ウクライナの基本知識

積極的にTwitterで発信することで話題のティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使に並び、Twitter界では最近セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使がウクライナの「力のシンボル」である「ブラヴァ」を持った画像がバズり、一躍有名になりました。ウクライナのイメージですが「チェルノブイリ、ロシアと紛争中、美女大国」、最近ではバイデン米新大統領の息子がウクライナの企業から莫大な報酬を得ていたという事で米大統領選にまで大きな影響を及ぼした国として知られています。しかし古くから旧ソ連の科学技術の中心地として大陸間弾道ミサイル(ICBM)、核弾頭、原子力発電所、ソユーズロケット、人工衛星などを製造した「理系人材の国」として知られています。欧米で広く普及しているスマホのチャットアプリのWhatsappやフィンテックで革新的な決済方法を提案したPaypalの創業者などの出身地として近年IT大国としても知られています。今年に入ってから世界最大の仮想通貨取引所のバイナンスと協力し、仮想通貨、ブロックチェーン技術の普及にウクライナ・デジタル変革省が積極的に取り組んでおり、行政サービスの電子化を始め先進的な試みを素早く実施しておりエストニアのような電子立国を目指しています。

ウクライナがはどのようにしてIT大国になったのか?

ソ連が崩壊した1991年以降、核兵器やロケット製造技術などはソ連の後継国としてロシアへ移管されました。そこで優秀な理系エンジニア達は国として以下に外貨を稼ぐかを模索しました。そこで行きついた結論は「IT大国になる」でした。1990年代に雨後の筍のようにウクライナではITアウトソーシング企業が誕生し、主に西欧や北米のシステム開発の請負をすることで同国のIT産業は急成長しました。今現在でも数千人規模のウクライナのITアウトソーシング企業は殆ど1990年代に誕生しています。かつてはウクライナなどの東欧とアメリカのシリコンバレーの賃金差は10倍以上あったとされ、安いプログラマの人件費を追い風にウクライナIT業界は成長を続けます。ウクライナは2004年のオレンジ革命、2014年のユーロマイダン革命などで自国通貨と産業が弱くなりますがそんな中でもIT産業はスローダウンすることなしに発展を続けてきました。理系技術者は高い給与を求めIT業界に次々に雪崩れ込んでいます。

近年のウクライナIT業界の傾向

主に欧米のソフトウェア工場、下請けとして発展を続けて来たウクライナIT業界ですが近年大変面白い動きがみられます。それはウクライナ初の「プロダクトカンパニー」そして「ユニコーン企業」が続々誕生している事です。これはウクライナのIT産業が成熟期に入ってきたことを意味します。人口約4500万人というロシアを除く東欧最大の人口と広い国土を誇るウクライナには首都キエフ、西部の古都ルヴィウ、そして東の工業都市ハルキウの大きく三か所に大きなITクラスタが散らばっています。各地でスタートアップのインキュベーション組織やファンドレイジングの環境も整いつつあります。主なウクライナ発のユニコーン企業ですが現在GitlabGrammarlyそしてAmazonに買収されたRingなどが有名です。他にもオンライン語学学習アプリのPreply、リアルタイムのAIによる顔すげ替えアプリのReface、留守中のペット監視カメラアプリのPetcube、AIを利用した画像編集アプリ・ソフトのSkylumなどウクライナ企業と知られていないユニコーン企業候補が続々現れています。これらの企業の殆どが資金調達やマーケティングの為、アメリカに登記しています。しかし中身は殆どウクライナ人という企業が多いです。ウクライナのITコミュニティ及び企業は政府の援助に頼らず、国内市場が小さいことから最初から海外をマーケットと認識しており、立ち上げ当初からグローバル展開を狙っていることも特徴的です。

