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平野美紀|オーストラリア

オーストラリア vs イングランド、ライバル心と英国人のブラックジョーク

意外に思うかもしれないが、「クリケット」はオーストラリアの国民的スポーツのひとつだ。(Credit:Kolbz-iStock)

撮影・取材のコーディネーションに、トラブルはつきものだ。

以前には、ラグビー取材の最中に選手が心臓発作を起こして倒れたために試合中断となり、撮影が続行できなくなったこともあった。日本から来豪し、時間が限られているクルーにとっては、撮影できないのは死活問題だ。この時は急遽、近くでやっている別のラグビーの試合を探し出し、直談判してなんとか撮影させてもらうことで事なきを得たが、現場で何が起こるかわからないところが、いつもヒヤヒヤものでもある。

昨年12月に放送された番組「野球伝来150年特番 斎藤佑樹 野球の未来へ~原点回帰の旅」のシドニー・ロケをお手伝いしたことは、こちらのブログでも書いたが、この現場でも肝を冷やすことがあった。

オーストラリアの国民的スポーツ「クリケット」

オーストラリアはスポーツ大国だ。これは誰もが認めるところだろう。オーストラリアと聞いて思い浮かべるスポーツ何か?と訊かれたら、真っ先に「ラグビー」と答える人が多いのではないかと思う。

たしかにラグビーは人気のスポーツだが、本当に人気があるのは、日本人が良く知っている15人制のラグビーではない。オーストラリアで最も人気があるラグビーは、13人制の「リーグ・ラグビー」と呼ばれるもので、日本で一般的な15人制は「ユニオン・ラグビー」と言って、人気度も競技人口もリーグ・ラグビーより劣る。

そして、リーグ・ラグビーと共に人気が高いのが、オーストラリアで独自に発展した「オーストラリアン・ルールズ(オーストラリアン・フットボール)」で、見た目もルールも全くと言っていいほど、一般的なラグビーとは異なる。この競技は、「フッティー」という愛称で呼ばれ、もしかしたら、人気度は一番かもしれない。

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英連邦の国々でクリケットはとても人気が高い。(Credit:afby71-iStock)

こうしたラグビー/フッティーに並び人気が高く、国民的スポーツと呼べるのが、「クリケット」だ。クリケットは、日本ではあまり馴染みがないが、英連邦諸国での人気は想像以上で、とくに、国別対抗戦ともなれば、一気に自国の応援がヒートアップするほどだ。

そんな、国民的人気スポーツであり、野球の原点とも言われるクリケットの国際試合・オーストラリア vs イングランド戦をこの番組で取材することになった。

一瞬、血の気が引いた英国人のブラックジョーク

さまざまな困難を乗り越えて、ようやく取材撮影許可が下りたことにホッとしたのも束の間、試合が行われる取材当日、血の気が引くほど肝を冷やす事件(?)が起こったのだ。

豪クリケット協会のメディア担当者から、メディアパスを発行してもらうよう指示され、クリケット場内に入るクルー全員のパスポートや身分証明書を提出して、パスの発行を待つことに...

しかし、ここでひとつ、気がかりなことがあった。

それは、撮影許可が下りた後に、日本から来豪するクルーのメンバーに変更があり、予め申請していたメンバーとは異なる人物が1人いたからだ。

私はパス登録の担当者に、「日本出発直前にメンバーが1人変更になり、この人が代わりに来ている人です」と彼のパスポートを出しながら伝えたが、その場ではとくに反応はなく、大丈夫そうであったため、皆で談笑しながらパスができるのを待っていた。

ところが、それから10分くらい経った頃、担当者がトンデモないことを口にしたのだ。

「ひとり、キャンセルされました」

一瞬、頭の中が真っ白になると同時に、体中の血がすべて流れ出てしまったかと思うほど、青ざめた。こんなところで、1人だけおいていくわけにはいかない。どうしたらいいのか、、と...

慌てて気を取り直し、窓口にいた担当者に確認する。

「誰がキャンセルされたのですか?」

すると、思いがけない名前が返ってきた。

「フィリップです」

は?フィリップは、最初から申請して許可を得ているメンバーで、英国出身とはいえこの国の住人だし、何が問題なのか、さっぱりわからない。ここで、フィリップ本人が窓口の担当者に「なんでキャンセルなの?」と訊くと、思いもよらない驚きの答えが・・・

「あなた、さっきオーストラリアを応援していると言ったでしょ」

なんですと?!と、私は目が点になった。

どうやら、パスの発行を待つ間、我々が話していた内容が担当者に聞こえていたようなのだ。その時、フィリップは笑いながらこんな話をしていた。

「今回この仕事で、オーストラリア vs イングランドの国際クリケットマッチに行くことを英国にいる父親に話したら、すごく羨ましがっていた。でも、自分はオーストラリアに長く住んでいるので、オーストラリアを応援するけどね」

どうやら、「フィリップは英国人のくせに、オーストラリアを応援するとは何事か!」ということらしい。たしかに、窓口の担当者は、完璧なブリティッシュ・イングリッシュ話者であったので、英国人であることは明らか。おそらく、この国際マッチのために来豪した英クリケット協会のスタッフなのだろう。本当にそんなことで?!と一瞬思ったが、その後、2人が笑いながら話しているのを見て、ああ、ジョークだったのか...と胸を撫でおろした。それにしても、いくらライバル心を燃やしているとはいえ、ちょっと冗談がすぎるのではないか?

英国人のブラックジョークは、時になかなかキツイものがあるが、これには本当に肝を冷やした。だが、当のフィリップは、さすが英国人というか慣れたもので、キャンセルされたと言われてもたいして驚く様子もなく、すぐにその意味を察知していたようだ。英国人同士では、よくあるジョークなのかもしれないが、慣れていない日本人としては、もうちょっとお手柔らかに願いたい...と、つくづく思った一件だった。〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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