ドイツサッカー連盟(以下DFB)は5月17日、フリッツ・ケラー会長(64歳)の辞任を発表した。100年以上の歴史を持つDFBだが、ここ10年ほどで4人の会長が入れ替わっている。いったい何があったのか。

立ちはだかった内部の抵抗と壁

ケラー氏のDFB会長辞任に至るまでの報道は日本のメディアでもあがっているようだが、内部事情についてはあまり触れていないように思う。

最初にこれまでの流れを簡単にふり返ってみたい。

ケラー氏は、2019月9月から今年5月中旬まで、会長としてあらゆる課題に注力した。だが「内部の権力闘争、(地位を利用した)優位性の確保の問題」など、DFB運営とは全く関係ない部分で、困難を極めた対応を強いられていた。

こうした事情からケラー氏は、DFB内の「荒廃したトップたちの状況やその惨状」について該当者を徹底的に攻撃していた。

「会長として自分の理念を実現するために活動していく中で、『すべての段階』でDFB内の『抵抗と壁』に遭遇した。トップの人事刷新は必須、それなしには信頼できるDFBの新スタートはできない」(ケラー氏)

会長辞任の引き金となったのは今年4月23日、DFB執行委員会で副会長ライナー・コッホ氏を「ヒトラーの裁判官ローラント・フライスラー」に例えたからだ。

フライスラー裁判官は、ナチス・ドイツの独裁下で国家反逆行為などを裁く人民法廷の長官を務めた。ちなみに、コッホ氏の本職は弁護士である。

その後、ケラー氏はコッホ氏に謝罪したが、DFBに大きなダメージを与えてしまった失言により、およそ710万人の会員を擁する世界最大のスポーツ連盟の代表には不適任だと辞任へ追い込まれてしまった。

ケラー氏の辞任声明の一部は以下の通り。

DFBは、私が会長になる前から未解決問題を多数抱えていました。会長就任後は、DFBの信頼、透明性、啓蒙、そしてチーム内での集団的リーダーシップの実施に基づいて政策を進めました。

その目的は、DFBの「ワンマンショー」的な経営を終わらせ、プロ、アマ、ユースとのサッカーの一体感を取り戻すことでした。DFBは変わらなければならない。そのためには、信頼性、誠実さを取り戻す必要があります。

しかし、内部の徹底的調査、構造の近代化、商業活動の早期分離などの問題解決を進めるためのあらゆる段階で、DFB内の抵抗や壁にぶつかりました。会長としての指令の実施は、多くの場所で繰り返し困難になったり、不可能になったりしました。このような状況下で、私はDFB内で信頼も同僚の協力も得ることができませんでした。

DFBは、ここ10年ほどの間に4人の会長を使い潰してしまった。しかも昨年から続くコロナ問題がサッカーというスポーツに深刻な影響を与えました。現役の選手や若者を抱える何千ものクラブが最も深刻な影響を受けましたし、今もそうです。

DFBの利益のために、イデオロギー的にも財政的にも重要な問題であるにもかかわらず、透明性の実現や情報開示の権利のために法的に闘わなければなりませんでした。

私には何の責任もない2回目の税務調査の後、内部の権力闘争、優位性の確保、世間体を気にして自身のイメージづくりに執着しているトップたちに気づきました。

私に対する非難を完全に取り除くことができたのは、外部機関に依頼して何が問題なのか、どう対処していけばいいのか、調査を進め、法的確実性を確立するために独立した監督機関に関与した後でした。 

私の失言は、以上のような恥ずべき環境のDFB内で発したものです。しかし私が辞任してもDFBやサッカーというスポーツ内部の問題は解決しません。

課題山積のDFB

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とはいえ、DFB スポーツ裁判所という独立した機密機関で、これらの状況が説明され、検討されたことに感謝しているとケラー氏は語る。

ここしばらくDFBに必要な変化についての幅広い議論が始まっていることは、私に希望を与えてくれます。私は、次のような課題を解決していく必要性があると思います。

- DFBのトップの人事刷新。これができなければ、信頼できる新しいスタートを切ることはできません。DFBは、様々な検察の捜査で被告人として拘束されている人物に対する独立性を保たなければなりません。

- トップマネジメントの完全なプロ化と、全く新しい構造の迅速な導入により、DFBがアマチュアやユース部門全体のために資金を稼ぎ、サッカーの社会的使命を果たすことができるようにすること。

