オランダに留学し、一人暮らしを始めてから、スーパーで買い物する機会が増えた。日本ではあまり使われていないのか、はたまた私が注意を払っていなかっただけなのかわからないけれど、オランダには沢山の「エコラベル」が食品に貼られていることに気が付いた。
前半ではそれぞれの認証制度を紹介し、後半(2ページ目)では色々な制度について調べて私が感じたことを綴る。なお、今回紹介するのはオランダの乳製品市場で出回るラベル(の一部)だが、青果・チョコ・茶・美容品など他の製品にも沢山のラベルがある。気になる方がいたら後ほど紹介しようと思う。
今回紹介した認証制度は、サイトの一覧を記事の終わりに載せておいた。
安定、王道 EUの法律に基づいたオーガニックと、オーガニック市場を盛り上げるEKO認証
EU欧州連合のオーガニックに関する法律は、主に生産の技術・資材について定めている。これに基づいて生産された農作物や加工品は、EUオーガニックロゴで記される。
対してEKO認証はオランダ独自のもので、EUオーガニックよりも高い基準だ。取り組み例として、買い手へのコミュニケーションや輪作・ヨーロッパで栽培された飼料の使用等がある。生産技術を規制するだけでなく、オーガニック市場全体を盛り上げようとしている印象を受ける。
オランダではSkal-Biocontroleという機関がオーガニック認証を、Skal認証を受けた団体Stichting EKOがEKO認証を管轄している。これら二つの認証制度の違いは前回の記事で詳しく解説した。
農業の女神に見守られる認証制度
オーガニックを超え、最高峰の基準とも言われている認証制度、その名もDemeter。彼女はギリシャ神話に登場する農業の女神である。Demeterマークの付いた商品は、「バイオダイナミック農法」の信念に沿って生産されている。営農と自然に対して包括的なアプローチをし、農場が一つの完結した(閉鎖的な)生命体であることを目指す。
一生命体としての農場には動物が不可欠だ、という考えがバイオダイナミック農法にはある。従って、畜産業に関する制度にしては珍しく、単位面積当たりの家畜の数の最低基準を設けている。家畜が植物を食べ、その糞尿が土にかえることで閉鎖的な循環を完結させることができると考えるからだ。もちろん家畜の数の上限もあり、その放牧地が自力で養える(牧草を供給できる)こととされている。
酪農家では飼料の最低6割は自給もしくは別の農家と協力して飼料と糞尿を交換すること、また飼料の最低7割はDemeter認証(残り最大3割はオーガニック)にすること。その他にも、除角や遺伝子組み換えの禁止・群れに牡牛を一頭含むことの推奨などがある。
ただ単に商品を売るだけに、基準の抜け穴を見つけてDemeterブランドのいいとこどりをすることを避けなければいけない、と手引きにハッキリ記されている。それだけ信念が大切にされているということだろう。
Demeter認証は1999年に始まった。国際機関が最低基準を設定し、各国の機関が同等かそれを上回る基準を定めるている。
動物福祉団体による三ツ星☆☆☆Beter Leven
De Dierenbescherming(動物保護)というオランダの団体が管理しているBeter Leven(より良い生活)乳製品の他にも、肉や卵製品に適応される。遺伝子組み換えの飼料の禁止・水質管理・抗生物質投与の制限・牛舎の大きさなど、主に動物の健康や福祉に関する基準を設けている。
一つ星から三ツ星まで段階的な認定制度で、慣行農法では一つ星さえ得られない。EUオーガニック認定を受けた製品はBeter Leven三ツ星に該当するが、動物福祉においてはBeter Levenの基準の方が高い場合もある。例えば、Beter Levenの三ツ星では放牧の基準は年間180日・一日8時間だが、オーガニック及びEKOでは120日・6時間だけで良い。
野鳥保護団体がGoed voor natuur en boerenlandvogels
「自然と農地の鳥にやさしい」認証が始まったのは2017年の3月。25の酪農家で構成され、Demeter認証を受けているZuiver Zuivelという乳製品生産団体が、Vogelbescherming Nederland(オランダ・鳥類保護団体)に提案して共同開発した制度である。
「Een stap verder dan biologische」(オーガニックよりも一歩先)というスローガンを掲げている。オーガニックは最低条件ということだろう。取り組みとしては、イネ科の草以外の草も放牧地に生やすこと、6月中旬まで草を刈らないこと、などがある。
放牧 Weidemelk
最低で年間120日、一日に6時間(もしくは合計で年間720時間)放牧地に乳牛を放つことが条件。Stichting Weidegang(放牧機構)が管轄している制度で、2007年に始まった。
この放牧の最低基準は、EKO認証・On the way to PlanetProof・Beter Levenなど他の制度でも定められているため、Weidemelkは他の認証の一部を切り取ったものという認識で良いだろう。
オランダ生まれ・世界最大級の酪農協同組合が考案した「地球保証への道」
On the way to PlanetProof(地球保証の道)は、2015年から野菜・果物バージョンが存在した。その乳製品版は、オランダの酪農協同組合FrieslandCampina(フリースランドカンピーナ)がStichting Milieu Keur(環境保証機構)に提案して作られ、2018年に適応されるようになった。
動物・生物多様性・環境という3つの柱から成り立っていて、それぞれに最低基準・一般基準・最高基準が設けられている。最低基準を満たすのは酪農家の75%、一般基準を満たすのは50%、3つの柱のうち最低一つで最高基準を満たすのは10%。つまりオランダの酪農家の10%がこの認証を得ることができるらしい。例を挙げると、
一般基準→グリフォサートを使用しないこと・再生可能エネルギーの使用・牛のブラシの設置
最高基準→タンパク質源の自給・自然景観の保護・健康モニタリング。
