ワイン生産地の気候や土壌がワインの個性をどのように特徴づけるのかをテーマにワイン産地を巡る旅。ミッテルライン(ライン中流)、ナーエに続き、旅の最終地プファルツを巡りました。 (画像は筆者撮影。2点はドイツワイン協会提供)

ワイン産地国内で第2のプファルツ

プファルツは、ドイツで2番目に大きなワイン産地です。栽培面積 (約24.000ヘクタール))は、北に隣接するラインヘッセン(約27.500ヘクタール)に次ぐ規模を誇ります。西側はプフェルツの森の高地によって守られ、冷たい風と激しい雨から守られており、東側はライン川の低地に接しています。

夏は乾燥していますが暑すぎず、冬は温暖で、地中海性気候に近い微気候が形成されています。土壌は砂岩、石灰岩、泥灰土、ロースローム、花崗岩、スレートなどさまざまです。石灰岩は特に北プファルツに多く、黄土とロームは南ファルツに多く見られます。

プファルツの森に囲まれ、保護されているこの地域のワイン生産者の主な焦点は、古典的なブドウ品種、とりわけリースリング。栽培面積は、ほぼ6.000ヘクタールに達し、今やプファルツのナンバーワンに君臨しています。一方、ピノ・ブランやピノ・グリも増加傾向にあります。シルヴァーナー、ミュラートゥルガウ、ショイレーベなども、プファルツの多様なブドウ品種です。

ナイスワイナリー

世界最大のワインフェスティバル開催地バード・デュルクハイムから北上すること約23㎞に位置するキンデンハイム。ナイスワイナリーは、この街を中心に50ヘクタールほどの畑でブドウを栽培しています。冷涼な北部プファルツの石灰岩が支配する高地で、ミネラルがストレートなリースリングと、生き生きとしたブルゴーニュを生産しています。

newsweekjp_20240829071210.jpg「ワインは、ある種の涼しさと、風にさらされた畑に空気を送り込み、植生期間を長くする西風からの恩恵を受けたブドウで造られています。その結果、適度なアルコール度数、深みのある味わい、十分に発達したアロマ、爽やかな酸の構成が生まれます」と、同ワイナリーを経営するアクセル・ナイスさん(画像上)。

土壌に含まれる石灰分が高く、自然なアプローチと手作業によるおかげで、濃密でコンパクト、力強いプファルツワインに決定的な影響を与えています。

newsweekjp_20240829071308.jpgナイスワインの特徴は、フレッシュなエレガンスと生き生きとした軽さ、そして透明感と素直さ。さらにワインの表現力、複雑さ、そして余韻の長さも同じくらい重要なことだとアクセルさん。搬送はドイツ国内の運送会社と契約。ボトルを軽減するなど、環境保全に努めています。

ブルゴーニュ品種60%、リースリング約20%、赤ワインは約10%などのワインを、年間38万本を生産。国内はもとより、海外15か国へ輸出し、生産の30%が輸出されているそうです。

次はワイン産地フォルスト・・・

=====

シュピンドラーワイナリーレストラン

ナイスワイナリーから南下すること約30kmでワイン産地のフォルストに到着です。ここでスピンドラー家は1620年からワインを醸造しています。現在11代目のマルクス・シュピンドラ―さん(画像下・©DWI)がワイナリーを運営しています。

newsweekjp_20240829090133.jpgフォルスト周辺プファルツの森の雨と風の陰にある温暖な気候は、傑出したワインを生産するための素晴らしい条件を提供しています。20ヘクタールのブドウ畑のなかでもキルヒェンシュトゥック、ウンゲホイヤー、ペヒシュタインといった畑は、最高のリースリングワインを生み出しています。

これらの特級畑には、貝殻石灰岩、玄武岩、色砂岩など、様々な種類の岩があり、ブドウの木の深い根は、様々なミネラルを吸収し、ブドウに蓄え、これがワインを特徴付けています。

例えば土壌に含まれる玄武岩は、熱を蓄える役割を果たし、夜間にゆっくりと熱を放出するため、日々の気候の変動を抑えることができます。しかも風通しがよく、温まりやすい土壌は、ミネラルが豊富で、エキスに富み、果実味豊かなワインを育むことができるのです。

同ワイナリーは、有機ブドウ栽培のガイドラインに従ってブドウ畑を耕作しており、自家製の堆肥、多様な緑、厳格な有機植物保護に努めています。

newsweekjp_20240829071605.jpg訪問日は、マルクスさんの弟フロリアンさん(画像上)の経営するレストラン併設のワインバーで試飲。近郊のワイナリー2軒オイゲン・ミュラーワイナリー、ゲオルク・モスバッハワイナリーの運営者も集合し、ワインを紹介してくれました。
newsweekjp_20240829073419.jpg

