コラム

「世界で最も安全な国」中国で続く無差別殺傷事件の本当の動機

2024年11月28日(木)16時14分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国で続く無差別殺傷事件の容疑者の多くは無職の中年男性。将来に絶望したとされる彼らの本当の動機は「自分がもし死ぬなら他人を身代わりや道連れにする」心理だ>

「世界で最も安全な国」と外務省スポークスマンが言い張る中国で、無差別殺傷事件が相次いでいる。11月11日に広東省珠海市内で発生した車を使った無差別殺傷事件は35人が死亡、43人がけが。16日には江蘇省無錫市の専門学校で無差別切り付け事件が起き、8人が死亡、17人が負傷した。この種の事件は実はこれだけではない。事件の数があまりに多いので、死傷者が少なければ報じられず、社会から「無視」されている。

多くの容疑者は40歳以上の無職中年男性だった。今年6月に吉林省の公園で米大学の講師4人をナイフで襲った男性は55歳、同月の蘇州日本人学校スクールバス襲撃事件の男性は52歳、9月に深圳市で日本人学校の児童を刺殺した男性は44歳。中国には「死也要拉个墊背的(自分がもし死ぬなら他人を身代わりや道連れにする)」という言葉がある。これこそが将来に絶望したとされる無職中年男性たちの本当の動機だ。


絶望的な中年男性に比べ、若者たちははるかに従順に見える。最近、河南省の大学生の間で「夜騎開封(開封市への夜間サイクリング)」がブームになった。開封市など地元政府は当初、これを単なるイベントと考えていたが、参加者が20万人を超えたため怖くなって慌てて禁止令を出し、学校を封鎖して学生たちに外出禁止を厳命した。ひどい朝令暮改ぶりだが、閉じ込められた大学生の中に、大声で「反対」と叫ぶ者はいなかった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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