行がなくても企業業績は増益が期待できるとの見方もあり、日本株をめぐる強気ムードは強いままだが、株高材料には歪みもみられるとの指摘もある。

<値上がり上位は医薬品と食料品>

ドル・インデックスの上昇基調が続いている。6月の米利上げ観測が再び強まってきているほか、欧州中央銀行(ECB)が今月から量的緩和策を開始することによるユーロ安期待もあり、2日の海外市場で95ポイント台に上昇、約11年半ぶりの高水準で推移している。

強いドルがけん引し、ドル/円も約2週間ぶりの120円台に上昇。「6日の2月雇用統計を確かめたい」(東海東京調査センターのシニアストラテジスト、柴田秀樹氏)との声も多く、大台乗せ後には119円後半に沈んだが、金融政策の方向性の違いを背景に先高観は強い。

ただ、3日の市場で日経平均は小幅安。1万9000円の大台を前に2日連続で足踏みとなった。円安を好感する動きは限定的で、業種別値上がり上位に並ぶのは医薬品と食料品。「リバランス中心の売買が多く、円安を材料にした買いは乏しい」(大手証券トレーダー)という。

<GSは円安なしでも増益可と予想>

これまでのアベノミクス相場とは異なり、日本株と円安の相関性が低下していることについて、ゴールドマン・サックス証券ストラテジストの建部和礼氏は、1)円安による増益効果が徐々に減衰、2)市場の評価も低下、3)コーポレートガバナンスなどミクロ材料が注目されている──ことなどがあると指摘する。

GSの推計では、2012─13年度は対ドルでの10円の円安進行で8%ポイントの営業利益成長率の押し上げ効果があったが、14年度では6%ポイント、15─16年度では4%ポイントに下がる。市場でも円安による増益よりも「本業」での増益を評価する傾向が表れているという。

ただ、建部氏は円安なしでも日本企業は増益基調を維持できると話す。「消費増税延期に加え、米国を中心としたグローバル需要が利益を押し上げる。コーポレート・ガバナンスなど日本固有のミクロ材料への投資家の注目度も高い」という。GSではTOPIXの今後12カ月の目標水準を1650ポイントから1770ポイントに引き上げたが、円安進行を前提とはしていない。

<株主還元に偏る利益配分>

一方、足元の日本株高は、円安による業績効果などファンダメンタルズの評価から離れ、過剰な株主還元を背景にした「いびつ」さが目立つという指摘もある。

「企業の利益を株主、従業員、設備投資などにどう配分するべきかという議論がないまま、ムードに乗って株主還元への配分だけがどんどん増えている。賃金を増やそうという動きもあるが、まだ比率としては小さく、経済の好循環はまだ期待薄だ」とりそな銀行アセットマネジメント部チーフ・エコノミストの黒瀬浩一氏は警戒感を示す。配当取りが終われば、日本株をいったん売却する動きが出るおそれもあるとみている。

自社株買いと配当を合わせた株主還元策は急増している。野村証券シニアストラテジストの西山賢吾氏の推計(2月23日付リポート)では、2014年度に配当9.5兆円、自社株買い3.2兆円の計12.7兆円となり、7年ぶりに過去最高額を更新する見通しだ。15年度も計14.2兆円が予想されている。

一方、賃金はここ20年近くほぼ横ばいだ。日本労働組合総連合会のデータでは、所定内賃金は1997年を100として、2013年は92.2。多少の賃金上昇では、労働分配率の改善は期待しにくい。

株主還元が増えることは株価にとってプラス材料ではあるが、利益の適切な配分が行われず、経済の好循環が損なわれるようでは、長期的にはネガティブな影響をもたらしかねない。

(伊賀大記 編集:佐々木美和)

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