まさかの10年に一度のビザの書き換えがロックダウンに重なった
ビザ(滞在許可証)は、長期で海外に在住する者の命綱とも言えるもので、しかも、その更新手続きの憂鬱さは、経験したことがある人には、集める書類の煩雑さに加え、その対応の悪さから、海外生活において、最もうんざりすることが多い手続きの一つです。また、そのルールについても不明確で、解釈のしようによってはどうにも受け取れるような不明確なものもあり、以前にイギリスに留学した時など、入国の際に同じタイミングで同じ条件で入国しても、担当する係官によって、そのまま空港でポンとハンコをついて、無料でビザをもらえる人もいるかと思うと、入国後に外国人登録オフィスに出向いて、高額な料金を支払わなければならなかったりした意味不明なこともありました。いずれも、係官は高圧的で何の説明もしてくれないところから、ますます不安が募ることになります。
私のフランスでのビザは10年間有効なフランスでの労働許可が含まれているもので、10年に一度、更新手続きをしなければなりません。10年に一度のことなので、前回に経験した嫌な思いは、10年後には薄れてはいるのですが、それでもとにかくあの嫌な感じ、頗る感じが悪かったという強烈な印象だけは、10年後も残っています。フランスに住んでいる人で、この滞在許可証の更新手続きがとてもスムーズに感じよく進んだという人の話は聞いたことがなく、特別なツテでもない限り、誰もが少なからず、必ず嫌な思いをしています。
以前、パリに長く住んでいる日本人の独身の男性が、一生懸命に「二重国籍を認めて欲しい」という署名運動をしていたので、「なぜ、二重国籍が欲しいの?」と聞いたら、この「滞在許可証の更新手続きがとにかく嫌だから・・」と言っていたのに、唸ってしまったことがありました。
そして、運の悪いことに、2020年、コロナウィルスで世の中が混乱している年は、私の10年に一度の滞在許可証の更新手続きの時期に重なっていました。私の滞在許可証の期限切れは2020年の6月半ばまででしたが、いつもなら、数ヶ月前に送られてくる滞在許可証更新の手続きの呼び出し状が今回は、一向に送られて来なかったのです。書類が送られてくる時期がちょうど、3月半ばから約2ヶ月間のロックダウンに重なっており、お役所も閉鎖されていたために、その時期に手続きするべき人の書類は、山積みになっていたのです。いや、山積みにされるどころか、作られてもいなかったでしょう。
とにかく、平常時においても、とかく時間がかかるフランスのお役所仕事、それにしても、ビザが切れるのは、マズい!とロックダウンが解除になった5月の半ば頃から、私は焦り始め、まだ書類が来ないのはおかしい・・とサイトを調べてみると、私の滞在許可証のちょうど前日の日付のものまでは、自動的に数ヶ月は延長になるので、サイトで手続きして下さいと書いてあり、1日ずれている私は、「どうすんのよ!」と思って電話をしたところ、「サイトを見てください!」と一言だけ言われて、(書いてないことを聞きたいから電話してんだろ〜が!!と思ったけど・・)ガチャンと電話を切られ、もしかしたら、たまたま悪い人に当たってしまったのかもしれない・・と別の日に電話をしても、やはり同じ対応で、途方に暮れて、仕方なく役所宛に事情を説明するメールを送ったのです。
すると、しばらくして、今は、手続きが滞っているから、そのうちレターが届くまで、そのままで良いですとの回答が来たので、落ち着かない状態ではありましたが、待っていると、それから一週間して、更新手続きの呼び出し状が届きました。
手続きの役所の感じの悪さと高圧的な態度
今回の呼び出し状には、かなり細かい日時に加えて窓口の番号まで指定してあったので、少しはマシになったのかも・・と微かな期待を秘めつつ、必要な書類を揃えて出かけると、外には長い行列ができていて、時間や窓口まで指定されているのに、何の行列なのか?なぜなかなか中にも入れてもらえないのか?意味がわからず、入り口にいる人に聞いても、「あなたは、時間がまだ早いから待って!」というだけなのです。しばらくすると中から出てきた女性が、ガナリ立てるように呼び出し状を回収して回り、「全員、ちゃんと並んで!」と威張りだし、そんな中でも、横入りしようとする人も現れ、それを統制するためにますます声を張り上げ、威圧的になるのでした。もう少し言い方があるだろうに・・まるで、犯罪者を追い立てるような態度です。
「あ〜〜これだった・・この嫌な感じ・・」説明がない上に、予定どおりでもない感じ。人種差別とは思いたくはありませんが、外国人に対して、威圧的な蔑んだような態度に出るこの種の職種の人たちを10年ぶりに思い出した気がしました。フランスでの普段の日常生活では、ほぼ差別的なことを感じることもありませんが、この時だけは、間違いなく、自分が外国人であり、蔑まされている立場であることを思わずにはいられません。
