先月のインフレ率は前年同月比で114.2%と、過去30年で最大の上昇率を更新し続けているアルゼンチン。食料品、生活必需品、サービス、交通機関から家賃・光熱費、軒並み値上がりしています。
国内通貨であるアルゼンチンペソの価値が下がっていくことに伴い、最近新しく最大紙幣が2000ペソ札に更新されたのですが、それもドルに並行為替レートで換算すると、一紙幣4ドル程度の価値しかありません。
(ATMなどでお金を下ろす際全て100ペソ札で出てくるケースもたまにあり、100ドル分だけでも約500枚のペソ札を受け取ることとなるので、出るときには自分のお金にも関わらず銀行強盗でもしているような気分になります。)



前政権から引き渡された課題であるIMFへの債務返済がベースにあることに加え、今年は1920年以来の大干ばつの影響にも見舞われ、大豆などの穀物が最大の輸出品目であるこの国は、現在一層ドル不足に陥っている状況です。

賃金はインフレに伴い上昇はしているものの、インフレ率に比例して賃上げはされていないため、労働組合のストライキやデモなども起こります。労働組合が強い、バス・地下鉄などの交通機関、トラック運転手など運輸関係、銀行関係などは比較的良い方ですが、文化・教育系は特に難しく、私の勤務する劇場の給与も数カ月おきに上がるものの、インフレ率には伴っていないので、ドルに換算すると同じ額をもらっていても毎月給与が減っていることになります。

また身近なところだと、音楽や語学の個人レッスンだったり、会計士や心理カウンセラーなど、個人で開業しているフリーランスの人々も、インフレ率に合わせてレッスン代や相談料を個人の判断で上げていく必要があります。これは案配が非常に難しくて、実際3か月ごとくらいに上げていくのがベターなのですが、生徒さんに直接、来月からレッスン代を上げますと伝えるのは毎回なかなか心苦しいものがあります。(例えば1時間の楽器レッスン代も10年前の相場は約250ペソでしたが今では5000ペソ程度~になっています。)



選挙イヤーのアルゼンチン

そんな経済危機真っ只中のアルゼンチンですが、今年10月に大統領選を控えています。

23の州と首都ブエノスアイレスで構成されるこの国では、大統領選と同じタイミングで州知事・市長選挙、国・州議会議員選挙など、様々な選挙が同じ年に行われます。

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(アルゼンチン地図。日本の約7,5倍の国土面積があります。
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大統領選に関しては、本選挙で賛成票45%に達するか、または40%以上の得票率を獲得し、かつ次に得票数の多い候補者に対して10ポイント以上の差がついた場合に就任が決定します。そうでない場合は11月に最多得票者2名の間で最終決定投票(balotaje)が行われます。

大統領選他、多くの州の選挙では「パソ」と呼ばれる予備選挙が行われます。得票率が1.5%に満たない候補者は除外されるため、ここでの結果を元に本選挙前に党内の候補者を一人に絞る最終決定が行われます。また本選挙に向けた世論調査としての一面も大きいように思います。

18歳以上70歳未満は投票が義務付けられていますが、選挙権自体は16歳以上から持つことができます。



現職大統領・副大統領の続投の可能性は?

現職の左派アルベルト・フェルナンデス大統領は任期4年目ですが、今年の大統領選には出馬しないと表明しており、ニ期目は目指さない意向を明らかにしています。

大統領就任直後は支持率80%だったアルベルト大統領、現在は支持率20%とすっかり逆転。この4年間でコロナ禍対応、ポストコロナの経済活動の正常化やIMFとの交渉に奔走していましたが、緊縮財政の中出来ることも限られ、パンデミック中のスキャンダルもマイナスポイントとなり影は薄く、特にパッと何をやるでもなく、出馬しないことも想像通りでした。

影の薄い大統領と比較してインパクトが強いのは、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領。つい先日も革命記念日の日に大統領府前の広場から演説を行い、悪天候にもかかわらず広場は演説を聞きに集まった大勢の人で溢れかえっていました。彼女の演説は、過去2007年から2015年までアルゼンチンの大統領を務めていただけあり、人を惹きつけるものがあります。

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(カサロサーダと呼ばれる大統領府。Photo: diegograndi -istock)

今でもこのような「キルチネリスタ」、またその頭文字をとって「K」と呼ばれるキルチネル派も多く存在しますが、このクリスティーナ副大統領、実は昨年、大統領任期中の汚職疑惑で有罪判決が出ています。

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アルゼンチンの検察は、2022年、公共事業に関する汚職の罪で禁錮12年を求刑し、その後連邦裁判所から禁錮6年と終身の公職追放を言い渡されています。しかし、副大統領の不逮捕特権があることなどから、拘束はされず、現在も副大統領として引き続き職務についています。

そして、彼女に関しての出来事として記憶に新しいのは、丁度この判決が出るまでの渦中に起きた、「クリスティーナ副大統領暗殺未遂事件」。全国民にとってとても衝撃的な出来事で、翌日はこの事件を受けて、国として特別な休日にすると発表されたことも覚えています。

事件が起きたのは、首都ブエノスアイレスで昨年9月夜。クリスティーナ副大統領が自宅前で、彼女を支持する市民らに囲まれ、挨拶を行っていたところでした。突然群衆の中から男が至近距離で彼女に銃口を向けたのですが、その瞬間に銃が動作不良になり、命を取り留めたのです。
休日となった翌日には、数千人の支持者が首都中心部に集まり、副大統領への支持を表明するとともに、この出来事を強く批判しました。
そしてクリスティーナ副大統領も、今回の大統領選には早々に出馬しない意思を示していました。



波乱の予備選挙スタート

この選挙イヤー、毎回選挙が近づくにつれお互いの足を引っ張りあうようなことや様々な事件が起こり、選挙に影響を与えます。先駆けて今月18日にチャコ州というところで予備選挙が行われたのですが、その結果に関しても、とある事件の影響が大きく出た形となりました。

今月18日、チャコでのPASOの結果が発表され、2007年から現在まで長い間チャコ州の知事をつとめてきたホルヘ・カピタニッチ知事を、野党候補者が圧倒しました。得票率は野党候補者総数が42.66%に対し、カピタニッチは36.83%に留まりました。

信頼は大きかったであろう現職の知事が大きく差をつけられてしまったのには、とある女性の失踪事件が関係しています。

チャコ州の28歳の女性が先日失踪し、殺人事件として現在捜査中なのですが、容疑者として家宅捜索などされている人物が、この女性の10歳年下の夫とその家族。そして、この家族は、先述の、チャコで最も影響力のある、ホルヘ・カピタニッチ州知事と密接な関係にあった、というのです。最新情報では女性の首元の骨だけ発見されたということで、残忍なバラバラ殺人事件としてニュースでも大きく取り上げられています。

この州の平均投票率はおよそ70%から75%程度なのですが、今回の予備選挙の投票率は58%、そのうち白票が8%。女性を対象にした殺人事件「フェミサイド」は国中で大きく問題視されており、この事件への州民の遺憾が強く反映された結果となったのではないかと思います。

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(Photo: istock)

大統領選の予備選挙は8月に行われます。
6月24日に、全党からの大統領・副大統領候補者が出揃ったところですが、早速候補者確定に関して各党内部で揉め事も起きているようで、どこも足並みは揃っていないようです。