オイゲン・ミュラーワイナリー

「ワイナリーは、フォルストの中心に位置しています」と、クリスティ-ネ・ミュラーさん。夫のステファンさんと共に2代目ワイン醸造家として20ヘクタールでブドウを栽培しています。

newsweekjp_20240829090338.jpg

1935年創設の同ワイナリーは、1767年まで遡りもともとワインの樽工房だったそう。現ワイナリー1代目のクルト・ミュラーさんも若い頃に自分でオリジナルの樽を作り、その樽は今でも特級畑のリースリングと赤ワインに使われて強い個性を持つワインを醸造しているそうです。

「管理された環境に優しいブドウ栽培のガイドラインに従って作業を行っています。機械的な土壌耕作、環境に配慮した植物保護、収穫時に選別されたブドウは、ステンレス・タンクや木樽でのゆっくりとした冷却発酵や熟成と同様に重視している点です」(クリスティ-ネさん)

ゲオルク・モスバッハ―ワイナリー

モスバッハー家の先祖は200年以上。ここフォルストでワイン生産者として暮らしてきました。1991年から同ワイナリーを運営するのは、ザビーネ・モスバッハー=デューリンガーさん(3人の画像・右)とその夫ユルゲン・デューリンガーさん。22ヘクタールのブドウ畑で栽培し、プファルツのトップワイナリーのひとつとなりました。

newsweekjp_20240829090410.jpg

試飲で印象に残っているのは、清涼感あふれる優しい味わいの2022年リースリングGG です。

ちなみにエチケットに表示されているGGとはグローセス・ゲヴェックスの略。格付けされているブドウ畑は、ドイツで4段階ありますが、グローセス・ゲヴェックスとは(VDP格付の辛口の最高級格付)の基準で生産されるワインです。

注・VDP(ドイツ・プレディカーツ・ワインエステート協会)。VDPは、厳格な審査過程を経て新たに入会できる、ドイツを代表する高品質ワインの目印となっています。

ワイン造りの哲学は、自然と調和しながら、最高の品質を追求すること。2012年以来、有機農法に従って栽培しています。

次は若手の活躍が期待される数々のワイナリー・・・

=====

ウィンド・ラ-ボルトワイナリー

シュピンドラーレストランでランチをとった後、ウィンド・ラボルトワイナリーの6代目クリストフさん(画像下・左)と母リタさんに会いました1852年より、ワイン街道南部に位置するブルヴァイラーでワイン造りに取り組んでいます。

newsweekjp_20240829071755.jpg18ヘクタールのブドウ畑の大部分には、リースリングを中心とした白ブドウ品種を植えており、ピノ・ブランやピノ・グリといった古典品種や、シルヴァーナーやミュラー・トゥルガウといった典型的な品種も栽培しているそうです。

様々なワインに加えて、スパークリングワインも生産。これらは伝統的な瓶内発酵法で製造され、少なくとも9ヶ月間、酵母とともに貯蔵するそうです。

自然保護地区クライネ・カルミットでピクニック

最終日の夕食は、標高約270メートルの自然保護地区クライネ・カルミットでブドウ畑を眺めながらピクニックを楽しみました。

クライネ・カルミットは、プファルツの森の自然公園の東、ワインと休暇のリゾート地として知られるイルべスハイムの近くに位置する低山です。名前の由来は、ラテン語で「裸の山」を意味するそうです。3000万年前、ライン砂盆の地盤沈下の際に貝殻石灰岩の堆積物として形成されたとか。

newsweekjp_20240829072017.jpg

この自然保護地区に広がるブドウ畑のパノラマビューは、息をのむ美しさ。歴史あるブドウ畑「カルミットヴィンゲルト」からの眺めは、2020年、プファルツ州で最も美しいワイン・ビューに選ばれたのも納得です。ここで、ケータリング料理と共に4つのワイナリーのワインを試飲しました。

newsweekjp_20240829091203.jpg

クランツワイナリー

ランダウ近郊のイルベスハイムで、クランツワイナリーを経営するのは、4代目ボリス・クランツさん(画像下・左ボリスさん、右は息子さん)。

newsweekjp_20240829090455.jpg

早くからワインメーカーになりたいと考えていたボリスさんがワイナリーの責任を引き継いだ時は、まだ20歳にもなっていませんでした。先見の明にたけていた彼は、クライネ・カルミットの南西側に位置するヴィンゲルトの地形がまだ険しく耕作するにはあまりにも非現実だと考えられていた頃、すでにカルミットの南斜面の可能性を見極めていたとか。

クランツワイナリーは2012年以来、VDPのメンバーです。ブドウ畑は100%有機栽培、彼の勤勉さと職人技、そして理想主義によって、常にプファルツのワイン生産者のトップに君臨しています。彼のデリケートでピュアなリースリング、ジューシーなピノ・ブラン、張りのあるミネラリーなピノ・ノワールは、南プファルツでもトップクラスの折り紙付き。彼のワインの独自性の鍵は、その原産地、つまりテロワールがワインのスタイルを決定しています。

