今年はビールの祭典「オクトーバーフェスト」がミュンヘンで3年ぶりに開催される予定(9月17日から10月3日)だ。ビールといえば、ドイツにはあまり知られていない美味しい地ビールが多種あり、現地でしか味わえないものも数多い。そこで今夏、南西ドイツの地ビール醸造所巡りで出会った逸品を紹介したい。(画像はすべて筆者撮影)
南西ドイツの地ビール醸造所巡り
ドイツの夏の気温は近年、気象観測が始まって以来の猛暑を更新している。「最高気温40度近くになります」という天気予報を耳にしても、あまり驚かなくなった自分に驚くこの頃だ。
夏といえばビールの季節。先月、南西ドイツの地ビール醸造所を巡った。

まず南部の街ウルムから南東へ約30kmの街エーインゲンへ行くことにした。なぜエーインゲンかというと、2007年より「ビール文化の街」となり、まさにビールの旅にふさわしい拠点だと考えた。しかも2011年からこの街に「ビールカルチャーホテル」もあるという。
ちなみにドイツのビール個人消費量は1980年代が最高(1人当たり約146リットル)だったが、2000年頃から徐々に減ってきている。2021年は約92リットル。減少の理由は、健康のためあまりアルコールを飲まない、高齢者はビールを飲まない傾向が強いなどである。とはいえ、クラフトビールやトレンドビールの醸造は増えている。
エーインゲン独特のビール醸造文化の起源は、1384年にまでさかのぼる。時には27もの醸造所があり、ビール愛好家の支持を競い合っていたそうだ。

現在は、500年以上の歴史を持つ5つの醸造所があり、53種類のビールに加え、宿泊客や地元の伝統的な家族経営の企業や街が提供する多様なビール文化がこの街を魅力的にしている。
コロナ禍も少し落ち着いたこの夏は、ビールハイキングコースや醸造所見学コースから、伝説的なウルリッヒ祭などの大規模な年間イベントまで、さまざまなイベントが再開され、街に活気が戻ってきた。
次・ビールをテーマにしたユニークなホテルとビールフェスへ
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シュヴァーネンビール醸造所とビールカルチャーホテル

今回泊まった「ビールカルチャーホテル」の母体は、1697年から始まったシュヴァーネン醸造所。1864年からミラー家が引き継ぎ、現在5代目ミヒャエルさん(画像・ビール醸造マイスター) と弟ドミニクさん(レストランシェフ)が中心となり、19種類のビールとクラフトビール、自家蒸留酒を手がけつつ、レストランの営業も行っている。エーインゲンで現存するビール醸造所としては最小規模だが、醸造所と2011年よりホテルも経営するようになった。

「ビール」のテーマはホテル内のデコレーションにも反映させた。50の客室をビールに因んだ形、色、素材などを用いた。例えばビールの木箱をイメージした木製のパネルが壁面を飾ったり、ビール瓶をイメージした「ビール箱の部屋(画像)」などユニークなアイデアが各所に見られる。さらに現在のホテルの敷地にあった納屋を解体し、その木材を客室の壁や床に再利用した。
ホテルの対面にあるシュヴァーネン醸造所兼レストランは、1983年に完全に建て替えられた。自家製ビールが楽しめるほか、ビアガーデンを併設したモダンなシュヴァーベン地方の郷土料理、醸造コース、醸造所ツアーなどを提供し人気を博している。自家製ビールはミヒャエルさんと父親の二人が中心となり醸造。ちなみにホテル宿泊客の9割がシュヴァーネンビールを飲む目的で来訪するという。

ミラー兄弟は2018年、地域のビールの伝統と歴史的建造物を現代建築に融合させた「特別なホテルコンセプト」に対して、バーデン・ヴュルテンベルク州の若手企業賞を受賞した。
コロナ禍の影響はありますかと聞いてみると、「離職したレストランやホテル従業員は戻ってこない。新規で従業員を募集しても応募者はいないので大変」と、ミヒャエルさん。観光業界の人手不足はかなり深刻のようだ。
ビールフェス「ウルリッヒ祭」へ
現地入りした日の夕方、エーインゲン・ベルク地区のウルリッヒ祭(毎夏開催のビールフェス)に行った。天候にも恵まれて、3年ぶりに開催されたという同祭は大変な賑わいようだった。主催者は、エーインゲン最大規模のビールメーカー・ベルク醸造所だ。

ベルク醸造所の歴史は1466年にまでさかのぼり、この地方で最も古い醸造所のひとつ。1757年にツィマーマン家が醸造所の経営を引き継いだ。訪問当日は、9代目経営者のウルリッヒ・ツィマーマン氏(画像)にウルリッヒ祭と醸造所内部を案内してもらった。
地元の人たちが待ち焦がれたウルリッヒ祭では子供向けのアトラクションも大好評だった。


