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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

フランスの農民たちの悲痛な叫びに見える社会のバランス

スーパーマーケットに並ぶ野菜 このうちフランス産はどのくらいあるのか?  筆者撮影

フランスではデモの類は、日常茶飯事に起こっていることで、今回の農民たちによる抗議運動も当初は、「また、誰かがやってるな・・」くらいの気持ちで、私は軽く見ていました。なので、最初は何が問題であるのか、まったく意味がわからないまま、事の成り行きをうかがっていました。

今回の農民たちの抗議行動は、周囲の欧州諸国でも広がりを見せているもので、フランス全土に張り巡らされた道路をトラクターや藁の束などを使って封鎖するという象徴的かつ大がかりな抗議行動です。現在は、首都パリへ続く道路、空港への道路、ランジス(世界最大とも言われる農産物海産物の国際市場)への道をブロックし、日々、その範囲を拡大しています。

私がフランスに来たばかりの頃、ほとんどフランスについての知識がなかった私に、フランス人の夫は誇らしげに「フランスは、国内でほぼ全ての食料品をカバーできる素晴らしい農業大国だ!」と教えてくれました。もう20年以上も前のことです。しかし、私の中では、農業についての状況はそれ以来アップデートされていなかったので、最初に今回の問題が起こり始めたときには、一体、何が問題なのか全く理解できなかったのです。

しかし、この騒動がもう2週間以上も経つのに、一向におさまりを見せないなか、新聞に報道されたり、テレビなどでも大討論会などが行われたりして、農民たちの訴えが世間に浮き彫りにされていくなか、なるほど、世界情勢や環境問題に対応しながら、変化していった社会の歪のようなものが、農民たちを苦しめていたこと、また、フランスやヨーロッパがとってきた政策には、抜け道や矛盾のようなものが存在し、弱い立場の農民たちがその煽りを受け続けてきたのだということが見えてきました。

環境保護問題、戦争、インフレ・・あらゆるものが農民を苦しめる結果に・・

「真面目に誠実に働いているのに生活は苦しくなり続け、このままでは、廃業するしかない!」という農民たちの訴えから、原因は一つではなく、いくつもの原因が複合的に重なり続けた結果であるということが見えてきています。正確な数字であるかどうかはわかりませんが、彼らの「毎日誰かが生活を苦にして命を絶ってしまう!」という涙ながらの訴えは、真に迫るものがあります。

まず、その一つに挙げられるのは、地球環境問題で、干ばつかと思うと、今度は洪水といった自然災害的なものもあります。雨や天候などの自然の恵みや災害は、大きく農業に影響を与えます。しかし、この地球環境問題への対応として、ディーゼルエンジンへの撤廃に向かう動きで、フランス政府は、2030年までにこれを廃止させていくために、ディーゼルエンジンの増税を発表していました。これまでに耐えに耐えて苦しい思いをしてきた農家にとっては、特にこの(非道路用にまで及ぶ)ディーゼルエンジンへの増税は、大変な痛手を被る結果になっていたのです。

また、政府は、国民に安全な食品を提供するためにEU全体としても、この農業生産に対して、厳しい規制を加えており、それがこのインフレも相まって、生産過程に非常なコストが必用となります。なかでもフランスは他の欧州諸国よりも一層厳しい規格を課しています。それだけ安全なものを提供してくれるということは、消費者にとってはありがたいことで、価格に反映されるべきところなのですが、ここに割って入ってくるのが輸入品の問題です。

特に南米からの輸入品に関しては、通商交渉に最大限の圧力をかけると言いながら、実際にはザル状態のようです。

大手スーパーマーケットなどは、インフレに対応すべく、少しでも安価なものを仕入れて価格の上昇を抑えようとするなか、多くの農産物も海外から輸入しているわけですが、おかしなことにこの輸入品に対しては、フランス国内に課しているほどの厳しい規制(遺伝子組み換え農産物や使用禁止の農薬など)やチェックが充分ではなく、当然、それらの農産物と同じ舞台にたつフランスの農産物も買い叩かれる図式に組み込まれてしまうわけです。