ようやく中に入れてもらえたのは、指定の時間をすでにかなり過ぎた時間、しかも指定されてあった窓口は締められています。これでは、呼び出し状の日時、窓口の指定は何の意味もありません。それから1時間近く待たされたところで、隣に座っていた女性に「あなたの予約の時間は何時?」と聞かれたので、11時と答え、「あなたは?」と聞き返すと、なんと彼女の予約は「9時」。その時点で彼女はすでに3時間も待っていたのです。気が遠くなる思いでした。黙っていてはいつになることやら・・と「一体、どうなっているのか?」と聞きに行くと、「順番ですから・・」と言われたものの、まもなく私の名前が呼ばれ、ようやく手続きにこぎつけたのです。これでは、「順番とは、文句をつけにきた順番なのか?」と思ってしまいます。フランスでは、何事も黙っておとなしくしていては、泣きを見るのです。しかし、その後、おとなしくしていなくても泣きをみることになるとは、その時はまだ、思ってもみませんでした。
実際の手続き自体は、用意してきた書類を渡し、いくつかのサインをし、両手10本分の指紋認証をするだけで、特に用意してきた書類についてなどに質問されることもなく、その場で10分ほどで、正式な滞在許可証が発行されるまでの仮のカードを発行してくれました。「カードができたら、SNSで連絡しますから、それまではこれを持っていてください。」と渡された仮のカードの有効期限が2021年の1月5日迄と、異様に長くなっていることに、ちょっと嫌な予感はしましたが、「とにかく数ヶ月分の書類が溜まっているのだから、仕方ないのかも・・」と自分を納得させつつ、とりあえずは仮のカードをもらって、ひと心地ついたのでした。
電話もダメ、メールも手紙も返事なし、連絡がつかないまま有効期限が切れる恐怖
それから、あっという間に時は過ぎていき、フランスは、10月末から11月にかけて、2度目のロックダウンに入りました。相変わらず、カードができたという連絡は入らず、何だか嫌な予感がしてきました。しかし、仮のカードの有効期限が切れているわけでもなく、私は、お役所からの連絡をひたすら待っていました。しかし、有効期限の一ヶ月前の12月に入っても、何の連絡もないことから、再び不安は募り始め、サイトで調べても、特別な遅延のお知らせもなく、仕方なく再びお役所に電話をすると、「外国人のビザに関しての問い合わせは、一切、電話では受け付けません!」と前回以上に冷たい態度で電話を切られ、それからメールで数回、問い合わせをしても、一向に返事は帰ってきません。
クリスマスから年末年始にかけては、いつにも増して働かなくなるフランスのお役所仕事、私は、年内には何とかしなければと必死の思いでした。「電話がダメだというからメールを送ったのに、それでも、返事がないってどういうことよ!」とやり場のない怒りをどうすることもできずに、今度は、役所宛に手紙を書留で送りました。しかし、年末年始、いよいよ年が明けても手紙に対する返事もなく、とうとう私の仮のカードの期限も切れてしまいました。これでは、私は「不法滞在者」です。このまま放置してよいはずはなく、健康保険等のあらゆる権利もなくなってしまいます。この更新手続きのトラブルのおかげで私は、年末年始にかけて、夜も眠れないほど不安な日々を過ごしました。「こんな嫌な思いをするくらいなら、もう日本に帰ろうか? だいたい、ビザがないのならば帰るしかないのではないか・・」などと、鬱々と考えたりしたのです。
役所の前に並ぶ外国人と警備の警察官 本人撮影=====
絶体絶命 もう法に訴えるしかない
電話はダメ、メールしても、手紙を出しても何の返答もなし、全くアクセスできない状況に、私は途方に暮れ、周囲の人に相談すると、皆、口を揃えて、とにかく、一度、直に行ってみた方がいいと言うのです。しかし、お役所の外国人受付には、警備の警察が常駐していて、予約のない人は一切、中に入れてもらえません。もしかしたら、書類を失くされたかもしれない・・と、書類をもう一度、全て揃え、入れてもらえなくても、受付に事情を説明した手紙と書類一式を預けて来ようと、一揃えを持って出かけましたが、案の定、中には入れてもらえないどころか、受付さえも、コロナウィルスの衛生対策のために閉鎖中と言うのです。まさか、その場の警察官に書類を預けるわけにもいかず、私は、絶望的な気持ちで家に戻ったのです。
これまでも度々、窮地に陥った時には、助けてくれてきたフランス人の友人に事情を説明して相談すると、彼女は、「ろくに働かないお役所の人のために、犠牲になってはいけない!絶対に諦めないてはいけない!」と言って、色々と調べてくれた結果、このようなトラブルは、現在、パンデミックの混乱の影響もあり、多数、勃発していて、これを抗議するためのデモまで起こっているとのこと。しかし、抗議してデモに参加したとて(しかも、このコロナウィルスが蔓延している状況でのデモなどもってのほか、私はすでにビザも切れ、コロナウィルスに感染しても医者にかかれるかどうかもわからないのです)事が解決するわけでもなく、いくらこのようなトラブルにあっている人がたくさんいようとも、それは何の解決にも慰めにもなりません。
