「今年、頻繁に聞いた言葉『コロナウィルス』。これをヒントに商品を作ってみました。まさかこんなに大ヒットするとは夢にも思わなかった」

こう話すのは東部ザクセン州ザイフェンで木製クリスマスグッズや玩具制作工房を経営するティノ・ギュンター氏だ。同氏の発案した煙出し人形「ウィルス学者」は、発売と同時に大きな反響を呼んだ。

この煙出し人形のモデルは、ベルリン・シャリティ大学病院ウィルス学者クリスティアン・ドロステン教授らしい?­­ギュンター氏がこの商品に込めた思いとは。

■発売一夜で完売

ドイツの伝統的なクリスマスデコレーション「煙出し人形」は、口から煙を出す大きさ10㎝前後の木彫り人形煙から漂う香りを楽しむクリスマスシーズンならではの人気アイテムだ。

今回、注目を集めた煙出し人形「ウィルス学者」(以下、学者人形)は、大きさ27㎝。口から煙を出す伝統的な商品とはちょっと趣きが違う。

「煙は頭から出ます。マスクはウィルス学者の必需品。さらにコロナ感染防止のためマスクを外すわけにはいきませんから」(ギュンター氏)

まるでオーバーヒート(失礼)した学者の頭から湯気が出ているようだ。そして大敵を踏み倒すかのごとく、学者はウィルスのプレートに立つ。

「でもマスクを外せば、舌をペロっと出しています」と、ギュンター氏の遊び心に満ちたアイデアに思わず笑ってしまった。

d228c1f9-fff2-48d2-8fd4-e480254b580d.JPG「煙出し人形ウィルス学者」の価格は1体119ユーロ(約1万5千円)。ティノ・ギュンター氏 ©Detlef Mueller

木材は、エルツ山地産のシラカバやブナ、トネリコを用いる。約2年乾燥させ、木材の湿度が8%になると作業に取りかかる。こうして長い行程と時を経て、ひとつの作品が生み出される。

「学者人形は、家族でアイデアを出し合い試行錯誤しました。12月13日(第三アドヴェント)と20日(第四アドヴェント)に発売するつもりで、まず15体を作ろうと考えました。商品として作るからには、収益に繋がることも念頭に入れねばなりません。それが一夜で予約完売し、想定外の人気にびっくり」(ギュンター氏)

今注文すれば、完成するまで2か月ほどかかるそうだ。(12月中旬現在)

「今年は、コロナ禍で辛抱が強いられました。学者人形の完成を待っていただくのも辛抱の一言です」と、ここでも笑いを誘うギュンター氏だ。

■必要は発明の母

2020年のクリスマスシーズンは、コロナ禍で過去に例を見ない減収を強いられた。工房経営者の一人としてギュンター氏は、こう明かした。

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「今年は商品販路が閉ざされてしまいました。クリスマスマーケットの中止で販売も難しくなり、ザイフェンを訪問し、工房で購入する客もいない。特にクリスマスグッズは季節品。手間暇かけて制作しても注目を集めるのは冬場だけ。大きな痛手です」

「従業員を雇う身として、2020/21年の活路を見出さねばなりません。伝統的な商品を守り続けることも大切。一方で、時流に乗ったトレンド商品開発も必要です」

「今年を振り返り、頻繁に登場した言葉はコロナウィルス。そこでウィルス学者をモチーフにした煙出し人形を作ってみようと思いました」

こうして伝統工法を駆使したトレンド商品「ウィルス学者煙出し人形」が誕生した。逆転の発想を活かしたこの作品は、まさに必要から生まれたアイデアと言っていいだろう。

「11月初旬から電話は鳴りっぱなしで、家族一同で注文対応に追われました。落ち着いて制作に没頭できなくなり、急遽オンライン注文サイトを開設。それでも注文が殺到し、サーバーがダウンした」と、うれしい悲鳴を上げるギュンター氏だ。

なんと1日の注文は1000件に上り、12月上旬までの注文は4000件だという。

ウィルス学者ドロステン教授に似ていますね?という問いに、「全くの偶然です(笑)。それにしても伝統工芸を手がけてきた中で、まさかウィルスを作るとは思いもしなかった」(ギュンター氏)

■クリスマスグッズのパイオニア


 

東部ザクセン州エルツ山地は、木製のクリスマスグッズや玩具制作の故郷。チェコとの国境に近いこの一帯は、国内で最も有名なクリスマスグッズ(ピラミッドやオーナメント、くるみ割り人形など)を制作する伝統産業地区だ。玩具やクリスマスグッズの制作、販売、営業に携わる人は2000人に上る。

同地区に点在する工房はそのほとんどが家族経営。商売がたきではなく仲間としての繋がりも深く、持ちつ持たれつ共存している。今回紹介した煙出し人形の発祥地もエルツ山地だ。同地区の伝統工芸は2019年、世界文化遺産に登録された。

なかでも伝統工芸で最も知られるのはザイフェン。クリスマスには欠かせない木製くるみ割り人形は1870年、この街で初めて作られたという。

ギュンター氏の工房は、創業100年の歴史を誇る。1997年に父から家業を受け継いだ同氏は、従業員7名と共に手作り玩具やクリスマスグッズを制作している。

学者人形制作により従業員の仕事も確保できた。商品受注担当は、現在閉鎖中の地元ホテルに勤務する友人に依頼した。そしてギュンター氏は木工職人の追加募集を呼びかけ、エルツ山地伝統工芸の活性化に取り組んでいる。

ザイフェン伝統工芸協同組合ショールーム