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平野美紀|オーストラリア

東京五輪 代表選手団として一番乗りしたオーストラリアが五輪に積極的なワケ

世界的な感染症のパンデミックという最悪の時期に行われる東京オリンピック・パラリンピック。(Credit:winhorse-iStock)

東京五輪の事前合宿のために、6月1日に日本に到着。世界のどの国よりも先に、一番乗りしたオーストラリアのソフトボール代表チーム。(参照

オーストラリアは、五輪出場選手・関係者への新型コロナウイルス・ワクチンを優先的に接種できるようにしたため、ソフトボール代表選手らも、もちろん接種を完了しての参加だ。

こうした様子からも「オーストラリアは、東京五輪に積極的なのか?」といった声が聞こえる。

開催が迫り、豪国内メディアのなかにも、世界的パンデミックの最中に東京五輪を開催することについて、疑問を投げかけるところもないわけではない。

しかし、オーストラリア国内での東京五輪に関する報道は、今のところ極めて少ない。主なニュース系サイトでも「Tokyo Olympics」コーナーは、探さないとわからないような扱いのところも多いくらいだ。五輪出場選手選考会は着々と行われ、出場が決まった選手も増えてきており、開催まで1ヶ月を切った今、そろそろメインになってもいい頃なのだが...

そんななか、豪オリンピック委員会(AOC)は、新型コロナウイルス感染拡大により、日本国内で高まる五輪開催反対の声をよそに、大会への不信や不安などは一切口にせず、「プランB(中止という選択)がなく、開催されるからには、安全かつ成功させることに全力を尽くしたい」と発言。オーストラリアとしては、今、東京大会について声を挙げてとやかく言うよりも、優先したい事情があるのは確かだ。(参照

次がないソフトボールと野球... 一番乗りと出場断念という対照的な選択

豪ソフトボール代表チームは、5月31日にシドニーを出発し、シンガポール経由で成田空港に到着した。この様子は日本で大きく報道されたので、ご存じの方も多いことと思う。

しかし、この出発/到着の様子を地元メディアが報道するために割いた時間や記事スペースはわずかだった。これは、ひとえにオーストラリア全体がソフトボールというスポーツに、あまり熱心ではないということが影響しているともいえるかもしれない。

それでも、パンデミックの最中に行われようとしている五輪に、世界で最初に乗り込んでいくということで、豪国内での五輪放映権を有すチャンネル7は、選手や監督らに心境を事前インタビューした短いニュースを放送。(参考

このインタビューの中でも触れられているが、ソフトボールという競技は、次回のパリ大会では種目が外され、今回の東京大会が最後の五輪ともいえるため、選手らもその覚悟で臨んでいるという。だから、彼女たちにとっては是が非でも参加したい大会なのだ。

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「東京五輪が最後のチャンス」となるソフトボールと野球...対照的な道を歩む豪代表チームの思いは如何に...(Credit:ca2hill-iStock)

その一方で、ソフトボールとは対照的に、豪野球代表チームは、東京五輪を断念した。これは、「新型コロナを懸念 」といった見出しで報道されたため、東京の感染拡大が理由で出場を取りやめたように思われているフシがあるが、そうではない。

野球の五輪出場をかけた予選が、台湾からメキシコへ移ったことから、長時間フライトかつ航空券代の高騰に加え、予選を終えてオーストラリアに戻ってきた時に、国境規制で14日間の強制隔離が必要となる。この長距離移動と隔離期間の拘束はもちろんだが、隔離ホテルの代金が自己負担となっているのもネックになったはずだ。

隔離ホテルでの検疫にかかるコストは、州によって若干異なるが、現在、シドニー空港を利用する場合は、1人3,000豪ドル(約25万円)と、決して安くはない。これを五輪だけではなく、予選に参加するだけでやらなくてはならず、もし予選で敗退したら・・・と考えたら、積極的になれないのも無理からぬことだろう。

