「私には不要な一着。でも、それが新たな価値を生み、誰かの人生を救う!?」

ここ数年、日本でもアップサイクルへの関心が高まりつつあります。特にアパレル業界では、不要になった衣類を再生し、新たな価値を生み出す取り組みが広がっています。

環境負荷の低減や持続可能な消費が求められる中、この手法は、インテリアや家具、食品包装、さらには廃棄物削減を目的とした製造業にも広がりを見せています。

とはいえ、日本でアップサイクルに対する意識が十分に根付いているとは言えないのが現状。長引く物価高の影響で、多くの人がコストパフォーマンスを優先し、「長く使うこと」よりも「安く手に入れること」を重視しています。

そんな中、米国ポートランドでは、単なる「再利用」にとどまらない、新しいアップサイクルの形が生まれています。

「ビジネス × 社会貢献」という枠を超え、さらに発展したのが、「ソーシャル・アップサイクル」という概念。

これは、モノの再生にとどまらず、そのプロセス自体を地域や社会と結びつける取り組みです。 その象徴的な例が、ウェディングドレスを「未来をつなぐ力」へと変えるプロジェクト。

この物語の先に、あなたの視点が新たな可能性を生み出すかもしれません。

newsweekjp_20250327004350.jpgPhoto | Suri Ho, Adorned in Grace



| 廃棄から希望へ ー 女性の自立とつながる命

ご存知でしたか? アメリカでは、ウェディングドレスは一生に一度の特別なものとして購入するのが一般的です。日本のようにレンタルする文化はほとんどありません。

多くの女性が夢見て、高額なウェディングドレスを購入します(一般的な価格は日本円で約30万円以上)。しかし、その晴れ舞台はほんの数時間で終わり、一度着ただけのドレスはクローゼットの奥深くに押し込まれ、やがて邪魔者扱いされます。最終的にリサイクルショップや寄付センターに持ち込まれるものの、多くは新たな持ち主を見つけることなく廃棄されてしまう現実があります。

「捨てるには惜しい。でも、持ち続けるには扱いに困る。」

そんなウェディングドレスが、もし誰かの未来を救うことができるとしたら----。その思いから生まれたのが、家庭内の虐待や貧困、ホームレス状態、人身売買のリスクにさらされた少女たちを支援する非営利団体「コンパッション・コネクト」(キリスト教プロテスタント非営利団体)です。

ポートランドを拠点とするこのプロジェクトは、2009年、ある女性の結婚式をきっかけに始まりました。

彼女は過去に、経済的困窮や家庭の事情によって性的搾取にさらされた経験を持つ一人。その過去から脱却して新しい人生を歩み始める。そんな背景を知った多くの教会に集う人々が、彼女へのウェディングドレスの寄付を寄付を申し出ました。この純粋な善意がきっかけとなり、持続可能な支援プロジェクトへと発展していったのです。

今では、全米各地から毎年数百枚のドレスが寄付され、一着一着が新たな命を吹き込まれています。

寄付されたドレスはまず、プロや引退をした裁縫職人やドレスメーカーによる修復・補修が施され、新品同様に蘇ります。一方、販売が難しいと判断されたドレスは、『デザインスタジオ』へと送られ、新たな形、すなわちアップサイクルされて生まれ変わっていく。

このスタジオは、経済的困窮や家庭問題により社会的に脆弱な立場にある少女や女性たちが、裁縫やデザイン技術を学び、自立への一歩を踏み出すための場。

ここで彼女たちは、プロのデザイナーの指導の下でジュエリーやアクセサリー、さらにはオリジナルのファッションアイテムへとアップサイクルしていきます。

このように、再生されたドレスや製品は、店舗やオンラインを通じて販売されていきます。

購入者は、経済的理由で新品のドレスには手が届かない、環境意識や社会貢献を目的とする人たちです。

その売上の約70%は人身売買防止活動や被害者支援に充てられ、トラウマを抱える少女たちの支援に役立てられています。残りの30%は、店舗の運営費やドレスの修繕費に充てられ、持続可能なプロジェクトとして継続されるための基盤となっています。

newsweekjp_20250327001241.jpgPhoto | Design Studio, Rachel Murfitt

| 「生きていてもいい」と思えた日 ― そして、歩み出す勇気

実は、米国で人身売買の犠牲になる少女たちの年齢は、12歳から14歳という驚くべき若さです。

その背景には家庭内の不和や貧困、虐待、育児放棄など複雑な事情が絡み合っています。彼女たちは頼れる人もなく、孤独な日々を過ごしている現実があります。

そんな少女たちに、アップサイクルの場だけではく、安心して過ごせる居場所も提供しているコンパッション・コネクト。週に数回開かれるメンタープログラムでは、面談を経て選ばれた信頼できる大人が集い、少女たちの声に耳を傾けています。