ドキュメンタリー番組でのインタビューによると、On the way to PlanetProofの基準はより多くの酪農家の手が届くように緩めに設定されているらしい。あまりに高すぎると、農家のやる気が出なかったり、参加する人が少なく意味がなくなったりするためだという。
国内大手スーパーマーケット独自のBeter voor Koe, Natuur en Boer
Albert Heijnというスーパーの自社ブランドの商品に付けられるマーク、Beter voor Koe, Natuur en Boer(牛・自然・農家に良い)。2017年に導入された。
名前の通り3つの柱(動物・自然・農家)に基づいていて、取り組みとしては例えば動物→放牧 放牧地の牛密度の上限(1ヘクタール当たり2.5頭) 自然→昆虫ホテルの設置 遺伝子組み換え飼料を使わない 抗生物質を予防目的で使わない など
次ページ:溢れる認証制度に関して感じたこと。辛口のコメントも→→
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ここまで調べてみて、いろいろな感情や考えが湧いてきた。
ややこしい
乳製品に限っても、これだけの種類の認証制度がある(今回紹介しなかったものも)。買い手にとっては、どの制度を信用していいのか、どの制度の基準の方が高いかなど、明確でないことが多くてややこしい。
オーガニック牛乳は PlanetProof「地球保証」ではないが、「地球保証」ではないからと言って地球環境を考慮した取り組みをしていないわけではない。ラベルの名前も混乱の一因だろう。
かつ、マーケティング戦略のややこしさがある。例えば認証制度AよりもBの方が基準が高いとしよう。しかしAの方が消費者へのコミュニケーションが上手く、Bよりも環境にやさしいという印象を与えられた場合、Aの方が消費者から支持を得ることができるだろう。
ただ興味深いことに、オランダの消費者は他のEU加盟国に比べ、「情報が足りない」「わかりやすいラベルが足りない」ことが少ない。さらに少し古いデータだが、2009年の調査によると「企業による、自社商品の環境への影響に関する主張を完全に信用する・どちらかというと信用する」という消費者の割合が比較的高い(オランダ78%・EU全体49%)。
「いい気分」にさせているだけ
これらの認証制度が産業全体の基準の底上げにつながること、そして見せる力・伝える力が大切なのは否定しない。
しかし、最低限の基準を設けて、ラベルを貼っておけば売れる。プレミアム価格を払わせる手段としてラベルを使うこともできる。マーケティング戦略しての「エコ」・うわべだけで抜け殻となった「エコ」。大して既存商品と変わらないのに、この商品なら自分も「エコ」な社会に貢献できる、という気にさせてしまう可能性は否定できない。素直さが欠けてしまう気がして不信感を抱く原因となっている。
そのような中、例えばDemeter認証は「ただ単に商品を売るだけに、基準の抜け穴を見つけてDemeterブランドのいいとこどりをすることを避けなければいけない」と述べているため、信頼できると私は思う。
お金はどこに流れるのか
いわゆる「エコラベル」が貼られた商品の店頭価格は、貼られていないものより高いことが多い。付加価値に対して買い手がプレミアム価格を払うのと、ラベルを使用する団体が認証制度の管理団体にライセンス料を払うなどで、ラベルのビジネスモデルは成り立っている。ではこれらの活動で得られた利益はどこにいくのか。
認証制度が掲げる動物福祉・自然保護・鳥類保護の活動に投資されるのか。
プラスαの取り組みをしている農家・農業経営体がより良い収入を得られるようになるのか。
はたまた、ラベルを管理する多国籍企業や大手スーパーの利益・株主のポケットに入るのか。
買い手は何に対してプレミアム価格を払っているのだろうか?
価値観は人それぞれ。だからこそ「エコ」「サスティナブル」と軽く語りたくない
動物福祉か、野鳥保護か、農薬の使用か、農家の生活を支える 何を大切にしたいか、優先順位は人によって違う。もう少し踏み込んだ、賛否両論ある話でいうと、人によっては遺伝子組み換えが、完全菜食が、ハイテク農業が「サスティナブル」の最先端だという人もいる。
全て完ぺきな人はいないし物もない。というかそもそも、完ぺきとは何が基準でそう言えるのだろうか。
正解がない世界だからこそ、買う人には調べて知って、自分で選択するということが求められていると思う。
ラベルは単なる手段。本の帯の「○○賞受賞!」というマークに過ぎず、物語の内容やそれが自分の好みに合ったものか、作者はどのような思いで筆を運んだかなどは、実際に本を読んだり作者の話を聞いたりしないとわからない。
それぞれの認証制度のサイト:
EUオーガニック https://ec.europa.eu/info/food-farming-fisheries/farming/organic-farming/organic-production-and-products_en#organicproductionrules
EKO https://www.eko-keurmerk.nl/
Demeter https://www.demeter.net/
Weidemelk https://www.weidemelk.nl/nl/
Beter Leven https://beterleven.dierenbescherming.nl/english/
On the way to PlanetProof https://www.planetproof-international.eu/527/home.html
Beter voor Koe, Natuur en Boer https://www.ah.nl/over-ah/duurzaamheid/onze-ketens/zuivel
Goed voor natuur en boerenlandvogels https://www.zuiverzuivel.nl/goed-voor-natuur-en-boerenlandvogels/







