ドイツは今、学校の夏休み真っ最中だ。生産性の高い働き方、そしてプライベート生活の充実もうまくこなすドイツ人と言うイメージを持つ方も多いようだが、実際はどうなのか。

おりしもワークライフバランスに優れた欧州の国ランキング記事を目にした。大企業から中小企業まで、国際的な給与計算、福利厚生、税金、コンプライアンスの分析調査を行うリモート社が発表した。

(注・ドイツの学校夏休みは6週間。6月下旬から9月上旬にまたがり、16州により開始時期が毎年異なる)

ワークライフバランスの尺度

欧州全域を対象としたリモート社の分析調査は、プライベートと仕事の両立に大きな影響をもたらす以下の7つの要素についてデータを収集し、評価した。

1. 年次休暇

2. 最低傷病手当金

3. 出産休暇

4. 産休手当の支給率

5. 最低賃金

6. 医療制度

7. 幸福度

これらの要素から、すべての項目で上位になった国は100点満点となるよう指数を作成し、分析した結果は以下の通り。(カッコ内数値は獲得点数)

10位 デンマーク (68,74)

幸福度指数が7.62と高い点はよく知られている。36日の法定休暇と、給与の53%が支給される18週間の有給産休がある。

9位 イタリア (68,88)

特に家族連れに魅力的な配慮がなされている。21.7週間の有給育児休暇を取得でき、給与の80%が支給される。国民皆保険制度があり、法定休暇は年間32日。

8位 アイスランド (70,17) 

アイスランドほど法定休日が多い国はトップ10にはなく、年間38日の有給休暇がある。幸福度指数は7.55で、北欧で最も幸福な国のひとつだ。国営の医療制度も大きな強み。

7位 スロベニア (70,40)

特に有給休暇が充実しており、法定年次休暇は33日、母親は15週間の産休を取得でき、給与は全額支給される。しかし、他のヨーロッパ諸国と比較すると、まだ週40時間労働が義務付けられている。

6位 ポーランド (70,48)

食費、家賃、公共交通機関など生活費用が他の国と比較して安価。20週間の有給育児休暇があり、給与の100%が支給される。法定休暇の最低日数は33日。

5位 は?

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5位 フランス (71,36)

主に法定休日が36日あることと、最低賃金が時給10.57ユーロであることから5位となった。2017年より、従業員は勤務時間外に業務上のメールを送ったり、返信したりしてはいけない、または拒否できると定めている「Right to disconnect」が導入された。

4位ドイツ (73,69)

ワークライフバランスについてはすでに多くのことが行われているが、まだ改善の余地があるようだ。法定休暇が30日のドイツは、他の欧州国より比較的少ない。産休は14週間と短いが、少なくとも有給である。失業率が低く、病気が長引いた場合にも賃金の70%が支払われるなどの利点もある。幸福度では、7.16ポイントと世界比較で13位にとどまっている。

3位ノルウェー (74,80)

第3位を獲得したのは、何よりもノルウェーの医療システムのおかげ。他の北欧諸国と同様、ノルウェーの幸福度は非常に高く、指数7.39で、今回のトップ10では2位にランクインしている。

2位スペイン (75,39)

スペインの労働文化は、仕事よりも私生活を優先させる方向にある。有名な芸術家、おいしいタパス、華麗な建物のあるこの国では、労働者に33日の法定休暇と完全有給産休16週間が与えられる。最低賃金は現在、時給7.82ユーロ。ちなみに、駐在員の多い都市ランキングでは、バレンシアとアリカンテが1位と2位を占めている。一方で近年、若者の高い失業率が問題となっている。

1位ルクセンブルク (83,47)

欧州で最も小さな国のひとつが1位になった。ルクセンブルクは、ほぼすべてのカテゴリーで高いスコアを獲得。また、20週間の産休があり、その間は給与の100%支給。最低賃金の点でも優れており、ここでは時給13ユーロあるいはそれ以上を手にすることができる。幸福度指数は、7.32で第3位。

仕事でどれだけ幸せを感じられるか?