ある少女はこう語ります。

「ここに来て、『生まれて初めて自分は大切にされている』と感じられた。誰かが私の話を真剣に聞いてくれる。ただそれだけで心が軽くなって、『生きていてもいいんだ』って思えた・・・。」

少女たちにとって、この居場所は単なる避難所ではなく、自分を受け入れ、未来への一歩を踏み出すための出発点となっているのです。

支援を受けることで得た安心感が、やがて自らの手で新たな未来を創る力へと変わっていく。

こうした変化をもたらす「ソーシャル・アップサイクル」という取り組みは、単なるリユースやリサイクルを超え、社会を動かす新たなムーブメントへと成長しています。

次ページ  提案!地域と未来をつなぐJIMOTOアップサイクルの可能性」。「ソーシャル・アップサイクル」は、日本でどう根付く?

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Photo | Adorned in Grace

| 「アップサイクル×社会貢献」次世代のサステナブルアクション

こうした米国での取り組みは、現在の日本においても決して無関係とは思えません。

日本ではアップサイクルの考えがまだ十分に広まっているとは言えませんが、新たな価値を創造するこのコンセプトは、持続可能な未来を築くためのカギとなる概念です。

この『ソーシャル・アップサイクル』という考え方は、米国でも比較的新しく注目されている取り組みです。

単なるアップサイクルや再利用にとどまらず、その過程を地域社会と結びつけ、支援が必要な人々をサポートすることを目的としています。これは、環境への配慮だけでなく、地域コミュニティ全体に新たな価値をもたらす仕組みなのです。

日本でこのような新しいコンセプトを広めるには、まだ多くの課題があります。その中でも、集客数日本一を誇る大手ファッションビル運営企業によるアップサイクル・プロジェクト。持続可能な社会を目指す新たな取り組みが、いくつも試されている様子が連日報道されています。

こうした動きが広がる中で、地域の価値を再認識し、新たな形で活かそうとする流れも緩やかに生まれているようです。

newsweekjp_20250327001608.jpgPhoto | Design Studio, Rachel Murfitt

| 「JIMOTO アップサイクル」 地域と共に歩むサステナブルな選択

最近、目にする機会が増えた『JIMOTO』という言葉、ご存知ですか。

もともとは、地元を指すものですが、M・Z世代の間では『地域の資源を活かし、新たな価値を生み出す』という概念へと進化しています。

ファッション、アート、食文化など多様に地域独自の魅力を掘り起こし、新たなビジネスやコミュニティ形成へと結びつける動きが広がりつつあります。

しかし、その一方でM・Z世代が直面するのは、低賃金や長引く物価高騰による経済的な制約です。

多くの若者にとって、環境に配慮したエシカル消費やアップサイクル商品は魅力的。でも、価格の高さがネックとなり、手が届きにくい現実もあります。持続可能な選択をしたいという意識はあっても、経済的な理由からファストファッションや低価格の大量生産品を選ばざるを得ない人が多い。

それでも、M・Z世代は単なる価格の安さだけではなく、消費行動の背景にあるストーリーや倫理性を重視する傾向が想像以上に強まっています。SNSを通じて、環境負荷の高い大量生産型のビジネスモデルが問題視されるなか、地元資源を活かし、地域に根ざしたサステナブルな選択肢が注目されつつあります。

アップサイクル品が単に高価なエシカル商品としてではなく、地域経済を支える手段である。そして、長期的な視点でコストパフォーマンスの良い選択肢となることが伝われば、より多くの若い層の支持を得ることに繋がるでしょう。

『JIMOTOの視点 x アップサイクル』という仕掛けを作る!

このことで、地域の職人や若手デザイナーとの協働が生まれ、廃棄予定の素材を活用した新たな製品づくりにつながる可能性があります。

地域と共に成長し、経済的にも持続可能な選択肢としてJIMOTOアップサイクルが広げるモデルケースを増やしていく。これによって、日本でも新たな消費の形が生まれやすくなるはずです。

newsweekjp_20250327003309.jpgPhoto | Yayoi Yamamoto, PDX Coordinator & Planner, LLC

あなたにとって不要になったモノ。それが誰かの希望となり、未来を明るく照らす存在へと変わるかもしれません。

この続きは、あなたの手の中に。さて、どんな未来を紡いでいきたいですか?

次号特集:ポートランド流『女性の働き方』に迫る!

米国といえども、男性中心とされる建築・デザイン業界。そんな中、新しくオープンしたポートランド国際空港のプロジェクトに携わったシングルマザーがいます。

建築の学位を持つわけでは無い彼女が、どのようにキャリアを築き、男性中心の現場で経験を積んできたのか?働く母としてのバランス。苦悩、知恵。ポートランド流の働き方と、彼女が切り拓いた道のり。その真髄に迫ります!

2025年6月中旬に掲載です。

記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。