最新記事

米大統領選

ロシアハッキングの恐るべき真相──プーチンは民主派のクリントンを狙った

2017年1月10日(火)19時20分
エリアス・グロル

プーチンにとってトランプは西側のバカな取り巻きの一人 Sergei Karpukhin- REUTERS

<米情報機関が先週末に公開したロシアハッキングについての報告書は、プーチンがクリントンに対する執念深い恨みから米大統領選挙に介入したと断定する。そしてこの手法は、今年重要な選挙を迎えるドイツやフランスにも既に及んでいる>

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカの民主主義プロセスの信用を傷つけ、ドナルド・トランプ次期大統領を当選させる目的で、米大統領選に影響を与えるよう指示した――先週金曜に公開された機密情報を除いた調査報告書は、そう結論付けた。

 報告書は中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)と国家安全保障局(NSA)が作成した。ロシアが前例のない選挙介入に及びアメリカの政治団体のコンピューターシステムを標的にして、サイバー攻撃で盗んだ情報を流出させたと断定するなど、これまでで最も詳細な分析結果を含む内容だ。ハッキングや偽情報の流布、ネットでの匿名の誹謗中傷(トロール)など、ロシア政府の手法は多方面に及んだと指摘。その目的は、アメリカの選挙制度に疑念を抱かせ、トランプの当選を後押しすることだったと結論付けた。

 トランプはこれまで再三にわたり、ロシアの関与に疑問を呈してきた。金曜に米情報機関から直接説明を受けた後ですら、事態をめぐる混乱に背を向けた。

「選挙の結果には全く影響がなかった。投票機械が操作されたこともない」とトランプは声明を発表。「共和党全国委員会(RNC)へのハッキングを試みた形跡もあった。だがRNCには強固な防御体制があり、ハッカー側が失敗した」

 その点について、報告書に具体的な記述はない。「ロシアは共和党側の標的からも情報収集したが、(民主党側にしたような)暴露行為には出なかった」と述べるに留まった。

ロシアの地政学的勝利

 ロシアの政府高官らがトランプの勝利をロシアの地政学的勝利として祝福する通信を、米情報機関が傍受していたと、複数のメディアが伝えた。米政府当局は、盗んだ文書を内部告発サイト「ウィキリークス」に流したロシア側の複数の人物をすでに特定しているという。

【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
【参考記事】「トランプ圧政」で早くもスパイ流出が心配される米情報機関

 ロシアの介入の動機には、プーチンの米政府に対する個人的な恨みがあると報告書は指摘した。「プーチンはクリントン前国務長官について、ロシアで不正選挙疑惑が持ち上がった2011~12年に、大規模な反政府運動を扇動したと公の場で批判し、過去の発言は自分を貶めるものだったと根に持っていた。そうした理由から、プーチンが彼女の名誉を傷つけようとした可能性が高い」

 プーチンの恨みに追い打ちをかけたのは、ロシアに恥をかかせた一連の「暴露」だった。「プーチンはパナマ文書やオリンピックのドーピングスキャンダルについて、アメリカがロシアの名誉を傷つけるために指示したものだと公言していた。彼にはアメリカのイメージを失墜させ、偽善国家のレッテルを貼るよう情報流出を指示する動機があった」

【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中