ここでドイツの現状を探ってみた。「プライべート時間を大切にする国」というレッテルが貼られていいるものの、実はそうでないことも多いようだ。

連邦統計局によると、ドイツの被雇用者の平均労働時間は週34.8時間。EUの比較では、ドイツは週当たりの労働時間が最も短い国のひとつだ。

またベルテルスマン財団の調査では、従業員は平均してより少ない労働時間を希望しているそうだ。調査を監修した同財団マニュエラ・バリシッチ氏によると、「労働時間については男女間で希望と現実の間に大きな隔たりがある。平均すると、男性は週に41時間働いており、女性より9時間多く働いている」。

さらに、「働きすぎ」と答える男性はかなり多く、同時に「もっと働きたい」と考える女性も男性より多いという男女間の差が見られる。

今さら言うまでもないが、特に母親は、子育てと家事の狭間で思うように働けない人が多い。その理由を「子供ではなく、保育施設がない、あるいは費用がかかりすぎる点だ」と、バリシッチ氏は指摘する。

仕事は楽しい?

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仕事が楽しいと感じるのはどんな時?

カッセル大学の労働における世界の変化に関する専門家ケルスティン・ユルゲンス教授は、「仕事が人を幸せにするかという基準はない。人生設計の考え方や個人の能力、また、介護や看護の仕事を兼業しているかどうかによって大きく異なる」と語る。

「仕事の満足度を左右する要因はさまざまで、労働時間の調査からわかることをあげると、時間の編成に対する主権の問題は、非常に重要。また、働く場所を自分で決められるかどうかも重要なポイントである。これはコロナパンデミックによってさらに強まった」(ユルゲンス教授)。

決め手となるのは「評価」

一般に、感謝の気持ちは幸福感に強く影響するといわれる。それは、チーム内で何かを成し遂げたり、看護師などの仕事が社会的に高く評価されたりなど、優れた存在であることを認めてもらうことだ。

「仲間からのフィードバックが必要な時代だ。その他の幸福の要因としては、収入のレベルや仕事の安定性だけでなく、どれだけ有意義な仕事を経験できたかということが挙げられる」(ユルゲンス教授)

ワークライフバランスは高所得者だけのもの?

残念ながらドイツの看護師や介護師の過酷な労働条件は、人材不足や過労の環境が長らく改善されていない。例えば看護師として老人ホームに勤務する女性Sさん(52歳)は、こう明かしている。 

「老人ホームで35人の入居者の世話をしている。4時半に起きるため、夜は早く寝ないといけない。仕事は好きで楽しいのですが、子供たちや家族、そして自分自身のために時間を割くことができない。75%勤務ですが、多くのことがおろそかになっていると感じている。」と、家庭と仕事の両立のバランスをとることの難しさを述べるSさんだ。

「働かなければお金は足りませんし、夫が私より少し多く稼いでいるのが幸いです。フルタイムで仕事をしている同僚には子供もいるし、副業で収入を得ることも多い。そうでないとお金が足りないんです」と告白する。

ユルゲンス教授は、収入の問題がワークライフバランスの決定的な要因であるという。連邦統計局によると、ドイツでは5人に1人が低賃金部門で働いているそうだ。

「困難な生活状況にある彼らは、実際に自分の存在を確保するために一定の時間を働かなければならない人たちだ。それがどんなにストレスの多いことであっても。ワークライフバランスや休暇について考えることができるのも、高所得者の特権といえるでしょう。多くの人は、単に選択肢がないだけなのです」(ユルゲンス教授)

参考までに。ドイツでの平均給与は、年間51,009ユーロ(税込み・約722万円)。年間給与の中央値(平均)は、税込みで44,074ユーロ(624万円)。これは、Gehalt.de Stepstone.de ポータルサイトの合同給与レポート 2022 で、60 万件以上の給与データが分析された結果で明らかになったものだ。

コロナ禍により、労働時間と場所の選択に柔軟な働き方が浸透したとはいえ、「ワークライフバランスの理想と現実」の狭間で苦しんでいる庶民は多い。ギャップが埋まる日は来るのだろうか。