ウルリッヒ祭を祝うようになってから2021年で111年を迎えたそうだ。だがコロナ禍で周年記念を祝うことができなかったため、「今年は実現できて喜びもひとしお」と、ツィマーマン氏。

ベルクビールの特徴はすべて開放型(オープン)発酵槽で熟成されている点だ。ビールはオープンタンクで8日間熟成させ、その後、タンニンを濾過し、上面発酵ビールの場合は、酵母を篩い分けスプーンで持ち上げ、次の醸造に加える。2回目の熟成は、密閉タンクで行われるとガイドツワーで詳しく教えてもらった。
オープン発酵の行程は非常に手間がかかるため、醸造所から徐々に姿を消している。しかし同醸造所では、上面発酵の小麦ビールを開放型タンクで熟成させている。この伝統的な製法は今や同社のトレードマークとなり、古い職人技に頼った醸造哲学を守り続けている。

「オープン発酵にすることで酵母がつくり出す味が繊細になり、表現力の高いビールになります。手間はかかるが美味しいことは当然で、他のブルワリーとは異なる個性をもたせることに成功しました」(ツィマーマン氏)
オープン発酵槽の中を覗くことができるガイドツアーやビール醸造講座、テイスティング会などのイベントも常時開催しているそうだ。

次・修道士たちの飲むパン「ツヴィーファルテンビール」
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ツヴィーファルテン修道院ビール

修道院のある所には、かつて修道士たちが飲むパンとして醸造していた美味しいビールがある。バロック建築で有名なツヴィーファルテン修道院にも美味しい地ビールがあると聞き、訪問した。
同院の修道士たちの飲み物として最初にビールを醸造したのは1521年。その後、ベダ・ゾンマーベルガー大修道院長は1724年、収入源としてビール醸造を本格的に手がけるようになった。1897年からビール醸造所は、バーダー家の経営となり現在に至る。500年の歴史を誇るツヴィーファルテンビールは、ビールと季節限定のミックスビールやノンアルコール飲料を生産している。

同修道院のビール醸造のフラグシップとなった商品「1521」は、モルトの繊細な味が特徴で、アルコール分5%程、麦汁濃度12%弱のビールで高い人気を誇る一品だ。
現在の醸造所のすぐ隣に新しく設計されたレストランBRAUHAUSは、100席と美しいサンテラスを備え、ビールと料理を存分に味わうことができる人気スポット。前出のベダ大修道院長が1724年に建てた歴史的建造物を近代的なビアレストランに建て直したという。
この醸造所CEOペーター・バーダー氏(画像)にレストランでお話を伺った。

同レストランのハイライトは、この地域初のタンクビールバーから醸造されたばかりのビールが飲めることだ。ビールはフェルゼンケラーと呼ばれる岩壁内の地下室からパイプでレストランに運ばれ、頭上にある大きなビールタンク(画像バーダー氏の頭上後部に見える)で完璧に冷却保存されていて、ここから直接供される。新鮮なビールを提供したいという同氏の思いが込められているそうだ。

同レストランでは12種類のタンクビールと生ビールに加え、豊富な種類のミックスビールドリンク、独自のホップジン「HopGin」、ファインシュメッカー賞を受賞したワイナリー「アレクサンダー・レイブル」のリースリング「KEINBIER」などを取り揃えている。ビール愛好家だけでなく、ワイン好きやアルコールはダメという客にも対応している。
ロッゲンブルク旧修道院のビール
現在、ロッゲンブルク修道院付属醸造所では直接ビールの醸造はしていないが、かつての名残でこの修道院の名を受け継いだビールがあると知り、ロッゲンブルクへ向かった。

話によると、ロッゲンブルク修道院ビールは現在、近郊の街ビーベラッハのシュミット醸造所で独占的に醸造されているそうだ。修道院併設レストランの料理哲学に基づき、ローゲンブルガービールの原材料はすべてこの地域のものを使っている。ローゲンブルガーの水、軽い大麦麦芽、ロースト麦芽にホップを組み合わせ、新しいビールをつくりだしたという。
もちろん同院ビールの製造は、1516年に制定された「大麦、ホップ、水の3つの原料以外を使用してはならない」というバイエルンの純粋令の仕様に厳格に則って行われている。
修道院敷地内のレストランに入り、ランチをとりながら、試飲した。

ビール醸造の歴史は、修道院の歴史と糸を引くようにつながっている。中世のロッゲンブルクでは、すでに修道院ビールが醸造されていたようだ。古地図には、現在、芸術文化会館がある旧西部農場の建物に「酒造権抹消」の記載があるそうだ。
1768/1769年、ゲオルク・リエンハルト大院長は醸造所の建物を全面改築し、設備を整え、既存の醸造所の建物を拡大したという。
この旅に出るまで全く飲んだことのなかった地ビールの数々を思い出しながら、帰路についた。旅に出て、その地でしか知ることのできない逸品は、まだまだ奥が深い。