移民として色々書いてきている訳ですが、国籍の話は避けられないな、と思うので今日は国籍の話をしたいと思います。
初回のブログにも書いたのですが、私はアメリカの抽選永住権に当選して移住しました。いわゆるグリーンカードと言うものを取得した訳ですが、日本でその話をすると結構多くの方に「アメリカ人になったの?」と聞かれる事が多かったです。分かりにくいかも知れないので最初に説明しておくと、アメリカの場合は永住権(グリーンカード)というのは移民ビザというカテゴリになります。つまり、あくまで他国の国籍を持つ「外国人」に対して合法的に居住、就労などをする事を認めるビザでしかありません。10年という有効期限もありますし、更新には費用も発生します。
一般的には永住権を取得後の5年間アメリカに居住している実績があり、犯罪等を犯していなければアメリカ市民に帰化する権利を得ることが出来ます。永住権者には無く市民権者にある権利は選挙権であり、義務は裁判における陪審員になります。そして、永住権者と市民権者の大きな違いは家族への永住権申請の優先度が上がるという事です。アメリカに配偶者や家族を呼び寄せたいという思いを持っている移民にとって市民権取得はMustとも言えるでしょう。
では、毎年何人くらいの人がアメリカの市民権を取得しているのでしょうか?Department of Homeland Security(アメリカ 国土安全保障省)のAnnual Flow Report U.S. Naturalizations: 2019からデータを見ていきたいと思います。

2017年は707,265人、2018年は761,901人、2019年は843,593人と増加傾向にあります。これはその時の世界の景気や戦争などにも影響されるのですが、トランプ政権になって永住権者の権利がはく奪されるかもしれないという不安を反映して市民権取得数が増加しているという事はあるかな、と思います。
ちなみに同じ期間で日本国籍を取得した人数はどのくらいいるのだろう?と気になったので法務省のウェブサイトから拾ってきました。2017年は966人、2018年は958人、2019年は884人と言う事でアメリカと比べると遥かに少ないのがわかります。いや、アメリカが多いと言う事なのかもしれませんが。

話をアメリカに戻して、新たにアメリカ人になった人は元々どこの国籍だったのかも調べてみました。隣国であるメキシコが断トツで15%前後を占めています。次にインド、フィリピン、中国のアジア勢があわせて17%前後を占め、ベトナム、韓国そしてビルマがそれに続いています。日本人の市民権取得者の人数が出ていませんが、恐らく非常に少ないのでは無いでしょうか?