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高い教育水準

ウクライナには旧ソ連の良い遺産を受け継いでいる高度な理系人材を輩出する工科大学がそこら中にあります。最初期のヘリコプターを開発したことで知られるイーゴリ・シコールスキイはキエフ生まれのウクライナ人でキエフ工科大学で学びました(後にアメリカへ移民)。キエフ中心部に位置する同大学の周辺には筆者が現地代表を務める開発チームのオフィスを始め、IT企業が集積しており、さながら「キエフのシリコンバレー」のような様相を呈しています。これは同大学の学生をインターンとして雇用する企業がキャンパス周辺に多いからです。毎年2万人もの理系卒業生がIT業界に向かいます。他業界より高給で英語力や世界に通用する技術や経験を積めるIT業界はウクライナの若者に大人気です。人口4500万人のうち実に20万人がIT技術者と言われており、他業界からの転職も非常に多いです。

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次々と進出する日本IT企業

筆者は2018年12月にウクライナへ移住したのですがそれ以来日本IT企業が次々にウクライナへ進出しています。代表的なところではネオキャリアの子会社である株式会社ネオラボ(現地でAI、画像認識を主とする研究開発センターを設立)、楽天株式会社はメッセンジャーアプリのViberを買収し、ウクライナのキエフとオデッサに巨大な研究開発センターを作っています。その他にもソフトバンクグループ会長孫正義氏の弟である孫泰藏氏のMistletoeが出資をしている数々のスタートアップ企業を輩出した伝説のエストニアのコワーキングスペース、インキュベーションセンター、スタートアップコミュニティのLIFT99が去年(2019年)エストニア外の初の拠点をウクライナのキエフに設立しました。エストニアのスタートアップ企業の多くがウクライナにR&D開発拠点を置いているためです。近年日本企業は伝統的なオフショア先であるベトナムや中国での人材確保に苦労しており、ウクライナに次々に目を向けています。特に高度な数学、理系教育の素地を必要とするデータサイエンス、AI、サイバーセキュリティ、クラウド、ビッグデータ解析などの分野で豊富な優秀な理系人材を確保できる国として日本のみならず世界中の注目を集めています。しかし残念ながら日本企業は保守的な企業が多く、稟議が遅々として進まず、カントリーリスクが実際以上にハイライトされているため尻込みする場合が多いのですがそうしている間にも欧米企業のみならずお隣の中韓企業はどんどんウクライナにR&D拠点を作りつつあります。

進出しているシリコンバレーや多国籍企業

ウクライナには日本企業のみならず韓国のサムソン電子、中国のファーウェイ、ドイツのシーメンス、アメリカのボーイング、WIX、Snapchat、Amazon、Vemeo、Microsoft等数えきれない程の企業が進出し開発センターを置いています。英語を解し、世界的に一般的に普及している開発メソッド、アジャイル開発のマインドセットを持っており、独創的で自発的なエンジニアの多さが主に欧米企業との開発プロジェクトで非常に好まれる要因です。日本IT企業はこうした世界で一般化されているITプロジェクトマネジメントがまだ完全に普及していない点からウクライナIT企業との協業においてチャレンジも多数ありますが日本が従来のハードウェアのみならずソフトウェア大国として生き残り続けるためにはウクライナが非常に重要になってくるであろうと筆者は考えます。「東のハードウェア工場」が中国なら「西のソフトウェア工場」がウクライナなのです。

ウクライナ進出はまだまだ日本企業にとってブルーオーシャン

従来のインド、ベトナム、中国などのオフショア開発センターは人件費の高騰や人材の確保の難易度が上がってきており特に日本企業は次なるソフトウェアの開発拠点を血眼になって探しています。その中でも人件費、ソフトウェア技術と経験のバランスがとれたウクライナはこれから日本企業が殺到することが予想されます。日本IT企業は現地にはまだ数社しか進出しておらず、まさにブルーオーシャン状態と言えます。進出するなら今が一世一代のチャンスではないでしょうか?

Ago-ra IT Consulting 柴田裕史へのご連絡は下記まで:
hiroshi.shibata@ago-ra.com

HP: https://ja.ago-ra.com/

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