最新記事
映画

「真のモンスター」は殺人AI人形ではなかった...ホラー映画『M3GAN/ミーガン』が見せたものとは?

Who's the Real Monster?

2023年6月8日(木)15時20分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
『M3GAN/ミーガン』

子供にとっては親友、親にとっては協力者になるようプログラムされたミーガン(左)はケイディ(右)を守るために邪魔者を血祭りに上げる UNIVERSAL PICTURESーSLATE

<子供を守る使命を帯びたおもちゃが惨劇を起こす、人間の罪。そして知識と知恵の違いについて...>

アメリカで育った人なら、『M3GAN/ミーガン』のオープニングを見て、子供時代の土曜日の朝を思い出すに違いない。

土曜の朝の子供向けアニメ番組には、おもちゃのCMが付き物だった。メーカーはどんな製品であれ、いつまでも楽しく遊べますと宣伝する。 続いて描かれる失望感も、きっと覚えているだろう。

スクリーンに映し出されるのは「パーペチュアル・ペット(永遠のペット)」という、ぬいぐるみのCM。コンピューター制御だから犬や猫と違って死なず、充電すれば一生でも遊べるという触れ込みだ。

だが8歳の少女ケイディ(バイオレット・マッグロウ)が車の後部座席で遊んでいるパーペチュアル・ペットは、おやつをねだり、おならみたいな音を立てるだけでパッとしない。外は猛吹雪で、前の席では両親が運転に苦戦しながら口げんかをしている。

『ミーガン』はテクノロジーの暴走がテーマ。人間の機能を肩代わりするという触れ込みの技術はとかく失敗か期待外れに終わることを、冒頭で強調してみせる。

今や私たちはおすすめの本や映画を、その道に通じた店員や評論家や友人ではなく、アルゴリズムに聞く。

もっとも、車を買ったばかりの人に新車を売り込んだりするくらいだから、アルゴリズムの性能は高が知れている。私たちは人間顔負けの文章を書く対話型AI(人工知能)の登場に驚いているが、その実際の知能は虚言癖のある凡庸な高校生のレベルだろう。

子役のエイミー・ドナルドが演じ、ジェナ・デービスが声を担当したAI人形のミーガンは、生身の大人にさえ困難な使命を与えられる。それは、心に深い傷を負った子供のサポートだ。

車の中で両親は、ケイディにiPadをしまいなさいと命じる。その後、娘のiPadの使い方をめぐって言い争ううちに車がトラックと衝突し、2人とも死んでしまう。

残されたケイディはおばのジェマ(アリソン・ウィリアムズ)に引き取られる。玩具メーカーで研究開発を担当するジェマだが、子供との接し方はまるで分かっていない。

ジェマはパーペチュアル・ペットに続く新製品の開発という試練と姪の世話をまとめて解決するため、一計を案じる。子供にとって最高の友達になるようにプログラムされた等身大のAI人形ミーガンに、「あらゆるつらい出来事からケイディを守りなさい」と指示するのだ。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中