彼女はこの種のトラブルの相談に乗ってくれる機関を見つけ出し、さっそく、事情を説明するメールを送ってくれました。すると、その機関はお役所とは違って、すぐに返信をしてくれて、弁護士を紹介してくれました。トラブルに関して、役所に一切のアクセスができないのですから、これはもう法に訴えるしかないという事です。
このまま引き下がることもできずに、私もいよいよ腹をくくって、一気に戦闘モードに突入。紹介された弁護士に頼もうと状況を説明する手紙や書類を用意し、明日には送ろうと思っていた矢先に、まるで何事もなかったように役所から「あなたの滞在許可証は、もうすでに出来上がっています。このナンバーを使ってサイトで予約を取り、225ユーロの収入印紙と期限切れの滞在許可証、仮発行のカードを持って、新しい滞在許可証を受け取りに来てください」というメールが入りました。これまでの半年間、特にこの一ヶ月間の私のイライラは一体、何だったのだろうか?と、朗報ながらに俄かに信じがたい気持ちでした。まさに弁護士に書類を送ろうとしていたそのタイミングに、以前に送った手紙かメールを一ヶ月近くたって、ようやくお役所は目にしたということなのでしょうか? しかし、もう疑心暗鬼の塊のようになっている私は、受け取りの予約を入れても、新しいカードをこの目で確認するまでは、安心できない気持ちでした。
まさかの永住許可・・
そして、受け取りの予約を入れた当日、また、時間の指定が、9時9分という分刻みの指定。「どうせ、時間を守らないくせに・・」と腐りながらも、こちら側の落ち度は認められないことから、私は、時間よりもかなり早くに、家を出ました。あいにく、その日は、RER(パリ地域の鉄道交通網)のストライキの予定もありました。時間よりもかなり早めに到着して、お役所もまだ開いていない時間ながら、門の外には長蛇の列。予約していない人以外は入れないのに、なぜこんなに行列? また、その行列に浴びせられる警官の怒声をもう今回は、シラけた気持ちで見ていました。
しかし、中に入ると、今回は、朝、早い時間の予約が取れたことで、それほど待たされることは、ありませんでした。(それでも30分くらい) 持ってきた予約の確認と収入印紙、期限切れのカードを渡すとあっさりと新しいカードが渡され、私は、記載に間違えがあってはいけない!とその場で、記載内容を確認しました。すると、カードには、CARTE RESIDENT PERMANENT(永住)と記載されていました。私は、特に永住希望を出していたわけでもなく、なぜ、私のカードが永住許可を含んだものになったのかはわかりません。調べてみると、「10年の滞在許可証を2回以上更新した場合は、申請可能」となっているのですが、特に申請しない場合でも自動的に永住扱いに切り替わることは、知りませんでした。とにかく、一先ず、この永住云々は、私にとっては、文句をつけるものでもなし、ホッと胸を撫で下ろして、私は、半年ぶりにようやくカードを受け取ったのです。
責任の所在がわからない
私の滞在許可証は、すでに、前から出来ていた模様で、単に連絡漏れだった模様です。しかし、実際に私がコンタクトした人は、書類を渡した人、カードを渡してくれた人だけで、私のカードに関するトラブルが一体、どこで、起こっていたのか? どの時点で問題が起こっていたのかを聞いても、それらの人々の関知するすることではありません。こうして、役所がクレームを一切、受け付けないことから、トラブルは、まるで、何事もなかったかのように消えていきます。実際に弁護士の力を借りて、訴えていたら、違うこともわかっていたかもしれないし、さらに嫌な思いをしたかもしれません。しかし、役所側の問題が浮き彫りにならずにいることは、この種の問題が日常化しても致し方ありません。役所側の問題が改善されることはありません。今年は、日頃から問題の多いビザの更新手続きに関わるお役所仕事のいい加減さに加えて、コロナウィルスによる混乱から問題はさらに増加しているようです。
この10年に一度の滞在許可証(ビザ)の書き換えは、私がフランスにいて、最も自分が外国人であることを思い知らされる瞬間です。半年にわたるトラブルで、思わず私が、「私もフランス人だったら、こんな思いをしなかったのに・・」とボヤいたら、娘に、「ママは、こんなこともちゃんと出来ない国の国民になりたいの?」と一喝されました。言われてみたら、それもその通りです。日本における外国人のビザの扱いがどのようになされているのかは、わかりませんが、フランスのような酷い状況ではないのではないかと思います。だいたい、あんな嫌な感じの人たち、なかなか日本では見ませんから・・。以前に日本の実家のある区役所に用事で行ったら、外国人受付なるものがあって、英語を話す職員が常駐しているのに驚いたことがありました。
私の次回の滞在許可証の書き換えは、10年後の2030年になりますが、その時まで私がフランスにいるか? はたまた生きているのかすらわかりませんが、二度とこのような思いはしたくありません。