それに加えて、特にウクライナからの輸入に関しては、フランスは、現在のウクライナの状況を考慮し、援助の一部として、ウクライナからの農産物や畜産物に関しては、関税を免除するという措置がとられており、このためにウクライナ産の農産物・畜産物が市場に出回る価格が大幅に安くなっているために、厳しい規制のもとに農業生産、畜産を行っているフランスの農業・畜産農家は太刀打ちできずに苦しめられている結果になっているという窮状に繋がっています。

例えば鶏肉に関していえば、EU圏内では、4万羽以上の養鶏場には特別な許可が必用で厳しく管理されているところ、ウクライナでは200万羽以上の大養鶏場で飼育されたものが輸出されており、しかも、その養鶏場はオリガルヒが独占経営し、このオリガルヒ経営の会社は、ポーランドやオランダなどに加工工場を所有し、EU産として出荷しているという恐ろしい現状なのです。ロシアからの石油やあらゆる製品を制限して制裁を加えている横では、しっかりロシアにお金が流れる道を手助けし、かつ自国の農業・畜産業を衰退させていたという事実には、言葉を失うばかりです。

きれいごとの犠牲者

フランス(EU)には、EGAlim(エガリム)法という「健康と環境への危険性」を理由に欧州連合で禁止されている物質を含む農産物の流通を厳しく規制する法律が存在します。この法律が制定されたのは、2018年のことで、その後、2021年には、このEGAlim法には、農業報酬を保護・改善することを目的とした「農業および食品分野における商業関係のバランス」についての項目が追加されています。

にもかかわらず、大手流通業者や加工業者が口先では農民を尊重していると言いながら、食料を原価以下の値段に買い叩いていたり、国外に購買センターをおいて、エガリム法を回避していたりするのが現状だったのです。フランスの農産物は、多くの規制を守らなければならない一方で、外国の農産物にはフランスで禁止されている農薬や添加物が使用されていることが不問に付されているのが現実のようです。

地球環境問題や戦争対応、インフレ対応のために政府が行ってきたことの歪の数々を受け続け苦しんできた農民たちの悲痛な叫びを多くの国民は支持しています。結局は、きれいごとを並べて社会をよりよくしているようなことを言っても、その歪は最も弱い立場の者たちにしわ寄せがいく、正直者がバカを見る世の中にフランス国民が黙っているはずはありません。現在のところは、彼らの抗議行動は通常?のフランスのデモや暴動のように暴力的なところはありません(全くないわけでもないが・・)。デモが暴徒化することが不思議ではないフランスでむしろ、正当?に象徴的なやり方で、それでも真摯に訴え続ける彼らの行動は、より真実味をもって受け取られているのかもしれません。

フランス政府は、先週の段階ですでに新しくその責についた首相が農民たちのもとに自ら出向いて、「私たちは、今後、農業に関する課題を優先することに決めました!」と宣言し、「非道路用のディーゼルエンジンの増税を撤廃」、「農家への規制や手続きを簡素化する10件のパッケージを策定」、「農場へのチェック管理は年1回に削減」、「動物流行性出血症に対する補償金を90%に増額して獣医費用をカバー」、「危機に瀕している有機農家に対して5,000万ユーロの緊急基金を設立」などの回答を示しました。

ランジス警戒.jpg農民たちの侵入を阻止するために憲兵隊が包囲するランジス国際市場  筆者撮影

これで、一部の農民は撤退したかに見えたのですが、まだまだ納得しきれず怒りが憤懣している多くの農民たちの抗議運動は続き、FNSEA(全国農業経営組合連合会)は、無期限の首都包囲を発表しています。

これまで、スーパーマーケットなどに買い物に行っても、あまり産地などを注意深く見てはいなかったし、むしろ、どちらかといえば、フランスのものは高いというイメージがあったのですが、この騒動によって、むしろ、フランスのものは、それだけ安全に生産されているものだったんだな・・と思い知らされたのも事実です。

また、世界中で色々な出来事が起こる中でのそれぞれの事象への対応や環境問題と資本主義のバランス、簡単に言えば、きれいごとと現実のギャップをこの農民たちの抗議行動から、あらためて考えさせられることになりました。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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