- DFB内で起こりうるすべての不正や不祥事を、外部の、誰にも邪魔されない、公に認められた専門家が明らかにすること。

- 献身的で有能なDFB従業員を支援し、信頼と信用に基づいたリーダーシップスタイルを強化し、特に多様性への配慮を盛り込むこと。

- DFBおよびドイツのサッカーファミリー全体が、コロナの被害を受けたアマチュアおよび青少年の活動を緊急に支援すること。

会長としてのモットーは、信頼、透明性、啓蒙、そしてチーム内での集団的リーダーシップの実施に基づいていました。その目的は、DFBの「ワンマンショー」的な経営を終わらせ、プロ、アマ、ユースとのサッカーの一体感を取り戻すことでした。

DFBの従業員は、サッカーというスポーツのために大きな情熱と専門知識を持って働いています。アマチュア陣営、プロ陣営、その他の関係者など、私を信頼して応援してくださった皆様に感謝いたします。自分の能力を最大限に発揮してサッカーに貢献できたことを光栄に思います。

DFBの不幸はケラー氏だけの責任ではない

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13代目会長としてケラー氏の在任中、内部では分裂したリーダーの中での権力闘争が続いていた。

前任会長のヴォルフガング・ニアスバッハ氏とラインハルト・グリンデル氏は、早々に辞職した。しかも自身の失言により、ケラー氏はDFBスポーツ裁判所にも、問われる羽目になった。

ケラー氏と他のDFBトップたちとの間にある敵対的な雰囲気は、彼だけの責任ではない。宿敵と言われるDFB書記長フリードリヒ・クルティウス氏とは、数え切れないほどの議論と和解の試みがなされた。

「ヒトラーの裁判官」を口走ったことで、別の問題も浮上した。

ケラー氏はミュンヘンおよびオーバーバイエルン行政地区ユダヤ人コミュニティ会長(ドイツユダヤ人中央評議会の元議長)シャーロット・クノブロッホさんと面談した。「自分の発した言葉が適切でなかった」と謝罪をすると、クノブロッホさんからポジティブな言葉をもらった。

彼の思慮の浅い発言が間違いであることは疑う余地もなく、彼自身もすでに謝罪を求めている。しかし、たった一度の言葉の過ちは、ケラー氏の長年の貢献を取り消すものではなく、また、私が知っているフリッツ・ケラーという人物を変えてしまうものでもありません。

DFB会長ケラー氏は、責任ある活動に尽力し、サッカーが社会全体の中で果たすべき重要な役割を理解している人物として、私は以前から知っています。

そのため、面談を受け入れました。友好的でオープンな交流をしたことを非常に嬉しく思っています。 

「葛藤の中で感情的になって言ってしまい、深く反省している。それは私や私の態度とは何の関係もありません。また、シャーロット・クノブロッホさんのアドバイス、励ましの言葉、率直な会話に感謝しています」(ケラー氏)

その後、ケラー氏が自らの意志で会長辞任の判断を下したことから、スポーツ裁判所の訴訟は停止となった。

深いリーダーシップの危機に瀕しているDFBの倫理委員会は、今後も検証を続ける。ちなみに同委員会のスポークスマンは、クノブロッホさんの息子である弁護士ベルント・クノブロッホ氏だ。

DBFは、構造的にも人事的にも再配置と改革が必要であり、何よりも会長の権限を強化する必要がある。今夏の欧州選手権と2024年のホーム欧州選手権を前に、DFBは信頼できる新しいスタートが求められている。

来年初めの総会まで会長職は、ライナー・コッホ氏(アマチュア担当)とペーター・ピータース氏(プロ担当)の2人の副会長が、暫定的に率いる予定だ。

DFB次期会長には現在、フィリップ・ラーム氏(FIFAワールドカップ2010年と2014年ドイツ代表キャプテン)、会長のパートナーとしてルディ・ヴェーラー(2000年から2004年までドイツ代表キャプテン)の名が挙がっているが、先行きは不明だ。

DFBを取り巻く緊張感はしばらく続きそうだ。

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筆者は、あるイベントでケラー氏と同じテーブルを囲んで会食する機会があった。DFB会長になる前のことだったが、その時の会話を通して、同氏はとても温厚篤実な人柄という印象を受けた。

コロナ禍が落ち着いたらケラー氏を訪ね、ゆっくりお話を伺いたい。