また、予選の決勝は6月26日に設定されていたため、もし決勝に残り、五輪出場権を得たとしても、そこから帰国して14日間の隔離となり、その間、練習ができないばかりか、隔離終了後も十分な時間がとれない...というのも理由のひとつだ。

こうした様々な理由から、予選参加を断念。よって、自動的に五輪出場の夢も消えたというわけだ。(参照

しかし、野球もまた、ソフトボール同様、次のパリ大会では種目削除となる。だからこそ、「gut-wrenching(断腸の思い)」での決断だったのも事実だ。(参照

この豪野球代表チームが予選参加を辞退し、これによって東京五輪出場もなくなったことについても、大きく報道した豪国内メディアはほぼなかった。これもまた、野球がオーストラリアでは人気のないスポーツであることが一因かもしれないが・・・野球もソフトボールも世界の強豪国であるにも関わらず、豪国内での認知度は悲しくなるほど低い。

オーストラリアは東京五輪に関する発言に消極的?

2032年に開催される予定の夏季五輪に、オーストラリア第三の都市「ブリスベン」が立候補している。今年2月には「優先候補地」となり、東京大会開直前の7月21日に東京で行われるIOC(国際オリンピック委員会)総会で承認、決定される見込みだ。(参照

このことが、オーストラリアにとっては、五輪を前向きに盛り上げていきたい最大の理由だろう。

また、IOC副会長であり、東京オリンピック・パラリンピック調整委員長でもあるジョン・コーツ氏の存在も大きい。コーツ氏は、豪オリンピック委員会の会長であり、豪オリンピック財団の会長でもある。

東京大会の調整委員長として開催国の日本と東京都とのやり取りを重ねてきたコーツ氏は、パンデミック下での五輪開催へ疑問を投げかける声に対し、「彼ら=開催国に任せている」と繰り返し発言。参加選手へのワクチン接種についても、義務化はせず、開催国の判断に任せると言ってきた。

これは、裏を返せば、彼ら=開催国が「こうする」といえば、そのようにすることができるのではないか?と思わせる発言でもあるが、当の開催国側からは、「(契約上)IOCに権限がある」という発言しか聞こえてこなかった。

コーツ氏の発言や動向については、豪国内メディアより、圧倒的に日本での報道のほうが多い。長年に渡って、国内外のオリンピック関係機関の中枢を担う人物がいるオーストラリアでは、東京五輪への不信を大きく扱うよりも、2032年ブリスベン五輪開催と成功に向けて発信したい...というのが、本音なのかもしれない。

災難続きの五輪・・・Road To Tokyo 東京への道

そんなオーストラリアならではともいえる事情があるなか、この国でNHKと同じ立場の National Broadcaster(国を代表する公共放送)である豪ABC放送が、『Road To Tokyo 東京への道』と題したシリーズ番組を開始。その初回で、「災難続きの東京五輪・・・」とした短いクリップを放送した。

この番組について、東京スポーツ紙が『「呪われた東京五輪」が海外でも話題 豪の公共放送がスタジアム建設問題や買収疑惑、巨額経費など特集』と題して紹介。私もTwitterでこの記事のことを教えてもらい、この放送回をABCのオンデマンド放送で見たのだが、東京五輪が決まってから現在に至るまでの紆余曲折をコンパクトにまとめていた。

この部分は、東スポ紙が言うような『特集』ではなく、『呪われた』とは言えないまでも、既存施設を利用するから低コストで開催可能としていたものが、実はそうではなかったことや、五輪予算そのものが(パンデミックでの延長等も手伝って)最終的には巨額に膨れ上がっていることなどに触れ、ただでさえ猛暑の夏に開催される懸念があること、次々と責任者が辞任するなど、順風満帆とはいえない東京五輪の舞台裏をうまくまとめているので、興味のある人は視聴してみて欲しい。

★ちょうどその部分から始まるように設定していますが、最初から見てもらえばわかるように、上記部分がメインではなく、あくまでも、オーストラリアのアスリートで五輪出場が決まった人などの紹介になっています。

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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