先ほど永住権を取得してから5年で市民権を申請できると書きましたが、実際どのくらいの期間で市民権申請に踏み切るのか?というデータも出ていたので共有します。

永住権取得してか平均して8年後に市民権を申請するという事なんですが、アジア勢は平均よりも1年早い7年で市民権を申請するというデータが出ています。アジア系の移民はさっさと帰化して家族を呼び寄せ、ここで生活のどんどん基盤を作っていくという傾向があるように感じますがデータがそれを裏付けているかな、と思います。しかし、そんなアジア勢の中で日本人は市民権を積極的に取得しようとしません。それは何故でしょうか?
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日本人がアメリカ市民に帰化をしない理由は2つあるのでは?と考えています。
1. アメリカに家族を呼び寄せる必要が無いから
2. アメリカ市民に帰化をすると日本国籍を喪失するから
1番については、もちろん戦前には日本人がハワイ、南米、アメリカなどへ家族と共に移民していった歴史はありますが、現代では住み慣れた日本を離れて家族ごとアメリカに移住しようという日本人は殆どいないのではないかな?と思います。他国出身の移民にとっては非常に大きいモチベーションになる家族の呼び寄せは日本人にとってはモチベーションにならないのだと推測します。ただ、配偶者に永住権を取ってあげたいという人は市民権を取得していますね。しかし、それ以外の場合に帰化したいという思いがあっても日本人のアメリカ市民への帰化を踏みとどまらせる要因は2番では無いかな、と思います。
日本の国籍法は単一国籍が原則となっていて、日本国籍を有する者が自己の志望により外国籍を取得した場合には自動的に日本国籍を喪失する(国籍法第11条)となっています。日本人として生まれ育ってきた人に取って、日本国籍を喪失すると言うのはアイデンティティまで喪失しかねない事柄になる場合もあります。日本国籍を失うくらいならアメリカの市民権はいらないという気持ちはよくわかりますので、それでもアメリカ人として生きたいという思いが固まっている人が申請をすれば良いと思います。
最近だとアカデミー賞でメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞したカズ・ヒロ氏、少し前だとノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏がアメリカに帰化していたと言う事で話題になりましたね。あとテニスの大坂なおみ選手の二重国籍の事とか、とかく日本では日本国籍を離れたり、他国の国籍を持っている人に対しての関心が高い様に見えます。人生において国籍を変える事が起こり得るという事や、国籍を(合法的に)複数持つ事が有り得るという事も一般的では無いと言うか、あまり認知されていないのかな、と推測します。
続いて筆者のアメリカ市民への帰化した体験を書いていきたいと思います。
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私は偶然にもアメリカの永住権が当たり渡米したのですが、移住から8年後の2012年に市民権を取得しました。 平均的な年数からの市民権申請と言えますね。多くの日本人と同様に生まれてからずっと自分が日本人であるという事に疑問を持っていなかった私が市民権を取った理由は2つありました。
1. 国籍が変わるという体験を経て、自分のアイデンティティにどういう変化が起きるのか興味があった
2. アメリカと自分が住んでいる地域に市民として参加、貢献したいと思った
どちらも理由としては大きかったんですが、人生において国籍を変える機会というのはなかなか無いですよね。当然それに伴ってデメリットもあるかもしれないんですが、一度しか無い人生ですから試せることは試してみたいという思いが非常に強くありました。そして2番ですが、アメリカ移住後に色々な事があってホームレス直前まで落ち、アメリカ社会の底辺近くまで行きました。そんな自分がアメリカ人の部下を使いながら、アメリカの社会で仕事をしながら、何かしらは社会に貢献しているという自負が沸いてきていた時期でもあったんです。苦労もしたけど、チャンスもくれたのがアメリカでした。そういう思いもあって市民として選挙権も行使して、積極的に社会に参加したいと思ったのでした。
市民権の申請から宣誓式までは本当にスムーズで3,4か月くらいでした。指紋採取も面接もスムーズに行き、あっという間にオークランドで行われた宣誓式を迎えました。前日の夜に流石に色々な思いが渦巻いてきて「本当に良いのか?」「自分が自分で無くなってしまうのでは?」「二度と日本に入れなくなったらどうしよう?」などと悩み始めたのですが、翌朝にはちゃんと会場に向かいました。入り口でグリーンカードを没収され、指定された席に座りオバマ大統領(当時)のビデオメッセージを見たり、役所の人の話を聞き、その後会場にいる皆の出身国が読み上げられてから宣誓に。全てが終わると帰化証明書が手渡され、会場を出ると出張郵便局がパスポートの申請を受け付けている、とそんな感じでした。アメリカらしくセレモニーは盛り上がるけど、さっぱりあっさりと終わる感じでした。
宣誓式の様子(2019年のラスベガスでの宣誓式ですが、最初から最後まで見る事が出来ます)
帰化してからしばらくの間、レストランやいろんな場所で「Citizenになったんだよ」と言っていました。それを聞いた皆が必ず「Congratulations!」と祝ってくれるのが嬉しくて面白くて(笑)
さて、アメリカ人になって私のアイデンティティに変化は生じたでしょうか?結果は、私は私であり、日本人であるという意識は変わりませんでした。民族、血族といったアイデンティティはそのままで、国籍という自分の所属が日本からアメリカに変わったという意外なほどに淡白なものでした。それまでも永住権を持っていましたから、就職するにも生活するにも何も不便はありませんでした。市民になって何が変わったかと言えば、この国に対しての当事者意識が強く芽生えてきた事だと思います。生まれつき持っていたものでは無く、自分の意志で選択した国籍ですから何事も他人事と思える訳もなく。この感覚は日本人であった時よりも、時に必要以上に強く重いものであったりします。
さて、次回は日本国籍の喪失手続きと、コロナ禍における元日本人のアメリカ人が日本に入国するために必要なビザの手続きについて書きたいと思います。