同ワイナリーは25ヘクタールのブドウ畑を所有し、リースリング、ピノ・ノワール、ピノ・ブランをそれぞれ25%、シャルドネを10%、その他の品種を15%栽培しており、スパークリングワインも生産しています。

試飲した中で印象に残っているのは、キルヒベルクで栽培されたブドウで醸造されたリースリングワイン2021GGでした。

エックワイナリー

エックワイナリーはイルベスハイムの中心部にあります。ブドウ畑とセラーでの情熱は、経験と同様に家族経営において重要な役割を果たしているそうです。醸造マイスターの父ユルゲン・エックさんは、主にブドウ畑を担当し、娘のジャスミンさん(画像上・左)は、ワイン開発、マーケッテイングを担当しています。

newsweekjp_20240829090736.jpg

ジャスミンさんはブドウ栽培と醸造学の学士号を取得して以来、新鮮な風を吹き込むだけでなく、2018/19年にはファルツの若手醸造家トップ20にも選ばれ、地域のホープとして期待されています。

基本ラインのリースリング、ミュラー・トゥガウ辛口、ポルトギーザーをはじめ、ノンアルコールワインも手がけています。

次はブドウ畑とワインに情熱を注ぐワイナリー・・・

=====

ライナーワイナリー

同じくイルベスハイムでブドウ畑とワインに情熱を注いでいるライナーワイナリー。

同ワイナリーは、40年以上にわたり、情熱と献身を持ってブドウ畑を耕してきました。クライネ・カルミットをはじめ、約17ヘクタールのブドウ畑はすべてイルベスハイム周辺にあります。

一家の有機栽培は2005年に有機認証に繋がりました。ブドウ畑での高度な手作業と、独自の酵母菌によるブドウ果汁の自然発酵が基礎となり、忍耐を重ねた結果、心と魂を込めた自然な製品が保証されました。その先駆的な取り組みの結果、2011年にはデメター認証を取得しました。

newsweekjp_20240829090902.jpg

父ユルゲンさんと共に、2代目スヴェンさんが精力的にワイン造りに邁進しています。スヴェンさんはプファルツ地方で常に新境地を開いている若い世代に属します。ガイゼンハイム大学で醸造学を学んだあと、父のワイナリーを引き継ぎ、徐々にビオディナミに転換していきました。

彼の哲学は、「自然の成り行きに任せ、ブドウ畑やセラーにはできる限り介入しないこと。ワインは土壌、気候、天候が作り出したものを表現するものでなくてはならない」。そのため彼の造るワインは個性と特徴があり、ヴィンテージも同じものは2つとありません。

カトリン・ウィンドワイナリー

イルベスハイムの隣町アルツハイムで自分の名前を付けたワイナリーを経営するカトリン・ウィンドさん(画像下・©DWI)

現在ワイナリーは実家のガレージです。ガレージから始まったビジネスが大成功したというストーリーはワイン業界でもありました。

newsweekjp_20240829090934.jpg

ガイゼンハイム大学で学び、2011年に家族が所有する2.5ヘクタールの小さな畑を基盤にワイナリーを設立し、同年に初めて自分のワインを造ったそうです。もとはと言えば、父親の趣味から始まった小さなブドウ畑を極めて立派なビジネスに変え、今では8ヘクタール弱のブドウ畑を耕し、2023年からは有機栽培に転換しました。

彼女のワインはエレガンスと信頼性を象徴しています。ちいさなワイナリーでは、オープンガレージと謳い、年に一度イベントを開催しています。

彼女のサインが刻まれたワインは実にユニークで、個性と輝きに満ちており、綿密な畑仕事が成功の礎となっています。彼女自身が飲みやすく、フィネスと軽やかさを醸し出すワインを望んでいるため、ブドウは早めに収穫。手摘みされたブドウは、畑の天然酵母で自然発酵させる。これらは最も純粋なエレガンスと自然さを備えたワインが生まれます。

カトリンさんの手がけるリースリングはクライネ・カルミットの畑から生まれた白ワイン。石灰岩の畑は私の最大の財産だといいいます。

..........................

newsweekjp_20240829072230.jpg

ブドウ栽培には避けて通れないテロワール。だが、商品として生産されたワインは作り手の特有な個性と人となりが反映していることを改めて理解しました。造り手もテロワールの1つの要素。試飲する度に、ワインにかける情熱がグラスを通して伝わってきます。

画像上は最終日に宿泊したエーデンコーベンのホテル前に広がるブドウ畑が後方の旧修道院とマッチして素敵な風景でしたので、思わず撮りました。

取材協力・ドイツワイン協会